「ヤマネコの城」と呼ばれる秘境へ ― 西表島、マヤグスクの滝

2021年7月、沖縄島北部や奄美諸島などとともに世界自然遺産に登録されたのも記憶に新しい「西表島」。『A WORLD OF BEAUTY 2021』10月は、その西表島の奥深い密林に佇む「マヤグスクの滝」が舞台です。場所は沖縄県内最長の浦内(うらうち)川の支流、イタジキ川の上流にあります。落差約10m、横幅約15m。いわゆる一般的な「滝」とは趣を異にしていて、エッジのきいた階段状の唯一無二の造形です。長い時を経て自然が創り出したスケール感のあるその姿は一度見たら忘れられません。ちなみに「マヤグスク」の名は、沖縄の方言で「マヤ」は猫(イリオモテヤマネコ)、「グスク」は城。「ヤマネコの城」という意味だそうです。

 

▲西表島には大小数多くの滝がありますが、この「マヤグスクの滝」は別格です。もし機会があれば行ってみる価値は十分あります。

 

心ときめかせながらジャングルクルーズへ

 
まずは浦内川河口にあるクルーズ船乗り場へ。今回は西表島の自然を40年近く見つめ続けてきたという森本孝房(もりもとたかふさ)さんがガイドを引き受けてくださいました。乗船前に森本さんから注意事項を聞き、出発準備にとりかかります。撮影スタッフはサワタビに履き替え、蛭(ヒル)対策なども万全。浦内川上流の軍艦岩まで約30分のクルーズが始まりました。間もなくすると、川の両側に日本最大規模を誇るマングローブ林が広がります。浦内川では海の潮の干満により、約10km上流まで海水がさかのぼることから400種類以上の魚が生息し、それらを求めて野鳥やイノシシなどの動物も水辺にやってくるそうです。

 

密林へ、いざ。イリオモテヤマネコの棲む城へ

 
鬱蒼(うっそう)と生い茂るマングローブや亜熱帯植物に見入っているうちにクルーズ船は軍艦岩へ到着。ここからは歩いて進みます。30分ほどで日本の滝100選にもランクインしている「マリユドゥの滝」が望める展望台へ。ここまではハイキング気分で楽しむことができます。そしていよいよここからがトレッキング本番。見たこともないビッグサイズのシダや“ジャングルの主”ともいえる巨木「サキシマスオウノキ」など、これぞ密林という亜熱帯ジャングルが出迎えてくれます。

 

神の座という名の「カンピレーの滝」で沐浴?

 
展望台からさらにジャングルの中を20分ほど歩き続け、「カンピレーの滝」に到着。ここは全長約200mにわたって緩やかな傾斜が続き、一つ一つの落差は小さいのですが、一番上から下までの滝の高低差は約20mにもなります。広い川床には長い年月を経て生まれた「ポットホール」と呼ばれるきれいな丸い形の穴が所々に見受けられます。なかでもハート型のポットホールは知る人ぞ知るフォトスポットとして人気急上昇中だそうです。
このカンピレーの滝で、ガイドの森本さんのアドバイスもあり、休憩も兼ねて川でひと浴びすることになりました。もちろん服を着たままです。ジャングルの中は風が通らず、湿度も高く、特に夏場の暑さは相当なもの。冷たい川の水で火照った体もスッキリ爽やか、熱中症対策にもなるのでオススメです。

 

秘境と呼ばれるそのすごさを歩くほどに実感する

 
西表島は島の約90%が亜熱帯の原生林に覆われていて、島内にはご存じのように特別天然記念物のイリオモテヤマネコやカンムリワシをはじめ、さまざまな動植物が生息しています。われわれのトレッキング中にも、天然記念物のセマルハコガメやイノシシと遭遇。川には大きなウナギも泳いでいました。都会ではまずない発見や出来事を味わいながらハードなトレッキングは続きます。上流へ行くにつれ、岩のサイズがどんどん大きくなってきます。岩場は相変わらず滑りやすく、ヘルメットは必須アイテムです。

 

ついに幻のウォーターフォールとご対面

 
軍艦岩から約3時間。過酷なジャングルトレッキングもようやく終わりの時を迎えました。やっと出会えたヤマネコの城、「マヤグスクの滝」。迫力ある音、絶え間なく流れ出る水、そして何より神々しくもあるその姿に圧倒されます。でも残念ながら感動に浸っている暇はありません。帰りのクルーズ船の出発に間に合わせることを考えると、撮影時間はたったの30分。ですがそこは数々の修羅場をくぐり抜けてきたフォトグラファーの谷口氏とスタッフ。滑りやすい岩場など悪条件をものともせず、しかも限られたわずかな時間で、素晴らしい一瞬を捉えてくれました。

 

人気ビーチスポットもいっぱいの西表島

 
南の島のミステリアスな出来事に遭遇。偶然ですが西表島到着の日は部分日食でした。そんな空の下で、有名な「星砂の浜」と呼ばれるビーチを散策。ここにある人気の星砂の正体は有孔虫(微生物)だそうで、その殻が砂浜に打ち寄せられたものだとか。海は透明度も高く波も穏やかです。きれいな魚たちも間近で見られるので、日中は海水浴やシュノーケリングを楽しむ人で賑わいます。西表島にはこのほかにも、ウミガメの産卵地として有名な「トゥドゥマリの浜」、水牛車に乗って海を渡る「由布島(ゆぶじま)」、8月にご紹介した「バラス島」など、のんびりビーチリゾートも満喫したいという人にもってこいのスポットがいっぱいです。退屈な日々に刺激を求める方、多忙な毎日から逃れたい方にも西表島をオススメします。

 

西表島のお土産スナップ

左/島内の沖縄そば店でもらったマングローブの茎。右/イリオモテヤマネコTシャツ。ガイドを務めてくださった森本さんのオリジナルイラストです。

 

西表島・マヤグスクの滝までのアクセス

東京(羽田)から新石垣空港までJAL直行便が運航。大阪(関西)、名古屋(中部)、沖縄(那覇)、宮古島、与那国島から新石垣空港までJALグループ便が運航。新石垣空港からユーグレナ石垣港離島ターミナルへ。ユーグレナ石垣港離島ターミナルから高速船で西表島上原港まで約40分〜1時間。浦内川河口からクルーズ船でさかのぼり約30分、軍艦岩へ。そこから徒歩約3時間でマヤグスクの滝へ。

 

 
沖縄の空の人気者「ジンベエジェット」
2012年に登場したJALグループの「日本トランスオーシャン航空」と「沖縄美ら海水族館」とのコラボレーション。沖縄美ら海水族館にいるジンベエザメをイメージして作られました。青い「ジンベエジェット」と、さくら色の「さくらジンベエ」の2種類が現在就航中です。

 

カレンダー撮影:谷口 京


たにぐち けい/フォトグラファー。1974年京都市生まれ、横浜育ち。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、ニューヨークを拠点に独立。雑誌や広告撮影のかたわら「人と自然の関わり」をテーマに世界約60カ国を旅したのち帰国。ヒマラヤをはじめ国内外の山に登る冒険好き。

 

 

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