とっておきの話

西安 空海が学んだ聖地・青龍寺【ヤマザキマリの世界逍遥録】

文・イラスト/ヤマザキマリ

西安を訪れたのは、シルクロードをテーマにしたテレビ番組の取材で中国の甘粛省を訪れるトランジットのためでした。夕方に到着した後、駆け足で市街地を巡り、とりあえず鼓楼周辺で名物の餃子を食べてホテルへ。ディレクターから翌日の出発時間がお昼ごろと言われ、それなら朝にぜひ行きたい場所があるのだと告げてみました。行き先を聞かれ「青龍寺です」と答えると、そばにいた中国人スタッフが「あそこなら地下鉄ですぐに行ける」とのこと、間に合えば問題なしということで、外出許可が下りました。

 
青龍寺は、西安がかつて長安だった時代に遣唐使として中国に渡った空海(弘法大師)が修行をした寺院です。その頃の長安はシルクロードの起点でもあり、さまざまな文明や人種が寄り集まる、現代のニューヨークのような国際的な大都市でした。空海はそこでイスラム教やゾロアスター教など、あらゆる宗教が渾然一体となった社会を目の当たりにして、さぞかし大きな刺激を受け、触発されたに違いありません。

 
翌朝、目覚ましの音で飛び起きると、地下鉄を乗り継いで青龍寺へ。早朝なので人影はほとんどなく、お寺の境内へ向かうと師である恵果から伝法を手渡されている空海のブロンズ像が目に入ってきました。台座には「空海真言密教八祖誕生」という文字が彫られています。

 
現在のお寺は発掘調査によってその地に青龍寺があったことが確かめられ、復興建造されたものですが、はるか唐の時代に空海がはるばる日本からここまでやってきたのかと思うと、感慨深いものが込み上げてきました。

 
日本からの寄贈で建てられたという記念堂を訪れた後は、再びホテルへ猛ダッシュ。本当につかの間の西安滞在ではありましたが、留学経験者の大先輩である空海ゆかりの場所を訪れることができた満足感はこの上なく、その後のテレビの仕事も順調にはかどったのでありました。

 
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、1巻が好評発売中。

 

(SKYWARD2024年9月号掲載)
※記載の情報は2024年9月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 

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