天を突く巨木と一面の苔が生み出す緑の世界――アメリカ、オリンピック国立公園

苔に覆われた巨木の間から、金色の光が差し込む神秘的な森。たっぷりと水蒸気を含んだ植物の息吹に包まれ、都会とは酸素の濃度すら違って感じられます。『A WORLD OF BEAUTY 2021』の6月に登場するのは、アメリカ・ワシントン州にある世界遺産「オリンピック国立公園」。童話の世界に迷い込んだかのような、壮大なスケールの自然のなかで行われた撮影の模様をお届けします。

 

▲世界で唯一の針葉樹の温帯雨林。高さ100mを超えるトウヒやモミの木からしだれる苔が独特の景観を生み出しています。

 

アメリカ西海岸有数の大都市、シアトルへ

 
今回の目的地、オリンピック国立公園の最寄り空港はシアトル・タコマ国際空港。日本からは成田空港よりJALの直行便が運航されています。撮影クルーは日程の関係で羽田空港からサンフランシスコ国際空港を経由してシアトル入り。シアトルは人口約63万人、アメリカ西海岸でも有数の大都市です。航空・宇宙産業やIT関連産業の世界的大企業の本拠地として発展を続けているエリアでもあります。これから向かう大自然とは対照的な大都会に降り立ち、空港からオリンピック国立公園へは車で約4時間20分。翌朝からの撮影に備えて、シアトルからおよそ3時間半かけてロケ地近隣の町フォークスへと移動しました。

 

世界唯一の針葉樹の温帯雨林「ホー レインフォレスト」

 
いよいよ撮影初日。総面積約3,730㎢のオリンピック国立公園は、日本の奈良県がすっぽり入ってしまうほどの広さです。太平洋の海岸線、公園中央を貫くオリンピック山脈、そして温帯雨林の三つのエリアから成り立っています。我々が向かったのは三つある温帯雨林のなかでも最大の面積を誇る「ホー レインフォレスト」。オリンピック山脈の西に広がる温帯雨林は、山脈にぶつかった雲が豊富な雨を降らせるため、年間3,500~4,000㎜もの降雨量があるといいます。しかし、この日は幸運なことに天気に恵まれました。ビジターセンターの駐車場に着くと、早速野生の鹿の姿も。レンジャーの女性と連れだって、いざ森の中へと踏み込みます。

 

100mを超す大木と、木々からしだれる苔が織りなす神秘の光景

 
森の中は、樹齢数百年、高さ100mを超えるトウヒやモミなどの針葉樹が鬱蒼(うっそう)と立ち並び、足元には生い茂るシダ、そして木々の表面を覆う苔が織りなす緑の世界。その自然のスケールに圧倒されます。木々の枝からしだれる苔のカーテンはぬれた動物の毛のようで、しっとりと水気を含んだ透明感のあるグリーンがとても神秘的です。太陽が昇ると大地や植物に含まれた水分が一斉に蒸発し、霧が立ち込めてまるで森全体が深呼吸をしているかのよう。どこからか「キー、キー」と動物の鳴き声も響いてきます。鳥かと思いきや、この辺りに生息するエルク(ルーズベルトヘラジカ)の声だとレンジャーが教えてくれました。無数の生命に囲まれている感覚に、思わず現実を忘れてしまいそうになります。

 

 
連綿と続く自然の営みを感じるこんな光景も。「倒木更新」という、寿命や風などで倒れた古木を礎に、新しい世代の木が育つ現象です。上に立つ木も相当な樹齢を重ねた大木で、この森に流れる長い長い時間を肌で感じました。秘境のようにも見えるホー レインフォレストですが、ビジターセンターを起点に何種類かのトレイル(歩くルート)があります。1.2㎞ほどの手軽なショートトレイルから、30㎞を超える本格的なトレイルまで、目的に応じて散策を楽しめます。我々はベストショットを求めて、3日間あちこちのトレイルを巡り撮影を敢行。森に差し込む光を受け、赤いレインコートを着たバレエダンサーの姿が小川に映る幻想的なカットがカレンダーに採用されました。

 

地元のリアルな生活感を味わえるフォークスの町

 
3日間にわたる撮影の間に宿泊したのは、ホー レインフォレストのビジターセンターから車で約50分のところにある、フォークスというのどかな町。モーテルや、地元の住民で賑わうバーガーショップにコーヒースタンドなど、映画やドラマで垣間見るアメリカ郊外の町の雰囲気を味わうことができます。森での撮影のお弁当は、コーヒーショップで作ってもらったサンドイッチ。撮影を行った11月下旬、森の中は震えるほどの寒さだったため、初日の夜に温かいコーヒーを入れるポットを急遽購入しました。

 

文明世界への帰途。フェリーから見るシアトルの風景

 
撮影を終えた帰り道、湖沿いを通りかかると美しい虹がかかっていました。一同疲れを忘れてしばし見入ります。シアトルへは、往路で利用しなかった車ごと乗り込めるフェリーを使うことに。陸路より、若干アクセスの時間短縮になるルートです。

 

 

 
ベインブリッジ島とシアトルのウォーターフロントを結ぶベインブリッジ・アイランド・フェリーは、観光客だけではなく、地元の人々の移動手段として親しまれている交通機関で、車のほかバイクや自転車で乗り込む人々の姿も見られます。すっかり日が落ちるころ、3日ぶりにシアトルの市街地へ到着。ランドマークであるスペースニードルをはじめ、高層ビルやスタジアムなどが煌々と輝く街灯りに、大自然から文明世界へ帰還した、という気分になります。しかし、本来生き物として「帰る」のはどちらなのか?そんなことも考えさせられた撮影の旅でした。

 

シアトルのお土産スナップ

▲左/アメリカの国立公園のスタンプを集められる手帳「Passport To Your National Parks」。右/オリンピック国立公園やホー レインフォレストのステッカー。種類が豊富。

 

▲左/ベインブリッジ・アイランド・フェリーの中で売っていたエコバッグ。右/宿泊したフォークスの町で購入した、地元のハイスクールのアメリカン・フットボールチームのTシャツ。

 

アメリカ、オリンピック国立公園までのアクセス

東京(羽田・成田)よりシアトル・タコマ国際空港までJAL直行便が運航。もしくは東京(羽田・成田)よりサンフランシスコ国際空港、東京(羽田・成田)、関西からロサンゼルス国際空港を経由してシアトル・タコマ国際空港へ。シアトル・タコマ国際空港からオリンピック国立公園へは車で約4時間20分。

 

カレンダー撮影:谷口 京


たにぐち けい/フォトグラファー。1974年京都市生まれ、横浜市育ち。日大芸術学部写真学科を卒業後、ニューヨークを拠点に独立。雑誌や広告撮影のかたわら「人と自然の関わり」をテーマに世界約60カ国を旅したのち帰国。ヒマラヤをはじめ国内外の山に登る冒険好き。

 

 

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