半島彩発見

【津軽半島】心を揺さぶる北国の旅情!絶景と湖海の幸を満喫する

文/大沼聡子 撮影/大泉省吾

津軽海峡をのぞむ半島の多彩な魅力

本州北端の西側に位置し、下北半島と向かい合うようにして津軽海峡に突き出している津軽半島。

 
青森空港から北上すると、広がるのは津軽平野の田園風景だ。夏は一面がみずみずしい緑色に染まり、秋には黄金色(こがねいろ)の稲穂が揺れ、日本らしい美しい風景に心が洗われる。そして、半島の北端にまで足をのばせば、見渡す限りの空と海。晴れた日には、津軽海峡越しに北海道の松前半島や函館山まで見ることができる。

 
さらには、三厩湾(みんまやわん)や十三湖(じゅうさんこ)といった湖海の幸、祭りの文化も、津軽半島を訪れる楽しみ。北国ならではの多彩な魅力を感じながら、旅してみよう。

 

昭和の名曲に歌われた「龍飛崎」へ

▲「龍見橋(たつみはし)」を渡った先にある展望台からは、こんな絶景を眺めることができる。

 
旅の始まりは、半島にやってきたことを実感できる「龍飛崎(たっぴざき)」から。津軽半島の最北端にあり、津軽海峡に突き出しているこの岬は、心地よい潮風が吹く絶景ポイント。ドライブルートとしても人気の高い国道339号線「竜泊(たつどまり)ライン」を北上すると、眺望の異なる展望スポットが点在し、心躍る散策コースが待ち受けている。

 
シンボルになっているのは「日本の灯台50選」にも選ばれている、白亜の「龍飛埼灯台」。そのすぐ近くには、歌手・石川さゆりが歌った昭和の名曲「津軽海峡・冬景色」の歌謡碑がある。碑に備えられたボタンを押せばおなじみのイントロから始まる曲が大音量で流れ、龍飛崎の愛称である「竜飛岬(たっぴみさき)」も歌詞に登場する。津軽海峡を目の前にして耳を傾けるからこそ、いっそう胸打たれるのだ。

 

▲多くの人がじっくり曲に聴き入る「津軽海峡・冬景色」の歌謡碑(上)。「龍飛埼灯台」(下)と並ぶ龍飛崎の名所だ。

▲多くの人がじっくり曲に聴き入る「津軽海峡・冬景色」の歌謡碑(左)。「龍飛埼灯台」(右)と並ぶ龍飛崎の名所だ。

 
国道でありながら、日本で唯一車の往来ができない「階段国道」も、この岬の見所。もともとは地元の人々の生活のための道だったが、国道339号線に昇格した際に階段国道として整備された。丘から海へと続く362段の階段は、四季折々の自然も楽しめるので、ぜひ足をのばしてほしい。

 

▲海へ降りていく階段の途中に「国道339号線」の青い標識が立つ。

 

龍飛崎
住所:青森県東津軽郡外ヶ浜町字三厩龍浜
電話:0174-31-8025(龍飛岬観光案内所)
URL:https://aomori-tourism.com/spot/detail_66.html(青森県観光情報サイト)

 

「三厩マグロ」を豪快に鮨で堪能する

▲「秀鮨」の「みんまや鮪鮨」と「みんまや鮪丼」。どちらも味噌汁と香の物がつく。

 
龍飛崎から海沿いに西を目指し、やってきたのは外ヶ浜(そとがはま)の漁師町。ここには、全国のマグロ好きが訪れる「秀鮨」がある。昭和51(1976)年に開業したこの店の看板は、「三厩(みんまや)マグロ」の鮨。青森といえば、下北半島の「大間まぐろ」が全国的に知られるが、実は同じ海域で獲れる本マグロは、この町の三厩漁港にも水揚げされているのだ。

 
「このあたりは30~50mくらいの沖でマグロが釣れるんだ。だから、鮮度よく港まで持ち帰れるんだよ」と話すのは、店主の泉谷秀悦(いずみやひでえつ)さん。漁がある日は早朝から港へ出向き、水揚げされたばかりの新鮮なマグロを、熟練の目利きで一本まるごと買い付け。鮮度がいいうちに解体し、専用の冷凍設備でマイナス60℃で急速凍結。マグロだけで年間で1トン近くも扱うのだという。

 

▲上/店主の泉谷秀悦さん。下/「三厩マグロ」の鮨を食べた証に、オリジナルステッカーをプレゼントする遊び心あふれるサービスも。

▲左/店主の泉谷秀悦さん。右/「三厩マグロ」の鮨を食べた証に、オリジナルステッカーをプレゼントする遊び心あふれるサービスも。

 
赤身と中トロ、大トロ、巻物を盛り合わせた「みんまや鮪鮨」(3,000円/税込)を味わってみると、まずは赤身の甘さ、そして身質のキメの細かさに驚く。中トロ、大トロはさらにその繊細さが際立ち、脂がキレよくスッと溶けていく。外ヶ浜産で高評価を得ているブランド米「まっしぐら」を使った酢飯も粒立ちがよく、マグロの味わいを引き立てる。「マグロはやっぱり赤身。赤身が旨ければ、ほかも全部旨いからね」と、泉谷さん。夏から秋にかけては比較的あっさりとしていて、11月から1月に水揚げされるものは脂がのって味も濃厚だというから、季節ごとに訪れたくなる。

 

秀鮨
住所:青森県東津軽郡外ヶ浜町三厩新町35
電話:0174-37-2856(要予約)
URL:https://www2.hp-ez.com/hp/hidesushi/page11

 

「十三湖」のほとりで味わうしじみ料理

▲十三湖産のヤマトシジミが味わえる「しじみづくし」。「しじみラーメンは毎日食べても飽きない味」と、店主も太鼓判。

 
実は湖沼の多さでも知られる青森県。津軽半島が抱くのは、県で3番目に大きな湖、「十三湖」だ。海水と淡水が混合した汽水湖で、ここで採れる「ヤマトシジミ」は、津軽の名産品のひとつになっている。そんな旨味たっぷりのしじみ料理を堪能できるのが「はくちょう亭 奈良屋」だ。

 
この店を訪れたらぜひ、釜めしからラーメンまで、8種類のしじみ料理がひとつのお膳で提供される「しじみづくし」(2,480円/税込)を。注文が入ってから炊き上げるしじみご飯、濃厚な旨味が感じられるしじみ汁、お酒にぴったりのしじみのバター炒め……と、一生分を味わい尽くせそうなほどの量に圧倒される。しかも、一粒一粒がとても大粒で、食べごたえがあるのだ。

 

▲上/注文が入ってから炊き上げるしじみの釜めし。下/にこやかな笑顔が素敵な奈良千加子さん。

▲左/注文が入ってから炊き上げるしじみの釜めし。右/にこやかな笑顔が素敵な奈良千加子さん。

 
「みなさん、粒の大きさに驚かれますね。漁では専用の道具を使ってふるいにかけて、小さな粒は収穫せずに、湖に戻してあげるんですよ」と、店主の奈良千加子さん。窓際の席ではしじみ料理を味わいながら、十三湖の眺めを楽しめるのもうれしい。

 

▲しじみ漁の船が停泊する「十三湖」は、夕暮れどきの風景も美しい。

 

はくちょう亭 奈良屋
住所:青森県北津軽郡中泊町今泉字唐崎255
電話:0173-58-2816
URL:http://www.shijimi.net/

 

「立佞武多」の迫力に圧倒される

▲令和6年の新作「閻魔(えんま)」。「立佞武多の館」では作品の上から下まで、至近距離で眺められる。

 
五所川原(ごしょがわら)市で毎年8月初旬に開催される夏祭り「五所川原 立佞武多(たちねぷた)」。祭りの時期以外でも「立佞武多の館」を訪れれば、この地域ならではの巨大なネプタ(山車灯籠/だしとうろう)を見ることができる。

 
1階から5階までが吹き抜けになった「立佞武多展示室」へ足を運ぶと、ライトアップされて煌々と輝くネプタの迫力に、思わず息をのむほど。他の地域のネプタとの違いは、なんといっても23mという圧倒的な高さだ。「展示している作品は、五所川原市が制作しています。重さも19トンあるので、曳(ひ)き手は本当に大変なんですよ。ここでは新作も含めて、3年分の作品を保管も兼ねて常設展示しています。たくさんの人に見ていただきたいですね」と話すのは、同館のマネージャー、石川マミ子さん。

 

▲上/1階から見上げる「閻魔」。下/「歌舞伎十八番」を題材にした「暫(しばらく)」は令和3年の作品。

▲左/1階から見上げる「閻魔」。右/「歌舞伎十八番」を題材にした「暫(しばらく)」は令和3年の作品。

 
背面や側面にも繊細な絵や模様が描かれ、どの角度から切り取っても惚れ惚れするほど。ところが一度は廃れ、平成に入って復活したことを石川さんは教えてくれた。「五所川原は明治期から大正期にかけて栄え、豪商や大地主たちが競い合うようにネプタを巨大化させてきました。ところがその後、電気の普及で電線が張られたことで高さが制限され、小型化していったんです」

 
「巨大なネプタを見たい」と願う地元の人々の情熱が実を結んだのは平成10(1998)年。「立佞武多」という新たな名前を得て復活し、市民の心も明るく灯した。「ヤッテマーレ! ヤッテマーレ!」という掛け声まで聞こえてきそうな、祭りの迫力をぜひ体感しに訪れたい。

 

▲上/解体された令和元年の作品「かぐや」を前に、津軽弁混じりで熱く語る石川マミ子さん。下/館内の工房では「金魚ネプタ」などの絵つけも体験できる。

▲左/解体された令和元年の作品「かぐや」を前に、津軽弁混じりで熱く語る石川マミ子さん。右/館内の工房では「金魚ネプタ」などの絵つけも体験できる。

 

立佞武多の館
住所:青森県五所川原市大町506-10
電話:0173-38-3232
URL:https://tachineputa.jp/

 

ノスタルジックな「津軽鉄道」に揺られて

▲一面が緑に染まった津軽平野を突き進む津軽鉄道。沿線に生まれ育った太宰治にちなみ、「走れメロス号」と名づけられている。

 
地元では「津鉄(つてつ)」の愛称で親しまれている、「津軽鉄道」(つがるてつどう)。「津軽五所川原駅」と中泊町の「津軽中里駅」の区間20.7kmを南北に走る、日本最北の私鉄だ。

 
乗客を楽しませてくれるのは、季節によって表情を変えるノスタルジックでローカルな風情。夏は車内に涼やかな音色が響く「風鈴列車」が、冬はダルマストーブを設置した「ストーブ列車」が走る。春はレトロな駅舎の「芦野(あしの)公園駅」で、華やかな桜のアーチが列車を彩る。

 

▲「津軽五所川原駅」のホームで、涼やかに揺れる金魚ネプタ。

 
車窓から見渡せる津軽平野の美しい風景もまた、津鉄ならではの醍醐味だ。米づくりが盛んなこの平野は、見渡す限り一面に田んぼが広がる。風に揺れる青々とした稲穂はやがて金色に染まり、さらには真っ白な雪景色へと変わっていく。起点から終点まで片道35~45分ほど。津軽半島ならではの小さな旅を楽しんでみてはどうだろう。

 

▲レトロな車両に切符を買って乗車。切符は記念にもらうこともできる。

 

津軽鉄道
住所:青森県五所川原市字大町39(津軽五所川原駅前)
電話:0173-34-2148
URL:https://tsutetsu.com/

 

時間を忘れて楽しみたい津軽半島の旅

津軽半島で過ごしていると、思わず時間を忘れてしまう。いつまでも眺めていたくなる北国の風景、至福のひとときをもたらす美味との出合い。鉄道に揺られれば、どこまでも乗っていきたくなる。そして、訪れる先々で耳にする、温かみのある津軽弁も心地よい。この半島では、ゆったりと旅を楽しんでみるのもいいかもしれない。

 
※掲載施設の情報は変更されていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。

 

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