とっておきの話

空の道【キャプテンの航空教室】

文/日隈 嘉優 イラスト/高橋 潤

本日もご搭乗いただき、誠にありがとうございます。皆さまは今、どの辺りを飛行中でしょうか。日本の上空ですか?太平洋の上空ですか?雲の中や目印のない空を、飛行機が迷わずに目的地に到着できるのは、空に道があるから。今日は空の道についてお話しします。

 
飛行機が初めて空を飛び始めた頃は、空にはまだ道はなく、パイロットは地上の目標物や星を見ながら位置を確認する必要があったため、天気のいい日を選んで飛行していました。その後、電波を使った道が登場します。2基の電波塔を設置するとそこに1本の道ができます。この電波塔を多く作ることによって、それぞれを結んだ空の道、航空路ができ上がりました。そして、飛行機に電波がどこから来ているかを解析する装置を付けることによって、雲の中でも安全に飛行できるようになったのです。

 
では、この電波塔を設置できない洋上ではどうやって飛行しているのでしょうか。実は、飛行機にジャイロ(宇宙コマ)を載せて自機の位置を計算しながら飛んでいます。安定した高速回転しているコマに力を加えると元の軸に戻ろうとする、この慣性力を計算して自機の位置を推定しながら飛行するのです。しかし推定位置なので、このジャイロのみを利用した航法で長時間飛行するとズレが生じます。私がパイロットとして飛び始めた1990年代、太平洋を横断しアメリカの西海岸に到達した際に、通過予定地点からズレた場所にいることがありました(ただ、国際基準では18km程度のズレまでは許容されています)。

 
そしてこの航法を応用することで、陸上でも電波塔を使わずに、任意の地点を結んだ直行経路を飛べるようになりました。近年では自機の位置をGPSで確認することも認められたので、格段にズレが小さくなりました。この結果、正確さを求められる空港への着陸の際、これまで地形等により不可能だった滑走路への進入が可能に。また、洋上では飛行機の管制間隔を短くすることができ、同一空域により多くの飛行機が飛行できるようになりました。もちろんGPSを使用せずとも、他の航法で安全に空の道を飛行できるよう備えています。どうぞ安心してご搭乗ください。

 
この春、新しい道を歩み始める方もいらっしゃると思います。私のパイロットへの道は、地元、熊本における航空教室がスタートでした。JALの「空育(R)」*では、パイロットによる航空教室を実施しています。昨年、パイロット有志が内容をリニューアルし、小学生から高校生の各年齢に応じたプログラムを揃えました。パイロットの話を直接聞ける機会ですので、JAL Webサイトからぜひご応募ください。お待ちしています!

 

*実施希望月の3カ月前までにお申し込みください。予約状況により実施できない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

 

日隈 嘉優 Hinokuma Yoshimasa
JAL
ボーイング777型機 機長
出身地:熊本県
趣味・特技:ゴルフ
座右の銘:実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな

 

(SKYWARD2023年3月号掲載)
※記載の情報は2023年3月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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