風と光が描き出す砂の海の情景――アラブ首長国連邦、アル・ファカ砂漠

はるか地平線まで、視界いっぱいに広がる砂の海。あらためて地球の壮大なスケールを感じさせてくれるこの場所は、『A WORLD OF BEAUTY 2021』9月の舞台、アラブ首長国連邦のアル・ファカ砂漠です。きらびやかな近代都市・ドバイのビル群を離れ、車を一時間ほど走らせると、まるで違う惑星にきたかのような砂漠の絶景が広がります。風と光が描き出す美しい砂の表情を追い求めて、砂漠を駆け巡った撮影のひとコマをご覧ください。

 

▲吹き抜ける風の音が響く、空と砂の海だけの広漠たる風景。ぜひ画面を360度スクロールしてお楽しみください。

 

日本から約11時間かけ、ペルシア湾にのぞむ近代都市・ドバイへ

 
撮影クルーは2019年2月上旬、羽田空港からエミレーツ航空とのコードシェア便でドバイ国際空港へ。約11時間のフライトを経てペルシア湾にのぞむドバイの地に降り立ちました。今回の撮影地であるアル・ファカ砂漠は、アラブ首長国連邦(七つの首長国で構成)のアブダビに属しており、ドバイからもアクセスが可能です。空港から少し離れたところにはドバイのシンボル、世界一高い高層ビル「ブルジュ・ハリファ」の偉容をうかがうことができます。亜熱帯気候のドバイは、11月~3月の冬季が観光のハイ・シーズン。夏季には気温50℃近くになることもあるそうですが、2月の撮影時は日中の気温20℃前後と暑すぎず寒すぎずの気候でした。市内のホテルに宿泊し、翌日は日の出前から撮影に出発です。

 

タイヤの空気を抜く、砂漠の日常風景

 
日の出や日の入りといった美しい時間の光をとらえるため、翌日は日の出前にホテルを出発。真っ暗ななか、市街地を抜けて車を走らせます。砂漠へ入る直前、ガソリンスタンドでタイヤの空気圧を調整。空気圧を低くすることでタイヤの接地面積を大きくし、砂にタイヤが埋まるのを防ぐ目的です。砂漠付近のガソリンスタンドにはエア・プレッシャーが常備され、ドライバーが手慣れた様子で空気を抜いていくのはこの地の日常風景。待っている間、ガソリンスタンドに併設されたショップをのぞきました。ファストフード店やコンビニエンスストア、コーヒーショップなどがコンパクトに並ぶ店内は、明るく清潔で快適。そんなところにも、産油国の富裕さと観光立国としての発展を感じることができます。

 

理想的なロケーションを求めて、ひたすら移動を繰り返す

 
ドバイ市内から、約1時間車で移動し砂漠地帯に到着。撮影にチャーターしたのは、「デザートサファリ」と呼ばれる砂漠ツアー用の4WD車です。デザートサファリはドバイ観光の人気アクティビティ。ジェットコースターさながら砂漠の急斜面を疾走したり、砂漠の上で朝食や夕食をとったりと、さまざまなツアーが用意されているのだそう。道なき道、砂丘のアップダウンをダイナミックに運転するドライバーのテクニックは圧巻です。写真のような砂丘の風景が点在しており、その間の道路は整備されているのでスムーズに移動できます。ひたすら車を走らせてはロケーションをチェック。延々と走り続け、いつのまにかドバイのお隣アブダビへと入っていました。

 

 
地表が波のように見えるのは、「風紋」という風でできた砂模様です。砂丘の稜線と風紋、そのより美しいバランスや表情を追い求めて移動を繰り返しました。砂に足をとられて、歩くだけでもかなりの体力を消耗します。太陽の位置によっても風景の印象はぐっと変わってくるため、どの場所のいつの時間帯がよいか、判断するのが難しいところです。

 

日の入り前のシャッターチャンス

 
2日間ロケーションハンティングを繰り返し、砂漠が黄色く鮮やかに浮かび上がる日の入り前の時間をメインカット用に狙うことにしました。地平線に沈む太陽の大きさは圧巻の一言。人工物がなにもない風景のなかで見る夕日に、地球という一つの惑星の地表に立っている、という不思議な感覚が湧き上がります。しかし感動に浸る間もなく、撮影は日が沈むまでの限られた時間の勝負。モデルのバレエダンサー七瀬莉砂さんとフォトグラファーの谷口京さんは砂丘の天辺に上り撮影をスタート。足場の悪い砂地の斜面にもかかわらず、優雅なムーブメントを見せてくれた七瀬さん。ホワイトとブルー、2種類の衣装を試し、より砂漠の黄色との対比が映えるブルーの写真がカレンダーに採用されました。

 

 
こちらは日没直後の空。バイオレットとオレンジのグラデーションが美しく、ずっと眺めていたくなります。しかし空が明るいうちに砂漠を脱出しなければ危険です。灯りが一切ない砂漠では、真っ暗闇になると運転もままならなくなります。美しい風景を心に刻みながら、ドバイ市内へと帰路につきました。

 

市内にはアジア料理のレストランが充実

 
現地でとった食事の中で印象的だったのは、パキスタン出身のドライバーにお薦めしてもらった、大衆的な雰囲気のパキスタン料理店。長粒米のピラフやさまざまな種類のカレー、スパイスのきいた肉料理や魚料理が美味でした。ドバイの人口の8割あまりはインド人、パキスタン人、フィリピン人などアジア系の移住者が占めており、手ごろで美味しいアジア料理の店が多いそうです。撮影最終日の夜、つかの間の自由時間に市街地を散策しました。イスラム教の礼拝堂であるモスクは、緻密なモザイク装飾がライトアップされ神秘的な美しさ。異国情緒をひときわ感じたのは、「スーク」と呼ばれる伝統的なマーケット。鮮やかな色彩の布や雑貨から、ナツメヤシやナッツ類の量り売りなど、多種多様な小型店が軒を連ねます。通りかかる私たちへ、日本語で声をかけてくれる店員さんもちらほら。フレンドリーでたくましい、観光地ならではの雰囲気を感じることができました。

 

アラブ首長国連邦のお土産スナップ

▲左/撮影前に立ち寄ったガソリンスタンドで購入したエコバッグ。アラビア文字のプリントがアクセントに。右/スークで購入したピンバッジ。国旗モチーフは定番のアイテム。

 

▲左/ドバイ市内のスーパーマーケットで購入したちょっと高級なスナック菓子。クリーミーチェダーチーズ味と黒トリュフ味で、おつまみにもぴったり。右/エミレーツ航空の機内でもらったカラフルなアメニティキット。

 

アラブ首長国連邦、アル・ファカ砂漠までのアクセス

東京(成田・羽田)、大阪(関西)よりJALとエミレーツ航空のコードシェア便でドバイ国際空港へ。ドバイ市内からアル・ファカ砂漠へは車で約1時間。

 

カレンダー撮影:谷口 京


たにぐち けい/フォトグラファー。1974年京都市生まれ、横浜育ち。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、ニューヨークを拠点に独立。雑誌や広告撮影のかたわら「人と自然の関わり」をテーマに世界約60カ国を旅したのち帰国。ヒマラヤをはじめ国内外の山に登る冒険好き。

 

 

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