半島彩発見

【島根半島】心と体を潤す旅——日本海が紡ぐ至福の美食と息をのむ絶景

文・撮影/アントレース

(写真:PIXTA)

心安らぐ島根半島の大自然とご当地グルメの旅

四季折々に変化する美しい風景と、豊かな自然に恵まれた島根半島。青く広がる日本海の絶景や、夕日に染まる宍道湖の静けさに心が解き放たれ、美肌の湯として名高い「玉造温泉」で日常の疲れを取る至福のひとときを過ごし、地元の食材をふんだんに使った滋味溢れる料理で体も癒やされる。今回は、そんな穏やかな時間の流れる島根半島を巡る旅へと出かけよう。

 

山陰の海の幸を思う存分味わえる人気店「味処まつや」

▲鮮度抜群のネタをたっぷりのせた1日30食限定の海鮮丼。

 
山陰沖は、四季折々の豊かな幸を誇る漁場で、季節ごとに極上の旬の素材が揃うことで知られている。創業約70年の「味処まつや」では、日本海でとれた新鮮な食材を10種類以上のせた色鮮やかな海鮮丼を目当てに、昼前になると、地元の人々から観光客まで行列ができるほどの賑わいを見せる。

 

▲店内には、店主が描いた魚の絵が飾られている。

 
海鮮丼は1日30食限定。新鮮な紅ズワイガニ、松葉ガニ、境港から仕入れるマグロをはじめ、シメサバ、アジ、タコ、イカ、クラゲ、ホタテ、カツオ、甘エビなど、山陰の名物魚介が盛りだくさんで、ボリューム満点の一杯に仕上げられている。

 
松葉ガニのシーズンである11月から2月には、「松葉ガニ定食」も人気だ。近隣の境港で水揚げされた松葉ガニを1杯丸ごと味わうことができ、高い満足感を味わえる。

 

▲販売所が隣接。店の前には境水道が広がる。

 
食事の後には、隣にある販売所に立ち寄るのもおすすめ。ここでは、島根の土産品やカニ、地元魚介を使った加工品などが取り揃えられている。山陰の海の幸を味わうなら、常連客や県外からの観光客で賑わう「味処まつや」はぜひ一度訪れたい。なお、オンラインショップでは島根のおいしいものをいつでも取り寄せることができる。

 

味処まつや
住所:島根県松江市美保関町森山716
電話:0852-72-2327
URL:https://matsuya.shimane.jp/

 

もらった人がつい笑顔になる「どじょう掬いまんじゅう」

▲味は7種類。島根を含む山陰地方の生産者と協力して新しい味を生み出している。

 
「どじょう掬(すく)いまんじゅう」は、1967年に販売を開始し、『あらえっさっさー♪』の掛け声とともに始まる、安来節(やすぎぶし)の『どじょう掬い踊り』に使われるひょっとこの面と水玉模様の手ぬぐいを模した、島根県を代表する銘菓である。

 

▲ひょっとこ形の焼き上がったお菓子が並ぶ製造レーン。

 
年間約600万個を販売する「どじょう掬いまんじゅう」は、1686年創業の酒造業にルーツを持つ中浦食品が製造。現在3代目の代表取締役社長である鷦鷯(ささき)侑さんは、「奇をてらったものでなく、誰もがホッとする素朴な味を目指している」と話す。全国的に有名になったきっかけは、1991年に放映されたフランス人の男女が出演したCMだった。「どじょう掬いまんじゅう」という商品名が、フランス語に似ているというコンセプトのシュールなCMが、コンテストで大賞を獲得し、注目を集めたという。

 

▲手作業でひとつずつ、まんじゅうをチェックする。

 
アイデンティティともいえるその愛らしい形と表情、白餡の優しい甘さで、50年以上たった今も変わらぬ人気を誇り、県内外、さらには海外でも親しまれている。2000年以降は、島根県・鳥取県の名産品とコラボし、抹茶餡、鳥取県産白バラ牛乳を使用したミルクチョコ餡、島根県安来産紅ほっぺを使用したいちご餡、二十世紀梨餡、島根県津和野町産の栗のこし餡など、さまざまなバリエーションを展開。手に取ると、思わず微笑んでしまうほどの愛らしさが魅力のおまんじゅうである。

 

なかうら美保関売店(直売店)
住所:島根県松江市美保関町美保関599 美保神社前
電話:0852-73-0530
URL:https://sanin-nakaura.jp/pages/dojosukui

 

1300年以上愛され続けてきた「十六島海苔」

▲上/女性の黒髪に例えられる十六島海苔。下/冬の荒れる海で手摘みで収穫する。(写真:海産物松村提供)

▲左/女性の黒髪に例えられる十六島海苔。右/冬の荒れる海で手摘みで収穫する。(写真:海産物松村提供)

 

▲調味液を入れて、じっくり弱火で煮詰めて作る佃煮。

 
もうひとつ、島根半島で外せないご当地名物といえば、出雲市の「十六島海苔(うっぷるいのり)」。奈良時代に編纂された『出雲国風土記』の時代からその名を知られ、およそ1300年もの歴史を誇る、日本最古といわれる高級岩のりだ。冬の荒れた日本海に面した十六島鼻の岬周辺で収穫される極めて希少な海苔であり、収穫は12月から2月までの限られた期間に「シマゴ」と呼ばれる職人たちが、足場の悪い岩場にて命がけで摘み取っている。

 

▲香りが強い十六島海苔の素干しと、清酒を塗って焙った「十六島岩のり 焙り」。

 
十六島海苔をはじめ、地元の上質な素材にこだわった逸品を取り扱う「海産物松村」代表取締役社長の松村渉さんによると、「出雲地方では、新海苔として十六島海苔をお雑煮に入れる」のだそうだ。磯の香りが豊かな十六島海苔を100%使用し、出雲の醤油で丁寧に炊き上げた佃煮は、上品で繊細な味わいが特徴である。艶やかな黒さで、繊維のしっかりとした食感が口の中で広がり、一口食べれば磯の強い香りと深い旨味が余韻として残る。食べきりサイズの手軽さでありながら、十六島海苔の持つ高級感と伝統の味を存分に楽しめる一品として、近年ファンが急増中である。

 

岩のり工房(海産物松村 佃煮工場兼直売所)
住所:島根県出雲市平田町7618
電話:0853-62-5845
URL:https://www.iwanori.info/SHOP/tsukudani0020.html
※JAL Mallでも販売
URL:https://ec.jal.co.jp/shop/g/g0002-9275A/

 

歴史と自然が織りなす癒やしのひととき

▲玉造温泉街の中心を流れ、宍道湖に注ぐ玉湯川。

 
お腹も満たされたところで、温泉を目指して玉造へ。1300年以上前に開湯したといわれる玉造温泉は、古くから山陰屈指の「美肌の湯」として知られ、『出雲国風土記』では、一度入浴すると肌が若返り、二度入浴すれば病も治るとされ「神の湯」と呼ばれていた、と記述されている。湯は弱アルカリ性で無色透明、豊富に含まれる美肌成分メタケイ酸が、まるで天然の化粧水のように肌を潤す。

 

▲玉造温泉には3カ所の無料足湯が設置。足湯用のタオルも販売している。(写真:公益社団法人 島根県観光連盟提供)

 
「姫神広場」には、地元の人々も集う憩いの足湯が設置。屋根付きのため、天候を気にせずにゆったりと寛ぐことができる。また、「玉作湯神社」には、温泉の神様と勾玉の神様が祭られており、不思議な力を宿す「願い石」が古くから信仰を集めている。お守りの「叶い石」を願い石に当てることで、その力をいただくことができるといわれている。

 

▲中心に青めのうの原石が埋められている。(写真:公益社団法人 島根県観光連盟提供)

 
さらに、温泉街を流れる玉湯川には、青めのうが埋め込まれた勾玉形の小島があり、触れることで幸せが訪れると評判だ。歴史と自然が織りなす玉造温泉で、美肌と心の癒やしを叶えてみてはいかがだろう。

 

玉造温泉(玉造温泉旅館協同組合)
住所:島根県松江市玉湯町玉造255 玉造温泉ゆ~ゆ2階
電話:0852-62-0634
URL:https://www.kankou-matsue.jp/onsen/tamatsukuri/desc

 

夕日に染まる水面、時を忘れる宍道湖の美しさ

▲宍道湖唯一の島・嫁ヶ島は、約1200万年前に噴出した溶岩で形成。(写真:公益社団法人 島根県観光連盟提供)

 
島根県松江市と出雲市にまたがる周囲約47kmの汽水湖・宍道湖の夕日は必ず見ておきたい。その美しさは、訪れる者の心を静かに、しかし確実に捉えて離さない。夕日を背景に湖面に浮かぶ「嫁ヶ島」のシルエットは、まるで絵筆で描いたかのような幻想的な風景を生み出す。湖畔には遊歩道やテラスが整備されており、腰掛けてゆっくりと夕日を楽しむことができる。中でも「夕日スポットテラス」は、湖面に映る夕日を存分に楽しめる極上の観賞ポイント。静寂を求めるなら「嫁ヶ島」周辺がおすすめだ。

 

▲宍道湖に沈む幻想的な夕日。「袖師(そでし)地蔵」が二体佇む。(写真:公益社団法人 島根県観光連盟提供)

 
この夕景の名所で、ゆったりと夕日を眺めれば、まるで自分だけの特別な時間を過ごしているかのよう。そして見逃せないのが「袖師地蔵」。夕暮れ時、地蔵を前景に沈む太陽は、まさに時が止まったかのような神々しい光景をつくり出す。刻々と変化する空の色彩と、それを映し出すオレンジ色の湖面の輝き。宍道湖の夕暮れは、忙しい日常を忘れさせ、心を解き放ってくれる贅沢な時間となるだろう。

 

▲シジミをとる漁師は現在約270名で、漁は午前に行われる。シジミの漁業生産量は国内の9割を超えるという。(写真:公益社団法人 島根県観光連盟提供)

 
夕日を楽しむだけでなく、宍道湖ではヨットやカヌーなどの水上レジャーが体験でき、冬にはバードウォッチングも魅力的である。また、国内最大級の漁獲量を誇るヤマトシジミは、お土産としてもおすすめ。宍道湖の夕暮れ時に、美しい自然と共にこれらの豊かな味覚を堪能する贅沢なひとときを過ごしてみてはいかがだろう。

 

宍道湖
住所:島根県松江市、出雲市
電話:0852-27-5843(松江観光協会)
URL:https://www.kankou-shimane.com/destination/20270

 

「漁師小屋『麦穂』」で極上の海の幸を堪能

▲鯖に軽く火を通し、白髪ネギと一緒に味わう「鯖しゃぶ」。

 
島根半島の旅の締めくくりに食べたいのが、この地域ならではの贅沢な食文化を現代に再現した逸品、元祖「鯖しゃぶ」だ。漁師の知恵と工夫が詰まった料理が味わえる「漁師小屋『麦穂』」では、冬場、島根県出雲市平田町の小伊津港の漁師たちが漁師小屋に集まり、鍋で鯖をしゃぶしゃぶしながら酒を酌み交わしていたという風情をそのままに、鯖しゃぶを堪能できる。皮付きの鯖を薄く切り、玉ねぎや醤油、日本酒を軽く沸かした鍋にサッとくぐらせる。鯖の旨味と地元の醤油が絡み合い、まさに至高の一皿だ。

 

▲店主自身が20年前に味わった漁師の鯖しゃぶを再現している。

 
「暖流と寒流がぶつかる島根の海は、自信を持って日本一の漁場といえる」と話す店主の麦穂浩二さん。季節により使う鯖を選りすぐり、素材の味を活かしたシンプルな料理を提供している。さらに地酒を多数取り揃えており、麦穂さんがセレクトした地元の珍味とあわせて楽しむことができる。日本家屋を利用した個室は、まるで田舎のおばあちゃんの家にいるような懐かしさがあり、ほっと一息つける空間である。

 

▲どことなく懐かしさの漂う店内。

 

海鮮・炉端焼き 漁師小屋「麦穂」
住所:島根県松江市寺町188
電話:0852-67-2477
URL:https://ryoshigoya.com/

 

食と文化の伝統が息づく島根半島へ

悠久の歴史と豊かな食文化が織りなす島根半島。この地を訪れれば、時を忘れるような雄大な自然と、舌を唸らせる美食の数々を満喫できる。ここでしか味わえない特別な体験が、きっと心に深く刻まれることだろう。次の旅先は、ぜひこの魅力溢れる島根半島へ。日本の原風景と美食の世界が、あなたの訪れを待っている。

 
※掲載施設の情報は変更されていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。

 

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