イタリア半島の踵からアドリア海を挟んだほぼ向かい側、アルバニアとギリシャの国境あたりに浮かぶケルキラ島(イタリア語・英語ではコルフ島)をご存じでしょうか。日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、ヨーロッパでは大人気のリゾートです。
この島はギリシャのイオニア諸島北端に位置していますが、海を渡って一番近い陸地はギリシャの隣国アルバニア、イタリア半島東南東端との距離も100km程度。軍事や交易の拠点としても理想的なことから、ケルキラはこれまでに何度となく争奪戦に巻き込まれてきました。古代には本土ギリシャ各都市間での植民地化を巡る争いが繰り返され、その後もマケドニアやローマが属州化、紀元後にはノルマンやフランスの支配を経て約400年に及ぶベネチア共和国の統治と、島は近代に至るまで目まぐるしい歴史を辿ります。これだけたくさんの国々に干渉されることになったのも、位置的な意味のみならず、この島があらゆる側面において魅力的だったからだといえるでしょう。
私はかつてベネチアからギリシャに向かう船に乗っていた際に、寄港して訪れたことがありますが、少し散策しただけでこの小さな島の美しさの虜になってしまいました。
ベネチア共和国の統治下に置かれていたころの要塞に、当時の趣をそのまま残しながらもどこかエキゾチックな旧市街、たくさんのイコンが飾られたギリシャ正教会に修道院、ケルキラに魅せられたオーストリアの皇妃エリザベートが建てたネオクラシック様式の別荘。まるでテーマパークのようですが、全て歴史がもたらした正真正銘の軌跡です。
この島を囲むイオニア海のエメラルドグリーンに輝く海の美しさもさることながら、今も昔も人々の羨望を集めてやまない理由は、一度訪れてみれば一目瞭然。文化も自然も堪能できる、まさに神からの恩恵のような島なのです。
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。日本女子大学国際文化学部国際文化学科特別招聘教授、東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、1・2巻が好評発売中。
(SKYWARD2025年8月号掲載)
※記載の情報は2025年8月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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