半島彩発見

【積丹半島】北海道の絶景「積丹ブルー」と豊かな恵みを味わう

文/三國寛美 撮影/吉川麻子

▲日本海に伸びる神威岬。その先に見えるのが神威岩。

積丹半島の「積丹ブルー」に出合う

北海道札幌市から積丹(しゃこたん)町まで、北西に車を走らせること約1時間30分。積丹半島に入ると、鮮やかなコバルトブルーの海と、切り立った岩壁の景観が現れる。北国では珍しい、その海水の色は「積丹ブルー」と呼ばれ、夏になると多くの人で賑わう。

 
積丹半島は「ニセコ積丹小樽海岸国定公園」の中にあり、北海道内で唯一の海中公園として指定されている。山や海の豊かな食材も楽しめ、リゾート気分で訪れたくなる北海道の人気スポットをご案内しよう。

 

ニシン漁で栄えた歴史と絶景「島武意海岸」

積丹半島の海岸沿いには古いトンネルや道路の跡が残る。ここ積丹岬の島武意(しまむい)海岸には、かつてニシン漁が盛んだった頃に掘られたという、小さなトンネルがある。

 

▲トンネルを抜けると…。

 

▲島武意海岸。左手に見えるのは「屏風岩」。

 
トンネルを抜けると、コバルトブルーの海が広がり、眼下には島武意海岸が見える。ここは日本の渚百選に選ばれており、広がる海の景色に見入ってしまう。

 

島武意海岸
住所:北海道積丹郡積丹町入舸町
電話:0135-44-3715(積丹観光協会)

 

見渡す限りの海へと向かう「神威岬」

▲神威岬。先端へ向かって「チャレンカの小道」が続く。

 
島武意海岸から、神威(かむい)岬へと向かう。神威岬の先端へは、遊歩道が続いており、往復すると40分ほど。先端では見渡す限りの日本海が広がる。

 
アップダウンのある道を歩いていると、遠くの海だけでなく、足元にも目が向く。ハマナス、エゾカワラナデシコ、エゾノヨロイグサなど、さまざまな植物や可愛らしい花が咲いている。

 
そして海の中にポツンと立つのは神威岩。そこには北海道へ逃れたという源義経の伝説もある。ぜひ訪れて、想像を膨らませてほしい。

 

神威岬
住所:北海道積丹郡積丹町神岬町
電話:0135-44-3715(積丹観光協会)

 

積丹半島のボタニカルを味わう、積丹生まれのジン

▲積丹スピリット。蒸留所に直売所が併設。

 
神威岬と島武意海岸の間にある「積丹スピリット」を訪れた。2020年にオープンしたジンの蒸留所だ。

 
積丹でジン造りを始めたきっかけを尋ねると「山と海の距離がめちゃくちゃ近い、それが理由です」と、取締役CDOの岩崎秀威(ひでなり)さん。

 

▲岩崎さん。自らボタニカルを採取しに行くことも。植物や香りとの出合いや発見の話は尽きない。

 
「ここからは山が見えて、海も見えます。つまり山側の植生と海側の植生が、狭い所にギュッと集まっている。手の届く範囲に全部あるので、植物を活用しやすいんです」

 
窓からは積丹岳が見える。水はそこからの源流を使い、蒸留所の裏手には訪れた人が楽しめるボタニカルガーデンが。そしてできるだけ地元の原料を使いたいと、自社農場で栽培もしている。

 
「積丹のボタニカルだけでジンを造れたらと思っています。今、木を育てているので、50年、100年後の話です。僕の代では無理ですが……でも、それぐらいのビジョンを持って造るのが大切だと思っています」

 

▲できるだけ自家採種で育てている。左はヒソップの花。右はニガヨモギ、限定販売された生アブサンの原料にも。

 

▲「火の帆」シリーズ。左より、夜の海をイメージした「UMI」、積丹ブルーの「KIBOU BLUE」、そして「KIBOU」。

 
定番のクラフトジン「火の帆(ほのほ)KIBOU」は、トップノートにアカエゾマツの香り。そしてクロモジ、キタコブシ、エゾミカン(キハダ)などがブレンドされている。

 
おすすめの飲み方はロック。口に含んだ瞬間、突き抜けるように香りが一気に広がる。氷が溶けるにつれて、さまざまな香りを楽しめるという。

 
直売所では、定番商品はもちろん、季節限定品なども揃う。ぜひ積丹らしいボタニカルから生まれたジンを味わってほしい。

 

▲直売所は土・日・祝日限定でオープン。奥には蒸留所がある。

 

積丹スピリット
住所:北海道積丹郡積丹町大字野塚町字ウエント229-1
電話:0135-48-5105
URL:https://shakotan-spirit.co.jp

 

仁木町・紫陽花の森にあるお店「こぶし」

積丹半島は、山のエリアも個性豊か。海から少し離れて余市方面へ車を走らせ、仁木町へと向かう。

 
サクランボ畑を眺めながら、小さな看板を目印に山道へ入る。やがて木立の先に、紫陽花に囲まれた小さなお店が現れた。

 

▲店主で板前の木下義光さん。自ら山を切り開き、紫陽花を約4,000株まで増やした。

 

▲切り株の鹿のオブジェと「山を歩いて待って下さい」の看板。週末は行列ができることも。

 
「こぶし」のTシャツを着た若い方がテキパキと応対してくれる。店員さん?と尋ねると「いや、ボランティアなんですよ」とのこと。釣りに向かう途中に寄って手伝っているのだという。「帰りには釣れたマグロを持って、また寄るかも……」と楽しそうだ。聞くと、他にもボランティアの方々が、お店に来ては手伝っているのだという。

 
「よく来たねー!ありがとうね。どこから来たの?」。店主で板前の木下義光さんが、厨房からこぼれるような笑顔で声をかけてくれる。常連さんからは「板さん」と呼ばれているという。

 

▲大きな声で明るく冗談を飛ばす板さんだが、厨房では手早い動きで美しく盛り付け、料理人の顔になる。

 
人気メニューは天丼。旬の野菜と大きなエビがサクサクの天ぷらに。訪れた日には、畑で採れた大きな甘いシシトウを揚げてくれた。

 

▲天丼。大ぶりのエビに旬の野菜や山菜など。

 
「こぶし」には、板さんを慕って多くの人たちが訪れる。ランチ時に手伝ってくれる人や、中にはYouTubeで板さんのチャンネルを作ってくれた人もいるという。半年前からは新たに弟子も加わった。「俺一人じゃ無理だからよ。お客さんにだって手伝ってもらうこともあるんだよ」と板さんは笑う。

 
「ここはね、山と海の両方が楽しめる。そして川もある。ヤマベ(ヤマメ)やイワナも釣れる。だからとんでもなくいい所だと思うよ。ブドウやサクランボ、フルーツもいっぱいあるだろ。年中遊べる場所だと思うんだよ」

 
料理の味はもちろんだが、何よりも板さんが楽しんでいるからこそ、何度も訪れたくなってしまう店なのかもしれない。

 

季節料理 こぶし
住所:北海道余市郡仁木町砥の川183
電話:0135-32-2388

 

▲左からボランティアの林靖浩さん、弟子の宮川陽大さん。そして板さん。紫陽花の森をぜひ散策して。

 

積丹産の新鮮なホッケフライを味わう

余市町のニッカウヰスキー余市蒸溜所のほど近くに、定食が人気の「和香奈」がある。オープンして15年目、ここではメインの料理に、驚くほどたくさんの小鉢が添えられる。

 
まずは、ホッケフライ定食をチョイス。小鉢には、イナダ、ヒラメ、マグロなどのお刺身や地元産のもずく、(取材が7月だったこともあり)なんと旬の生ウニまで。

 

▲積丹の大ぶりな生ホッケを使った「ホッケフライ定食」。

 
積丹では新鮮なホッケが手に入るため、地元ならではの味わい方を楽しめる。中でもホッケフライは定番料理。フワフワの大きなホッケにザクザクの衣が絡み、箸がとまらなくなる。

 
そしてもうひとつの人気メニューは、キングサーモン定食。店長の米本美幸さんが探し求めて辿り着いたキングサーモンが、香ばしく焼かれた大きな切り身で登場。旨味たっぷりのあぶらが眩しい。

 

▲鮭好きな地元人も唸るキングサーモン!

 
秋になると、小鉢に旬のイクラが出るときもあり、親子丼にして楽しむ方も多いという。鮭にはこだわりのある地元のお客さんが夢中になるキングサーモンも、ぜひ味わってほしい。

 

味有職 和香奈
住所:北海道余市郡余市町黒川町3-60
電話:0135-23-3740

 

クルーズで海から眺める、ダイナミックな積丹半島

 
旅の終わりは「積丹 神威クルーズ」へ。船に乗って、海の上から積丹半島を見てみよう。

 
船長の柏崎祐毅(ゆうき)さんは、地元育ちの現役漁師。午前中は漁に出て、午後から遊覧船を運行している。

 

▲船長の柏崎さん。神威岬周辺の海をよく知っている。

 
小型のクルーズ船で来岸漁港から神威岬までゆっくりと進む。海上からは、海の中から陸にかけて続く岩や、崖の連なりが見え、それらが火山活動で隆起したものだということがよくわかる。

 

▲海から見た神威岬と神威岩。

 
「漁師の僕らはお神威さんと呼んでますが、神威岩も見る位置によって表情が変わったように見えるんですよね。そしてこのあたりは、海の中でも山脈のように岩が連なっているんです。そこに波が寄せ、魚が集まってくるんです」と柏崎さん。漁師ならではの説明から、海の底深くまで想像が膨らむ。

 

▲海辺の古いトンネルや道路の跡もよくわかる。

 

▲透明度が高く、海底のウニが見えた。

 
クルーズを終えて港に戻ると、ちょうど昆布の養殖場にやってきた積丹町役場の水鳥純雄(よしお)さんに出会った。

 
こんなにも美しい積丹の海だが、実は温暖化の影響などで昆布が減り、ウニの収穫量は減り続けているという。そのため柏崎さんや漁業青年部と共に、これまで廃棄されてきたウニの殻を肥料にして昆布に与えるなど、できるだけ環境に負荷をかけずに昆布を育てる循環型の取り組みをしている。

 
海と共に生きているからこそ、いち早く海の変化に気が付き、海の恵みを未来へとつなげることの大切さを知っている。ニュースなどでウニの収穫が減っていると聞いていたが、地元のプロたちの頼もしい取り組みを知り、少しホッとした。

 

▲積丹町役場農林水産課の水鳥純雄さんと。昆布を育てる取り組みは2009年から。2019年よりウニ殻肥料を使いはじめた。

 

積丹 神威クルーズ
住所:北海道積丹郡積丹町大字来岸 来岸漁港内
電話:090-5775-8000
URL:https://shakotan-kamuicruise.com
※2024年度は9月30日まで運行予定

 

未来に向けて守りたい、積丹半島の手つかずの大自然と恵み

ダイナミックな地形と、手つかずの自然に囲まれた積丹半島。そして、時間帯によって変化する美しい海の色は見飽きることがない。

 

▲帰り道に出合った黄金岬からの夕景。右手に見えるのは「宝島」。

 
積丹半島を巡ることで、山や海からの豊かな恵みを味わい、自然と真摯に向き合って生まれたものや、自然との暮らしを楽しむ人たちに出会った。ぜひ北海道らしい、ダイナミックでおおらかな体験を楽しんでほしい。

 
※掲載施設の情報は変更されていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。

 

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