とっておきの話

パイロットの訓練は「何でもあり」【キャプテンの航空教室】

文/河野 裕文 イラスト/高橋 潤

JALグループの翼をご利用いただき、誠にありがとうございます。

 
今回はパイロットの訓練に使用するシミュレーターの紹介をしたいと思います。私たちが訓練に使用しているシミュレーターはフルフライトシミュレーター(以下、FFS)と呼ばれており、パイロットの操縦操作を基に機体の反応をコンピューターで計算し、計器やパイロットの視界、加速度、音などを出力することで、実際のコックピットの中を再現しています。操縦感覚も実機と同様に再現されています。

 
国の定めや各航空会社の規定などにもよりますが、非常に再現度が高いことから、この装置による訓練、審査をすることで実際の飛行機で訓練を行うことなく機種(型式)ごとのライセンスを取ることも可能です。

 
それではFFSでできることを紹介いたします。エンジン、電気系統、油圧系統、着陸装置、計器などについて、実機ではできないさまざまな状況を設定できます。

 
視界については地形や建物なども精巧に表現されており、ほかの航空機や、積乱雲などを出現させることも可能です。さらに、風、外気温、気圧、視程、雲高、滑走路の滑りやすさなど、さまざまな環境についての設定もできます。

 
また、ほかの航空機との異常接近、ウインドシアと呼ばれる局地的な風の大きな変化、航空機の着氷、揺れなども自由に設定可能です。

 
以上のような機能により、まさに「何でもあり」な訓練を行えます。そのなかで機長と副操縦士で協力し、どのような状況においても、安全に飛行機を運航させることが求められます。

 
さらに、「冬季における羽田空港で、大雪、強風、滑走路の滑りやすさの状態は運航できる基準のギリギリ」といった環境の訓練をした後に、夏季の那覇空港における台風を想定した強い横風の訓練を同日に行えるのも、FFSの特徴です。

 
このような「何でもあり」な訓練はパイロットにとって大変なときもありますが、判断力を養うとともに、自身の技量を確かめるよい機会となり、パイロットの醍醐味であると感じています。

 
そしてFFSを使用する最大のメリットは、安全に訓練を行うことができるということです。

 
訓練中の安全確保は航空会社の責務の一つとして強く認識しており、リスクのある訓練については実機で再現することなく、すべてFFSを使用して行っています。またFFSは建物内にあるので、実際の天候やほかの訓練機の状況などに左右されません。これにより効率的な計画を立て、訓練を実施することができます。

 
JALグループのパイロットは日々自己研鑽(けんさん)し、「何でもあり」な訓練を受け、情熱を持って安全運航に努めていますので、皆さま安心して空の旅をお楽しみください。

 

河野 裕文 Kawano Hirofumi
ボーイング737-800型機 機長
JTA
出身地:東京都
趣味・特技:サーフィン
座右の銘:Be gentle

 

(SKYWARD2022年6月号掲載)
※記載の情報は2022年6月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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