半島彩発見 Presented by 「SKYWARD+」

半島彩発見

【男鹿半島】秋田県男鹿市
稲とアガベ 代表
岡住修兵さん

文/中津海麻子 撮影/ミヤジシンゴ

(おかずみ しゅうへい)
稲とアガベ株式会社 代表取締役社長。クラフトサケブリュワリー協会会長。1988年生まれ、福岡県出身。神戸大学経営学部卒業後、2014年から4年半、秋田市の新政酒造で酒造りに従事。その後大潟村の石山農産で米作りを学ぶ。20年浅草のどぶろく醸造所「木花之醸造所」の立ち上げに参画、初代醸造長を務める。21年「その他の醸造酒製造免許」と「輸出用清酒製造免許」を活用して男鹿市で酒蔵を創業。新たな酒ジャンル「クラフトサケ」を確立。22年クラフトサケブリュワリー協会設立に参画し、会長に就任。23年、酒粕など酒造りの過程で生じる副産物を新たに生まれ変わらせる食品加工場&ショップ「SANABURI FACTORY」、一風堂監修による男鹿塩を使ったラーメン店「おがや」をオープン。男鹿のまちづくりを進め、「男鹿酒シティ構想」の実現に向けた取り組みを行っている。
https://inetoagave.com

 

男鹿を新しい酒の聖地に

ナマハゲや魚醤「しょっつる」で知られる秋田県男鹿(おが)市。この地から今、日本酒の新しい風が吹き始めている。

 

▲旧男鹿駅の駅舎を再利用した酒蔵。

 
酒蔵「稲とアガベ」は、旧男鹿駅舎を再利用して、クラフトサケを醸している。クラフトサケは、「米を原料に日本酒の製造技術をベースとしながらも従来の『日本酒』では法的に採用できないプロセスを取り入れた、新しいジャンルの酒」(クラフトサケブリュワリー協会より)だ。果実やハーブなどの副原料を加えることで、日本酒の枠にとらわれない個性と魅力を持ち合わせている。

 

▲(左から)ホップを用い果実のような瑞々しい味わいの「交酒 花風」、富士山麓に自生する草木などを用いたハーブティーを仕込み水にした「稲と富士山」、「DOBUROKU」。

 
この協会を立ち上げ、クラフトサケカルチャーを牽引する岡住修兵さん。アガベはテキーラの原料となる植物で、蔵の名「稲とアガベ」は「日本酒に魅せられた僕と、テキーラ好きの妻が一緒に立ち上げたので」とはにかんだ。

 
日本酒の世界に飛び込んだのは、「誰も知らない場所で生まれ変わりたかったから」。幼少期から周りとうまく馴染めず、組織で生きていくのは難しいと悩んでいた。そんな中、大学で起業について学び、自ら事業を始めようと決意する。「ふと部屋の中を見回したら酒瓶が転がっていたので、そうだ、酒で何かやろうと。目の前に山があったから登る、みたいな感覚でした(笑)」

 

▲立ち上げから岡住さんを支え続けてきた妻の郁美さんと。

 
そこから日本酒をひたすら飲み、ある居酒屋で口にした酒に衝撃を受ける。「この酒蔵で酒を造ってみたい」。岡住さんのこんな思いを店主がSNSで投稿すると、その蔵元、「新政酒造」の佐藤祐輔社長が「いいっすよ」とコメント。1カ月後、秋田の酒蔵には研修で汗を流す岡住さんの姿があった。

 
老舗でありながらイノベーティブな蔵として全国にその名を轟かせる新政酒造。日本酒に情熱を抱く同世代が集まり、チームで酒を醸していた。「酒って仙人みたいなベテラン杜氏(とうじ)が造るものだと思い込んでいた。そういう世界はあっていいと思う半面、知識とチャレンジ精神があれば若くてもいい酒が造れると確信しました」

 
4年半後、新政酒造を退職。2021年に稲とアガベを立ち上げた。日本酒製造免許は現在、新規発行が原則認められていない。既存の蔵を買収する道もあったが、岡住さんは「その他の醸造酒」の免許を取得し、まっさらな酒蔵としてスタートを切った。

 

▲稲とアガベでは、米は自然栽培米を使用。「食べるお米程度にしか磨かず、お米の旨みや味わいを酒に表現するのはもちろん、精米による食品ロスも抑えます」と岡住さん。

 
男鹿の風土を映し出すクラフトサケを醸しながら、標榜するのは「この地を新しい酒の聖地に」。男鹿を日本酒製造免許の新規申請ができる「日本酒特区」にし、酒を造りたい人たちが集い、日本酒の一大産地にする「男鹿酒シティ構想」を掲げ、動く。「壁は高い。でも、志ある若い造り手が夢を描ける日本酒の未来を、男鹿から発信していきたい」

 

▲蔵に併設するショップ/カフェ「土と風」。クラフトサケの飲み比べ、酒粕使用のソフトクリーム、男鹿で自家焙煎する「さとやまコーヒー」も楽しめる。

 
岡住さんは「町の未来」も見据える。秋田県は人口減少率が全国トップ。男鹿市も「消滅可能性自治体」というセンセーショナルなレッテルを貼られた。「男鹿が酒の町として盛り上がり観光客が足を運ぶようになれば、ここで何かやろうという新しいプレーヤーも増え、未来にもきっと町は存在し続けることができる」。岡住さんはレストランや宿などを手がけるほか、酒粕を再利用した粕取り焼酎の醸造所を立ち上げ、オーベルジュも近くオープン予定。酒を軸にしたツーリズムが実現しつつある。

 

▲「一風堂」とタッグを組んだラーメン店「おがや」をオープン。男鹿の名水や地元のブランド鶏、しょっつるなどを用いる「男鹿塩ラーメン」は、クリアな口当たりと喉越し、滋味深い味わい。
https://inetoagave.com/ramen/

 

▲雑貨店&食品加工場 「SANABURI FACTORY」。酒粕や廃棄の可能性のある食材をアップサイクルして価値ある商品にし、販売している。
https://inetoagave.com/sanaburi-factory/

 

▲「SANABURI FACTORY」では酒粕が主原料の「発酵マヨ」などオリジナル商品のほか、地元の食品、セレクト雑貨なども並ぶ。

 
「男鹿には『何もない』がある。何もないからこそ、新しくて面白いことができるんだ――。そんなふうに、地元の子どもたちが希望を持てるまちづくりに挑んでいきます」

 

稲とアガベ
住所:秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21
URL:https://inetoagave.com

 
秋田県男鹿市へのアクセス
東京(羽田)、大阪(伊丹)、札幌(丘珠)から秋田空港までJALグループ便が運航。秋田空港から男鹿市まで車で約1時間。
※最新の運航状況はJAL Webサイトをご確認ください。

 

(SKYWARD2025年1月号掲載)
※記載の情報は2025年1月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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