旅への扉

めでたい日本 招福猫紀行|愛知&大阪

文/吉原徹 撮影/角田進 イラスト/津村仁美

昭和生まれの定番デザイン!常滑焼の招き猫(愛知)

▲瀬戸市・中外陶園の工房にて。下絵付けの工程では、ひげなどを職人が手作業で描く。

 
ぎょろりと大きな目に二頭身のふっくらプロポーション。お腹の前に小判を抱え、真っ赤な耳と首輪がアクセント。「これぞ招き猫!」と言いたくなるような定番のデザインこそが常滑焼(とこなめやき)の特徴である。

 
愛知県常滑市は、日本六古窯の一つに数えられる常滑焼の産地として知られる場所。この地で招き猫の生産が始まったのは、昭和20年代のことだったという。この頃、常滑の冨本人形園の冨本親男さんが、現在の招き猫のデザインを考案。鋳込み成形の技術を用いて陶器製の招き猫の量産をスタートする。

 
その後、日本が高度経済成長期に入ると押し出しの強い常滑の招き猫は、千客万来・招福開運の縁起物として開店祝いなどに重宝されるようになり、いつしか全国の店先で客を迎えるお馴染みの存在となっていったようだ。

 

▲とこなめ招き猫通り。

 
こうして招き猫のスタンダードを生み出した常滑だが、現在も街を歩けば招き猫ゆかりの名所が点在する。例えば「とこなめ招き猫通り」を歩けば、壁の上から街を見守るように顔をのぞかせる高さ3.8m、幅6.3mの招き猫“とこにゃん”の姿をはじめ、常滑の陶芸作家39人が制作した“御利益陶製招き猫”がずらりと展示された擁壁も。

 

▲とこなめ招き猫通りには、常滑の陶芸作家が手がけた「御利益陶製招き猫」が展示されている。

 
個性豊かな招き猫の表情はもちろん、ご利益も「健康長寿」「美人祈願」「大漁満足」「地震息災」など実にさまざま。その光景を前にすると招き猫の表現はかくも自由にゃんだ、と驚かされる。

 

瀬戸焼の招き猫は海外のコレクターも魅了する美しさ

愛知で招き猫ゆかりの地を訪ねるなら、常滑焼と同じく六古窯の一つである瀬戸焼の故郷、瀬戸市もハズせない。この地では、常滑焼に先駆けること約半世紀の明治30年代後半から招き猫の生産が行われている。

 
「日本で初めて磁器製の招き猫が生み出されたのが瀬戸です。現在も石こうの型を使った鋳込み成形の技術を活かし、招き猫の大量生産を行っています」とは、瀬戸の陶磁器メーカー・中外陶園(ちゅうがいとうえん)の井上美香さん。

 
井上さんの案内で招き猫づくりの工房にお邪魔すると、そこでは“大量生産”という言葉の印象を裏切るような、伝統的なものづくりが行われていた。

 

▲中外陶園/石こうの型に泥漿を流し込み成形する。

 
石こうの型に泥漿(でいしょう/水分を含んだ泥状の粘土)を流し込む「鋳込み成形」や藍色の顔料で目やひげの線を描く「下絵付け」、釉薬をかけた製品を約1,300度の窯で焼き上げる「焼成」、金色や赤色などアクセントとなる色などを絵付けする「上絵付け」……など、約10人の職人たちが黙々と手を動かす工房では、いくつもの工程を経て、招き猫が作られていく。そのほとんどが手作業によるもので、職人たちの繊細で無駄のない仕事ぶりに、ほれぼれとしてしまう。

 

▲中外陶園/下絵付けの工程。

 
「最初はうまく描けなかったけれど、何千回、何万回と筆を扱ううちに上達してきます。今のは線の伸びがいいなとか、払いがよくできたとか、一つ一つ表情が違う。会心の仕上がりにできたときは、やっぱり嬉しいですね」と、下絵付けを担当する職人さんはほほ笑む。

 
こうして生み出される瀬戸の招き猫は、磁器特有の滑らかな肌触りや、耐久性の高さ、多様性に富んだデザインが魅力。国内はもちろん、海外のコレクターにも愛されているという。

 

▲招き猫ミュージアム/日本最大の招き猫専門博物館。

 
工房を後にし、古今東西約5,000体もの招き猫を展示する「招き猫ミュージアム」へ。魅惑の招き猫ワールドが展開される館内を巡りながら、ふと思う。常滑&瀬戸という2大生産地が集中する愛知県は、招き猫文化の聖地とも言うべき場所だ、と。

 

▲招き猫ミュージアム/産地や種類ごとに展示される。

 

▲招き猫ミュージアム/絵付け体験も。

 

インタビュー:「日本招猫倶楽部」板東寛司さん

招き猫には日本人の美意識がにじみ出る。
だから5,500体以上を蒐集してもなお面白い。

 


板東寛司さん 写真家/「日本招猫倶楽部」世話役
1950年神戸生まれ。猫専門の写真家として活動する傍ら、全国の招き猫を蒐集。
所蔵の招き猫約5,000体を「招き猫ミュージアム」に展示。

 
招き猫の蒐集(しゅうしゅう)を始めたのは、今から35年ほど前のことです。猫専門の写真家として活動する傍ら、下町の風景を撮ることも好きだったのですが、時々煎餅屋さんの前なんかで招き猫を見かけることがあり、気になって調べたら豪徳寺が由来らしかった。それで豪徳寺で1体の招き猫を買い求めたのが、すべての始まりです。

 
それからいろいろと調べては全国の郷土玩具や招き猫を探すようになり、次第に招き猫の世界に引き込まれました。当時はインターネットも普及していなかったので、本で調べたり、電話をかけたり。情報を集めるのに苦労しましたが、面白かったですね。

 

▲愛猫がモデルの招き猫「ビックトラヨ」。

 
知れば知るほど奥深いのが招き猫の世界です。特に量産される前の手作りの時代は、地域や時代、作家によってデザインが千差万別で「全部見てみたいな」と思いましたね。

 
それに、招き猫を調べていくと、いろいろと発見もあります。例えば、日本の北のほうにはけっこう招き猫があるけれど、南のほうは福助などが多く招き猫は少ない。これは北のほうが養蚕が盛んだったからかもしれませんね。招き猫の背景にある、各地の文化を想像できることも面白いのです。

 
表現の幅が広いことも、招き猫の大きな魅力だと思います。簡単にいえば、猫の人形で手を挙げてさえいればいい。あとは自由にデザインできるし、人を招いたり、幸せを招いたり、いろいろな思いを込められるでしょう。

 
作り手や時代によって自由に変化できるから、日本人のデザイン感覚や美意識もよく出ていると思うんです。かつては、白と赤と黒を基調にしたシンプルな招き猫が主流でしたが、創作招き猫を作るアーティストも出てきているし、可愛い招き猫、面白い招き猫がたくさんいる。それは日本独特の文化だと思います。

 
招き猫集めを始めるなら、まずはネットで「招き猫」と検索するのがお勧めです。きっと想像を超える招き猫が現れると思います。その驚きが、招き猫の世界への第一歩です。

 

四十八辰は始終発達!?住吉大社の初辰まいり(大阪)

▲樹齢1000年を超える楠をご神体とする楠珺社が「初辰まいり」の中心地だ。

 
住吉大社に招き猫ゆかりの「初辰(はったつ)まいり」というお参りがある。

 
「毎月最初の辰の日に、住吉大社の末社である種貸社(たねかししゃ)、楠珺社(なんくんしゃ)、浅澤社(あさざわしゃ)、大歳社(おおとししゃ)を巡り、商売や家庭の発達繁栄を祈るのが『初辰まいり』です。1年に12回、4年で48回参拝することで、四十八辰、つまり始終発達の福を授かるとして、明治時代からあつい信仰を集めています」とは権禰宜(ごんねぎ)の岡康史さん。

 

▲権禰宜の岡康史さん。

 
「初辰まいり」のシンボルが、楠珺社で授与される招福猫だ。裃(かみしも)に身を包んで座布団に座る姿は、なんともキュート。月に一度授かる「小」サイズの招福猫を48体集めると「中」に交換でき、さらに「中」2体と「小」48体を揃えると「大」に交換できる仕組みだという。右手招きと左手招きの「大」を2体揃えて大願成就を果たすまでに最短で24年もかかる計算だから、壮大なスケール。親子三代で招福猫を集める人もいるそうだ。

 

▲初辰の日には早朝から多くの参拝者が訪れる。招福猫は奇数月は左手招き、偶数月は右手招きを授かることができる。

 
「大阪には『儲かりまっか?』『ぼちぼちでんな』というやり取りがありますよね。小さな招福猫が招くのは、もしかしたら“ぼち”くらいの福かもしれません。けれど、小さな福を集めていれば、いつかは大きな幸せとなる。肩肘張らずに楽しみながら、それぞれのペースでお参りいただければと思います」

 

▲裃を着た招福猫。もともとは門前の露店で売られていた土人形が縁起物として有名になったそう。

 
焦らず、気長に、ぼちぼちと。そんな招き猫との付き合い方も、にゃんともすてきではあるまいか。

 
吉原徹
よしはら とおる/1977年生まれ。フリーランスの編集者・ライターとして活動。国内外の自然や文化を巡る旅の記事を雑誌やWebサイトに寄稿。これまでに70ほどの国と地域を取材する。

 
角田進
つのだ すすむ/フォトグラファー。日本大学藝術学部写真学科卒業。上質な暮らし、心地よい時間をキーワードに、料理、インテリアからファッションまで、幅広い分野で活躍中。

 

招き猫ゆかりの地 MAP

招き猫伝説の残る寺社から多彩な表情の招き猫との出合いを楽しめる名所まで。
全国各地に点在する招き猫ゆかりの地をご案内します!

 

 

住吉神社(東京都青梅市)
街の繁栄を願って奉納された「阿於芽(あおめ)猫祖神」が参道の小祠に鎮座。

 
自性院(東京都新宿区)
招き猫発祥の寺院の一つで猫地蔵尊を祀るお堂も。

 
海雲寺(群馬県安中市)
豪徳寺から勧請した招福観音の分身を祀る寺。

 
檀王法林寺(京都府京都市)
寺社にゆかりのある招き猫として日本最古といわれる「黒招き猫」がいる。

 
お松大権現(徳島県阿南市)
「猫神さま」の通称で信仰を集め、約1万体の招き猫が奉納される。

 
宝当神社(佐賀県唐津市)
宝くじが当たると噂の神社。その参道にはリアルな招き猫も!?

 

(1)豪徳寺(東京都世田谷区)


招き猫発祥の地の一つといわれ、広大な境内の一角に立つ招福殿には多くの招福猫児が奉納される。

 

住所:東京都世田谷区豪徳寺2-24-7
アクセス:羽田空港から電車で約1時間15分。車では約45分。
参拝時間:6:00~17:00 ※夏季は18:00まで

 

(2)招き猫ミュージアム(愛知県瀬戸市)


郷土玩具や骨董品から作家物の創作招き猫まで、約5,000体の招き猫を展示。招き猫の絵付け体験も人気。

 

住所:愛知県瀬戸市薬師町2
アクセス:中部国際空港から電車で約1時間35分。車では約1時間5分。
営業時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)

 

(3)とこなめ招き猫通り(愛知県常滑市)


常滑駅から陶磁器会館へ向かう道路沿いに、巨大招き猫「とこにゃん」や39体の陶製招き猫などが並ぶ。

 

住所:愛知県常滑市
アクセス:中部国際空港から電車で約7分。車では約15分。
見学時間:自由

 

(4)住吉大社(大阪府大阪市)


全国の住吉神社の総本社。商売発達・家内安全を願う「初辰まいり」で招福猫を授かると一層ご利益が。

 

住所:大阪府大阪市住吉区住吉2-9-89
アクセス:伊丹空港からリムジンバスと電車で約1時間。車では約35分。
参拝時間:6:30~17:00 ※4月~9月および毎月1日と初辰日は6:00~

 

(SKYWARD2021年1月号掲載)
※記載の情報は2020年12月8日時点のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
※最新の運行状況はJAL Webサイトをご確認ください。
※掲載地の状況は変更になっていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。
※参考文献:『招き猫百科』(日本招猫倶楽部編)

 

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