とっておきの話

安全運航の合言葉は“TEM”【キャプテンの航空教室】

文/大原隆司 イラスト/高橋潤

本日もJALグループの翼をご利用いただきありがとうございます。運航乗務員は安全運航を至上命令として日々フライトしております。では、「安全」とはどのような状態を指すのでしょうか?

 
さまざまな定義がありますが、安全とは「航空活動に関連するリスクが、受け入れ可能なレベルまで低減され制御されている状態」とされています。JALでは「Threat and Error Management(スレットアンドエラーマネジメント)」、通称「TEM」という考え方を実践し、安全性をさらに高める努力をしております。今回は運航乗務員が意識しているTEMについてお話しします。

 
「Threat」とは、気象や機材状況、滑走路や誘導路など空港のレイアウト、地形、定時性を確保するためのタイムストレスといった「リスクを増大させる可能性があるもの」を指し、その範囲は多岐にわたります。「Error」というと、航空管制の周波数を間違えるなどの「適切でない行動」が思い浮かびますが、意外にも「何もしないこと(無行動)」も含まれます。「人間の能力には限界があり、エラーをなくすことはできない」とされ、どれほど訓練を積んだパイロットでもエラーを起こす場合があると考えられています。

 
TEMとは、少しでもエラーを起こす可能性があるスレットを抽出して、問題が発生しても早期発見・修正できるよう対策をマネジメントし、運航乗務員間で事前共有することで安全性を高めるという考え方です。例えば、航路上に存在する台風というスレットに対し、進路を変更して揺れを避けたとします。台風の雲に意識を集中したために、一時的に航空管制官の指示を聞き漏らす場合もあるかもしれません。そういった問題を避けるため、事前に機長と副操縦士で状況認識を共有する必要があるのです。

 
TEMに基づいて行動することにより、運航乗務員間で情報共有の機会が増え、スレットに対する感度が醸成されてきました。皆さまもご自分の周りのスレットを意識してみると意外なことに気付くかもしれません。私は家庭でも多様なリスクに事前対処できるようになりました。

 
また、運航乗務員はさまざまな場面で「Briefing(ブリーフィング)」という話し合いを行っています。現在は「TEM based Brief-ing」としてTEMをさらに深化させ、エラーに対する防御機能を高めた状態での離着陸の実施がなされています。このように運航におけるあらゆるリスクを想定し、安全な運航を行うべく、運航乗務員は研鑽(けんさん)を重ねています。これからも安心してご搭乗いただけると幸いです。

 

大原隆司 Takashi Ohara
JAL
ボーイング767型機 機長
出身地:愛知県
趣味・特技:犬・猫と遊ぶこと
座右の銘:実るほど頭を垂れる稲穂かな

 

(SKYWARD2021年7月号掲載)
※記載の情報は2021年7月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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