旅の+one

人生と共に歩むメロディー、スティーヴィー・ワンダー『Signed, Sealed & Delivered』

【@TRAVEL MUSIC】

文/永澤和真 撮影/安永ケンタウロス

スティーヴィー・ワンダーの「Signed, Sealed, Delivered I’m Yours」は、僕の記憶に最も深く刻み込まれた1曲だ。

 
4歳の頃、愛媛県の大三島にある祖母の家近くで釣りをしていたときに父が流してくれたのが、この楽曲との出合いだった。父は「この曲をかけると大物が釣れる気がするねん」と言っていた。実際に釣れたのは比較的大きめの流木だったが。歌詞の意味、楽曲のジャンルなどは一切わからなかったが、ファンキーに歌い上げるスティーヴィー・ワンダーの声音、そしてゴスペルチックに楽曲を彩るコーラスは4歳の子ども心にも素晴らしい響きだと感じられ、耳に熱く染み渡るようなサビのメロディーに瞬時に心打たれた。

 
イントロではシタール・ギターによる独特な音色がキャッチーなフレーズを奏で、リスナーを魅了する。2小節はあえて非常に音数の少ないパーカッションとシタール・ギターのみで構成することでイントロフレーズをより際立たせ、スティーヴィー・ワンダーのシャウトをきっかけにベースがユニゾンし、ブラスとドラムフィルがたたみかける。その一体感があたかもライブ会場にいるかのような臨場感を生み出す。わずか4小節で楽曲のフィールドを展開するという、まさしく理想的な構造が、耳に残るイントロフレーズと化している所以である。楽曲タイトルを知らない人でも「あー! これね!」と思うのでは。

 
音楽家になると本気で決心した高校2年のときも、専門学校時代のスタジオ研修でロサンゼルスに降り立ったときも、スティーヴィー・ワンダーの魂のこもったシャウトは僕の心を奮い立たせてくれた。今でも夜道を歩きながら聴くのだが、あのフレーズはさまざまな感情と情景を呼び起こし、僕を時間旅行へ誘う。人生のありとあらゆる空間、瞬間を、いつも輝かせてくれるこの楽曲を、これからも忘れることはないだろう。

 

『Signed, Sealed & Delivered (邦題:涙をとどけて)』
スティーヴィー・ワンダー

 
永澤和真
ながさわ かずま/agehaspringsグループのaspr所属。作曲家・編曲家。専門学校時代よりプロのアーティストに楽曲が起用され頭角を現す。現在は、GENERATIONS、Aimer、佐藤千亜妃をはじめ、さまざまなアーティストへの楽曲提供・アレンジを手がけるのみならず、ドラマや CM、大型フェスの音楽を担当するなど活動の幅を広げている。

 

(SKYWARD2020年7月号掲載)
※記載の情報は2020年7月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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