南北に約1㎞、長い砂浜が続く、香川県三豊市仁尾町の「父母ヶ浜(ちちぶがはま)」。ここは日本の夕陽百選*にも選ばれている注目のスポットです。季節によって時間は異なりますが、ベストタイミングは日が沈む前後約30分とされています。空はオレンジから赤、ピンク、紫へ。刻々と変わる妖艶なグラデーションを鏡面反射で映し出すタイドプール(潮だまり)。まるで天空にいるかのような幻想的な光景が目の前に広がります。一生のうちで、いつか必ず見に行きたい景色。2021年のファイナルは、瀬戸内にきらめく天空の鏡「父母ヶ浜」が舞台です。
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この美しい海と砂浜を、いつまでも
平日にもかかわらず、「父母ヶ浜」には結構な人が出ていました。写真を撮る人、磯遊びを楽しむ子どもたち。ウエディング写真を撮っているチームもいました。近くにはちょっと小洒落たカフェなどもあって、いい雰囲気を醸し出しています。そんな「父母ヶ浜」が、いつの日もよい環境で保たれているのは、地元ボランティアの存在があるからにほかなりません。毎月第一日曜には多くの人たちが海辺の清掃作業を行っていて、活動はもう四半世紀にもわたって続いているそうです。今注目のスポットとして、「父母ヶ浜」はこれからも賑わいをみせると思いますが、訪れる人は「立つ鳥跡を濁さず」の言葉どおり、マナーを守って楽しみたいものです。
小さな生き物たちにとって、ここは絶好のすみか
干潮時には最大で幅約400mもの干潟が姿を現す「父母ヶ浜」。この砂浜は、花こう岩から生まれた粒子の細かい砂が堆積してできているそうです。その砂が干潮時に波によって動くことで、浅瀬に砂紋(さもん)を描きます。これも思わず魅入ってしまう美しい光景です。潮だまりには、スナガニ、ハゼ、マテ貝、ウミニナ、アラムシロやヤドカリなど、干潟に暮らす生き物が至る所で見られます。すると、自然大好きカメラマン谷口 京氏による海洋生物教室が急きょ開講。小さな生き物を捕まえてきては、学名や生息地を丁寧に話してくれました。
明日もきっと晴れる、美しい夕日が撮れました
撮影時間が迫るとスタッフの願いが通じたようで、浜辺は無風に近い状態に。見事なまでの天空の鏡が現れました。雲は少し多めでしたが、逆にそれがよい効果をもたらしてくれたようです。谷口氏はカメラ位置を水面ギリギリにセットしてシャッターを切っていました。時間とともに空の表情がドラマチックに変わっていきます。20時を回ったところで撮影終了。さて、一年を締めくくるビジュアルの出来、いかがだったでしょうか。ちなみに「父母ヶ浜」では一年のうちの2月と10月には、海に沈んでいく太陽がだるまのように映る「だるま夕日」を見ることができるそうです。機会があればこの特別な光景も見てみたくなりました。
日本一硬い?香川のソウルフードに挑戦
撮影までの空き時間は、香川県有数のパワースポットといわれる四国八十八ヶ所霊場第75番札所の「善通寺」へ。実はもう一つ目的がありました。そのすぐ近くのお店に日本一硬いお菓子がある、という噂を聞きつけていたのです。お店の名前は「熊岡菓子店」。120年以上も続く老舗。年季の入ったケースに入っているのがお目当てのお菓子、「かたパン」です。日清戦争の頃に日持ちがして腹持ちがいいものを、という軍からの要望で作られたものなのだとか。ちなみに「かたパン」には「石パン」「角パン」など5種類あり、一番硬いのが「石パン」だそうで、見た目はもうそのまま「石」です。噂どおり、とにかく硬い。心配な方は、少し口に含みながらいただくのがいいかもしれません。気になるお味は、ほんのり甘く優しい生姜風味がお口に広がります。香川には、うどん以外にも食すべきものがまだまだあるようです。
丸亀うちわの歴史に触れる、有意義なフリータイム
かたパン体験の後、移動中にふと目に留まった「うちわの港ミュージアム」。大きな看板に引き寄せられて、ちょっとのぞいてみることにしました。うちわといえば、香川県丸亀市の特産品。現在の生産量は年間約8300万本、全国シェアの約90%を誇り、国の伝統的工芸品に指定されているそうです。こちらでは、丸亀うちわの歴史を伝える珍しいものから、今風の洒落た柄のうちわまで多種多彩。貴重な文献なども数多く展示されていました。実演コーナーでは職人さんが伝統の技を披露していて、うちわ作りも体験(有料)できます。
香川のお土産スナップ
父母ヶ浜までのアクセス
東京(羽田)から高松空港までJAL直行便が運航。高松空港からリムジンバスで父母ヶ浜まで約95分。父母ヶ浜バス停より徒歩約5分。車の場合は、高松自動車道さぬき豊中ICより約20分。
カレンダー撮影:谷口 京
たにぐち けい/フォトグラファー。1974年 京都市生まれ、横浜育ち。日大芸術学部写真学科を卒業後、ニューヨークを拠点に独立。雑誌や広告撮影のかたわら「人と自然の関わり」をテーマに世界約60カ国を旅したのち帰国。ヒマラヤをはじめ国内外の山に登る冒険好き。