年に一度、ピンクのベールに包まれる山へ——大分、平治岳

山肌を覆う鮮やかなピンクのベール。その正体は「ミヤマキリシマ(深山霧島)」です。ツツジ科の一種で、紫紅色や桃色、薄紅色の花をつけ、主に九州各地の高山に自生しています。なかでも大分県九重連山の一角、「平治岳(ひいじだけ/標高1,643m)」のミヤマキリシマは別格といわれる美しさで、多くの人々に愛されています。『A WORLD OF BEAUTY 2021』(普通判・卓上判)の5月は、「天空のお花畑」と称される平治岳がその舞台です。

 

▲この風景が見られるなら、約3時間のトレッキングも苦になりません。

 

目指すは「天空のお花畑」

 
年間を通して四季折々の変化が楽しめる平治岳。今回のメインビジュアルとなるミヤマキリシマの見頃は、だいたい5月末から6月上旬だそうです。初夏の澄みきった空の下、鮮やかなピンク色に染まるこの「天空のお花畑」を目的にこの時期、全国から大勢の登山客が訪れます。私たち撮影クルーの思いも同じで、多くの人々が訪れるのは承知のうえ。限られた条件のなかで、心ときめくようなシーンをねらいます。

 

苦あれば、絶景あり

 
6月初旬。撮影初日はスケジュールの関係で午後からトレッキング開始となりました。目的地までは3時間ほどの道のり。途中、「坊ガツルキャンプ場」には色鮮やかなテントが張られていました。思い思いに楽しむキャンパーたちを横目に、機材を背負いながらハードなトレッキングは続きます。こういった撮影では、やはり体力やフットワークがものを言うようです。また、この日は好天に恵まれた分、時期的に気温も結構高くなりました。しかもここは日を遮るものがあまりありません。特に夏場に訪れる方は水分補給など、注意が必要です。
目的地に到着したころには日は傾き、既に登山客の姿もまばらでした。そしてついに噂の「天空のお花畑」とご対面。麓から見える感じとは違い、ピンク色はより鮮やかで力強さを感じます。カメラ位置をいくつか定め、数カットの撮影を試みて初日を終えました。

 

人気スポットは、カメラマン泣かせ

 
撮影二日目。日が昇るころに宿を出て、前日チェックしていた撮影ポイントへ。朝ということもあって、ミヤマキリシマとみずみずしい緑のコントラストがより美しく際立って見えます。朝は数えるほどだった登山客も、平日にもかかわらず時間が経つにつれてどんどん増えていきました。写真映えするポジションやアングルは、登山客の皆さんもよくわかっていらっしゃるようです。そんな登山客に交じって、光の入り方を計算に入れながらタイミングをじっと待つカメラマンの谷口 京氏。ご存じのように写真のクオリティーやテイストは、光の捉え方で大きく変わってきます。お昼をとりながら待つこと数時間。光の入り具合もいい感じになってきました。ようやく登山客も減り始め、じっくりカメラ位置を定めて撮影再開。モデルのバレエダンサー、七瀬莉砂さんも気合いを入れ直して渾身の舞を披露してくれました。そのでき映えは、ぜひカレンダーをご覧ください。

 

歴史の息吹を感じる“九州の小京都”をぶらり

 
撮影を終えたクルーは、ちょっと足を延ばして大分の観光スポットへ。平治岳から車で1時間あまりの日田市へやってきました。九州北部の交通の要衝として栄え、“九州の小京都”とも呼ばれる日田市。そのなかでも豆田町(まめだまち)は江戸末期から昭和初期の建物が多く残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている人気のエリアです。情緒ある街並みを楽しみつつ、街のランドマークのようにそびえる煙突のもとへ。こちらの「クンチョウ酒造」は、江戸時代・元禄15(1702)年に建てられた酒蔵で、今も酒造りを行っている老舗の蔵元です。日田が最も栄えた時代に建てられた酒蔵群の風格は圧巻のひと言。かつて使われていた酒造りの道具を間近で見学できる資料館も併設されており、歴史の息吹を感じることができます。もちろん試飲も可能です。併設するカフェでは、甘酒とアイスクリームでできたスムージーをテイクアウトしました。

 

大分のお土産スナップ

▲左/九重連山の全景を描いた手ぬぐい。平治岳の頂上はしっかりピンク色に。右/杉の木目が美しい日田下駄。江戸時代から続く特産品です。

 

 

平治岳へのアクセス

東京(羽田)、大阪(伊丹)から大分空港までJALグループ便が運航。大分空港から車で、杵築沿海路、大分空港道路、日出バイパス、東九州自動車道、大分自動車道、やまなみハイウェイなどを利用して、約1時間40分。駐車場あり。

 

カレンダー撮影:谷口 京


たにぐち けい/フォトグラファー。1974年京都市生まれ、横浜市育ち。日大芸術学部写真学科を卒業後、ニューヨークを拠点に独立。雑誌や広告撮影のかたわら「人と自然の関わり」をテーマに世界約60カ国を旅したのち帰国。ヒマラヤをはじめ国内外の山に登る冒険好き。

 

 
 

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