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周防大島は瀬戸内のハワイ?
瀬戸内海の西の端、山口県柳井市から周防(すおう)大島にかけての一帯が、いわゆる「室津大島半島エリア」。今回は本州と橋でつながる周防大島をくまなく巡る旅に出た。取材時は夏。見所を訪ねてすぐに気付いたのが、アロハシャツ着用率の高さ。お店の方のみならず、地元住民と思しき皆さんも軒並みアロハシャツを着ているほどだ。
「周防大島は瀬戸内のハワイ」。そんなキャッチフレーズは確かに観光的には知られている。が、実はこれ、単なるイメージ戦略ではなく立派な裏打ちのある話。明治時代に日本とハワイ王国との間の協約により多くの移民がここ周防大島からハワイに渡り、その縁で今ではハワイのカウアイ島と姉妹島縁組を結んでいる。役場や郵便局が率先して「夏季はアロハシャツがフォーマル」を実践し、アロハな島になったのだ。そんな常夏気分の周防大島へ、レンタカーで旅に出た。
温暖な気候の恵みをジャムやお酒に
最初に訪ねたのは島の中ほどにある「瀬戸内ジャムズガーデン」。国道437号から脇道にそれて海辺に出ると、赤屋根の洋館が目に入る。園主の白鳥匡史(ただし)さんが営む、ジャムやレモンのお酒で人気の一軒だ。2003年にオープンして以来、すでに20年以上の時を経た。
「ジャム店を営むことになったきっかけは、新婚旅行先のパリで出合った壁一面にジャムが並んだ専門店です。いわゆる『いちごジャム』などの単品の果物だけでなく、創作系のジャムが多くあり、とても興味深く感じました」と白鳥さん。
例えば上の写真、手前のジャムも単なるマーマレードではなくて、「島生まれのせとみ蜜柑とゆずのマリアージュ」。果物は出始めから盛期を過ぎて終わり頃まで、その時々で酸味や甘みなどの味わいが変わる。「そうした個性を楽しみ、何をかけ合わせ、どう生かしたらおいしいか……。それを考えるのが本当に面白いんです」。
聞けば、周防大島では山口県の柑橘類の約8割を生産しているそう。だから白鳥さんが抱いた夢は、「ジャムだけでなく、柑橘のお酒も作りたかった」。そうしてイタリア・アマルフィでレモンのお酒・リモンチェッロを作っている人に教わって、店独自の「瀬戸内の生レモンチェッロ」も完成させた。イタリアではアルコール度数が30~40度と高めなのが普通だが、日本人にも飲みやすいように、12~14度の商品をメインに据えた。
店は2棟続きで、向かって左がショップで右がカフェ。カフェには芝生の美しい屋外席もあり、季節のジャムを使ったスイーツやドリンクを、海を見ながら楽しめる。のどかな島の雰囲気を味でも景色でも満喫できる、おすすめしたい一軒だ。
瀬戸内ジャムズガーデン 食 買物
住所:山口県大島郡周防大島町日前331-8
電話:0820-73-0002
URL:https://www.jams-garden.com
ローカル・ハワイを感じる人気レストラン
周防大島でハワイらしいランチといえば、まず思い浮かぶのが海辺のロードサイドにたたずむ「ALOHA ORANGE 本店」だ。国道沿いの人気店ゆえ、通りかかればすぐ分かる。白い板壁の平屋に向かい合う牛のロゴ。ハワイの雰囲気そのままで、気分も思わず上向きに。
期待どおりのアロハ姿で現れたのは社長の野口友希さん。「父が仕事でハワイ・カウアイ島の方々との架け橋の役をしていた関係で、僕も幼少時からハワイには親しみがありました。カウアイ島の皆さんが泊まりに来ることもよくあって……」。店はそんな野口さんだからこその本格派。「ウチの料理は本場の『カウアイ・メイド』にも認定されているんです」。
料理は自家製スモークベーコンが香ばしい「B.L.T.バーガー」や、レアステーキが溢れんばかりの「ギャング丼」などが人気。野口さんはかつて精肉の仕事をしていた“肉のプロ”で、基本のバーガーが「ブッチャーバーガー」と名付けられているのもそのためだ。
店では予約は取らないが、開店前の9時半頃には入り口前のウェイティングボードに名前を書ける。この日も開店と同時にたくさんの観光客・地元客が席に着き、あっという間に賑やかな雰囲気に。おいしい食事はもちろんのこと、窓外に広がる海の景色と相まって、憧れのハワイと変わらないゆったりとした時間の流れを楽しめる。
ALOHA ORANGE 本店 食
住所:山口県大島郡周防大島町日前34-2
電話:0820-80-4213
URL:https://alohaorange.com
道の駅からすぐの名所は、引き潮のタイミングで
風光明媚な周防大島の景色といえば、真宮島こそ外せない。「道の駅サザンセトとうわ」のすぐ裏の海に浮かぶ小さな島で、干潮時には砂州で陸続きになる。おおむね干潮前後3時間に渡れるが、満ち潮に向かう時は帰れなくならないよう気をつけて。
真宮島は渡った先に何かがあるわけでもないけれど、車を降りて少し歩いて海辺に出るだけで、瀬戸内の島の空気を存分に感じられる。道の駅には充実の物産直売所やレストランがあり、観光客や地元の人たちの憩いの場になっている。
真宮島 自然
住所:山口県大島郡周防大島町大字西方 「道の駅サザンセトとうわ」向かい
電話:0820-72-2134(周防大島観光協会)
URL:https://www.suouoshima.com/kanko/shingu.html
宿泊は周防大島随一の高級リゾートで
周防大島周辺は地図上では瀬戸内海のむしろ「西」だが、一帯の総称を「南」を意味する「サザンセト」としたのは実に秀逸。もとよりハワイに縁のある島で、気分はまさに南国だ。その南国を体現したおすすめのホテルこそ、2023年7月にリニューアルオープンした「マリッサリゾート サザンセト周防大島」。
島内でも道の駅からひと山越えた南側の浜辺に佇む。「対岸に見える陸地は四国なんですよ」と総支配人の野村歩(あゆむ)さん。「お客さまには『ハワイや沖縄に行かずとも、こんなに素晴らしいリゾートがあったんだ』とよく驚かれます」とも。
その言葉のとおりに全62室のリゾートホテルは開放感に溢れ、諸施設も充実。海に面した水盤・インフィニティラグーンの周囲には秋冬はスウェーデントーチが掲げられ、そこでホットワインが飲めたりもする。レストランで供される創作フレンチ料理は、瀬戸内の魚介や周防大島の旬の朝採れ野菜をふんだんに用いた、ここならではの味わいだ。
そして2023年12月からはサービスがオールインクルーシブになり、宿泊料金内にアルコールを含むドリンク、湯あがりのアイスキャンディーなども含まれるようになった。14時~16時は全ての宿泊者がウェルカムラウンジを利用でき、そこには軽食や生ビール、スパークリングワインなどが並ぶ。スパCafe、客室ミニバーなどの利用も無料。
館内には夏季営業の屋外プールと通年営業の屋内プール、エステティックサロン、ジム、天然温泉が引かれたスパもあり、優雅な滞在を堪能できる。まさに、とっておきのリゾートホテルといえるだろう。
マリッサリゾート サザンセト周防大島 体験
住所:山口県大島郡周防大島町大字平野1347-1
電話:0820-78-2121
URL:https://www.marissa-resort.jp/
話題の名物「みかん鍋」も味わって
柑橘類の島、周防大島の名物のひとつが「みかん鍋」だ。秋冬の観光の目玉として2006年に誕生したもので、島内の各飲食店で10月~3月の期間限定で味わえる。今回訪ねたのは「大島本陣茶屋」。大島大橋にほど近い高台に立ち、海峡と橋を望むロケーションのよさからドライブ客やツーリング客にも喜ばれている。すき焼きやキムチ鍋などから選べる「弍食鍋(にしょくなべ)」、しゃぶしゃぶなどでも知られる店だが、秋冬は「みかん鍋」も好評だ。
ゆず胡椒ならぬ「蜜柑胡椒」が必須の「みかん鍋」は、「店ごとに独自のだしを使っていて、ウチは和風で魚介の味を生かしています」と店長の近江和江さん。入れるべき材料などのルールが決まっており、「鍋奉行御用達」の焼印が入ったみかんや、みかんの果皮を練り込んだ地魚のつみれも必須。「そして、メレンゲを使った雑炊でしめるところまでが『みかん鍋』なんです」。
ところで、肝心の浮かんだみかんはいつ食べるのか。その問いには、駆けつけた周防大島観光協会事務局長の江良正和さんが答えてくれた。「雑炊にいく直前、ほどよく冷めた頃に皮ごと味わいます。お寿司のガリのようなイメージです」。誕生以来20年近くになる名物料理は、すっかりこの島の秋冬の風物詩になっている。
大島本陣茶屋 食
住所:山口県大島郡周防大島町西三蒲16-1
電話:0820-74-1066
URL:https://www.suouoshima.com/syokuji/honjin.html
「蜜柑胡椒」や、あおさの醤油をお土産に
みかん鍋に欠かせない「蜜柑胡椒」や、定番人気のあおさ入り醤油「あおさの醤油 彦右衛門」は、地元の老舗宿・千鳥旅館に端を発するグループ企業が作るもの。島内では「道の駅サザンセトとうわ」や日帰り温泉施設「竜崎温泉ちどり」で買うのが便利。
茶褐色の湯が溢れる大浴場と露天風呂が清々しい「竜崎温泉ちどり」は、1階の名産品販売スペースも広い。館長の山根信一さん曰く、「『蜜柑胡椒』は鶏のタタキや刺し身、秋冬の地元名物・太刀魚の鏡盛りにも使えます。『あおさの醤油』は卵かけご飯や、意外なところで、あおさ醤油のクリームパスタといったメニューにもいいですよ」。
旅の疲れを癒やした上で、帰った後に自宅で使える郷土の調味料をお土産に……。そんな絵に描いたような旅のコースが、ここ一軒で実現できる。
竜崎温泉ちどり 食 買物 体験
住所:山口県大島郡周防大島町大字東安下庄685-2
電話:0820-77-1234
URL:http://ryuzakionsen.info/
島の最奥で出合った「沖家室ひじき」
旅の最後に訪ねたのは周防大島の最奥、沖家室(おきかむろ)島で採れるひじきの生産者・榮(さかえ)大吾さんのお宅。榮さんが作る「沖家室ひじき」は冬場の漁期始めの限られた日に採る、選りすぐった新芽を使う質の高さで評判だ。通信販売で買えるほか、島内ではレストランサルワーレで購入可。店ではひじきを使ったピザやパスタも人気が高い。
移住組でもある榮さん、ひじき漁師になった経緯も面白い。かつて政府系金融機関に勤めていたが、「生涯現役で働き、自然の中で細く長く、自分の力で生きていたい」と考えた。集落支援員として周防大島と橋でつながる沖家室島に来たのをきっかけに、「やった分だけ成果が出る」ひじき漁に魅せられて、漁協の組合長を師と仰ぐ。
道のりは決して簡単ではなかったそうで、「当初は『ここは漁師町なのに、会議を忙しい大潮の日に当てるとは何事だ!』なんて怒られたりすることもしょっちゅうでした」と笑う。とはいえ本気で取り組むうちに、次第に周囲の人が応援してくれるようになる。師匠が榮さんのための漁船まで人づてに用意してくれたのも、最たるエピソード。
近頃はひじき漁だけでなく、自宅裏山の譲ってもらった畑でニンニクなども育て始めた。「豊かな山が豊かな海を育むのだと、昔の方はみな言います」。ひじきの取材でなぜ山に案内されるのかと疑問に思った筆者だが、目前に広がる里山と海の景色で腑に落ちた。「ひじきはあの沖家室島の裏まで徒歩で行き、真夜中に採るんです」。大量のひじきはその場に取り置いて、翌日に船で回収するという。重労働だと言いながら、目をキラキラと輝かせて話す榮さんの楽しそうな笑顔が心に残った。
沖家室ひじき(合同会社さかえる) 食 買物
URL:https://www.hijiki.online/
南国リゾート感と瀬戸内の奥深い魅力が共存
起点となる大島大橋から距離にしておよそ20~30km、決して長くないドライブ旅の途中にバラエティ豊かな楽しみがあるのがこのエリアの魅力。ハワイとの歴史的な縁から生まれたリゾート感、種類豊富な郷土の味……。
「関東などの遠方の方にはまだまだ知られていない場所」と話す方もいたけれど、だからこそ、次の旅先リストに加えたい魅力的なエリアといえるはず。
※掲載施設の情報は変更されていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。
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