天と地を結ぶ光。洞窟に差し込むビームを捉える――ベトナム、フォンニャ・ケバン国立公園

スポットライトのように、洞窟の中へ一直線に差し込む神秘的な光。“ビーム”と呼ばれるこの現象を目にすることができる場所は、『A WORLD OF BEAUTY 2021』7月の舞台となったベトナムのフォンニャ・ケバン国立公園内にあるハン・エン洞窟です。ビームの条件が整うのは晴れた日の朝、わずか15分ほどという限られた時間の絶景。太陽と自然の地形が生み出すこのドラマチックな光景を捉えに向かった撮影クルー。その道行きは、“旅”というよりまるで小さな“冒険”でした。

 

▲光が差し込む開口部は、角度を変えてみると意外と広め。洞窟のスケール感や、洞窟内に宿泊するツアーのテントが並ぶ様子もご覧いただけます。

 

絶景を求めて、難易度の高いツアーへ

 
撮影クルーは成田空港からJAL便でベトナムの首都・ハノイにあるノイバイ国際空港へ。撮影時期は2019年の2月下旬でしたが、飛行機を降りた途端ムッとする湿度に襲われ、半袖になりたいような陽気です。トランジットして目的地に近いドンホイ空港へ飛び、市内で一泊。翌朝、ハン・エン洞窟へのツアーを主催する会社のオフィスで装備のチェックや道程の注意事項などのレクチャーを受け、いよいよ出発です。今回の舞台フォンニャ・ケバン国立公園は、2003年に世界遺産に登録され、総面積は123,326haという広大なスケールを誇ります。アジア最古かつ最大のカルスト地形(地表に露出した石灰岩が雨水などで浸食されて誕生した地形)と熱帯雨林で構成され、園内には大小合わせて300以上の洞窟が存在します。ボートで入ることができるフォンニャ洞窟や、壮麗な鍾乳石の空間が広がるティエンドゥオン洞窟など、観光客が多く訪れる洞窟もありますが、われわれが目指すハン・エン洞窟は、トレッキングでしかアクセスできず、洞窟内に宿泊することが必須となる難易度の高いスポット。専門のツアーを行っている会社も1社しかありません。撮影クルーも覚悟していたものの、道のりは想像以上にハードなものでした。

 

道なき道や小川を踏み越え、約6時間のトレッキング

 
ドンホイ市内から車で約1時間移動すると、特にめぼしい目印もない道路の真ん中で車を降り、いきなりトレッキングがスタート。戸惑うクルーを引き連れ、先導するガイドは道路の脇から続くけもの道へずんずん分け入っていきます。なるほど、専門のツアーでしか行けない場所だというのが頷けました。傾斜のある下り道、急な通り雨にも見舞われながら約3時間黙々と歩き続け、ジャングルの中に数軒の家が集まる集落でお昼休憩。そこからさらに3時間ほど、草むらや小川を踏み越えてひたすら進み、17時ごろにようやくハン・エン洞窟入り口へ到着。ヘトヘトになりながらも、人気のない森の奥に口を開ける洞窟の大迫力に感動します。これから、この洞窟の中で2晩のテント泊です。

 

ほのかな光が差し込む、静謐な空間

 
ハン・エン洞窟は“スワロー・ケイブ”とも呼ばれ、その名の通りツバメの生息地だといいます。奥行きは約1.6㎞。この日はツバメの姿は見当たらず、コウモリの鳴き声がかすかにこだましていました。洞窟の中は開口部から外光が差し込むので、ほのかに明るく、静謐な雰囲気。洞窟の入り口に溜まっている水はきれいで、水浴びをしてもよいとのこと。撮影した時期は水浴びをするにはかなり肌寒かったですが、暑い時期であれば爽快な体験になりそうです。入り口から20分ほど進むと、キャンプエリアに到着しました。

 

 
洞窟の奥には驚くほど広々とした空間が。エメラルドブルーの地底湖があり、そのほとりにテントを張って宿泊します。空の下ではなく、洞窟といういわば屋内にテントを張るのは不思議な感覚。キャンプエリアはとても清潔に整備され、火を使って温かい料理を食べることもでき、予想以上に快適でした。宿泊するのは撮影クルーだけではなく、世界各国から洞窟探検ツアーに参加している観光客も一緒です。翌朝撮影を行う旨を説明すると、快く了解してくださいました。さらに会話は弾み、夕食の後車座になって、それぞれの母国語で歌をワンフレーズずつ歌ってリレーするというゲームで交流することに。世界遺産の洞窟の中にさまざまな言語の歌が響きわたる、不思議な旅の一夜となりました。

 

撮影のチャンスは1日わずか15分

 
翌朝は8時に起床し、撮影の準備を開始。ダンサーの高見昌義さんは鮮やかな赤い衣装を身に着けスタンバイ。カメラマンの谷口京さんと共に、ビームの訪れを待ち受けます。実際に日が入り始めると、予想とは違う角度だったため調整を繰り返しながらシューティング。ビームを捉えることができる時間はわずか15分ほどなので、限られた時間で最良のカットを目指しての真剣勝負です。周囲ではツアー参加者たちが撮影風景を興味深そうに見守っています。2日間にわたり撮影を行い、カレンダーに採用されたのが冒頭の一枚。一直線に差し込むビームと、自然の神秘のただなかにいる感動を体で表現するダンサーの姿が、水面にくっきりと反射する印象的な瞬間を切り取ることができました。ちなみに、われわれは撮影が目的でしたが、このツアーの本来の目的はケイビング(洞窟探検)。ガイドのサポートのもと、洞窟内を本格的に探索することができます。

 

洞窟探検の拠点となる、ドンホイの町

 
フォンニャ・ケバン国立公園の観光の拠点となるのは、クアンビン省の省都・ドンホイ。近年はビーチ・リゾートとしての開発も進んでいますが、ハノイなどの大都市と比較すると、のどかな雰囲気も味わえる港町です。海辺だけあって、エビをはじめ魚介類の料理はどれも素朴ながら美味。ベトナム中部の料理は唐辛子を使った辛めの味付けが特徴なのだそう。濃厚な深煎りのコーヒーにコンデンスミルクを合わせたベトナムコーヒーも、本場の味は格別です。

 

ベトナムのお土産スナップ

▲左/2009年の調査で世界最大の洞窟通路が発見されたソンドン洞窟の写真集。右/土産物店や空港の売店で見つけた、国旗や遺跡などをモチーフにしたマグネット。

 

▲左/ドンホイ市内のスーパーマーケットで購入したフォーのインスタント麺。お湯を注ぐだけで食べられるタイプ。右/フォンニャ・ケバン国立公園の地図がプリントされたトートバッグ。

 

ベトナム、フォンニャ・ケバン国立公園までのアクセス

東京(成田)よりハノイのノイバイ国際空港までJAL直行便が運航。ノイバイ国際空港から国内線に乗り継ぎ、ドンホイ空港へ。ドンホイ市街地からフォンニャ・ケバン国立公園へは車で約1時間(フォンニャ洞窟など主な洞窟へアクセスする場合)。ハン・エン洞窟へは、ドンホイ市街地から車で約1時間、徒歩約6時間。洞窟内に宿泊するツアーへの参加が必要。

 

カレンダー撮影:谷口 京


たにぐち けい/フォトグラファー。1974年京都市生まれ、横浜育ち。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、ニューヨークを拠点に独立。雑誌や広告撮影のかたわら「人と自然の関わり」をテーマに世界約60カ国を旅したのち帰国。ヒマラヤをはじめ国内外の山に登る冒険好き。

 

 

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