とっておきの話

まずは“自分がどうか”【キャプテンの航空教室】

文/馬場 照久 イラスト/高橋 潤

私は、パイロットが所属する乗員部という部署で、副操縦士の人財育成に関わっています。教官ではありませんが、一パイロットの私がどのような思いで育成にあたっているのかを、ご紹介します。

 
まず、訓練生はパイロットになるための訓練が終わると副操縦士に昇格しますが、同時に機長昇格を目指して自己研鑽が始まります。パイロットは訓練や試験が多く、悪天候などさまざまな状況への対応が必要な仕事です。このような状況では、他人や環境に依存していたら乗り切れません。そこで私は、自分の力で壁を乗り越えられる、どんな困難・条件でも自らの能力と可能性を最大限に発揮して道を切り開いていこうとする副操縦士の「自律型姿勢」を育むことに取り組んでいます。自律型姿勢の特徴は、失敗を糧にする、自分に期待し自分の出番にする、自由や可能性を感じている、といった生き方を求めます。これが育成のゴールイメージです。

 
普通はつい、あれこれと育成の手法に注目しがちですが、そもそも私自身が話を聞いてもらえる存在か、信頼されている存在かがもっと重要です。いくら指導しようとしても、信頼してもらえず、話を聞いてもらえないのでは、あまり成果が上がらないのです。指導する前に、まず自分が手本になっているか、相手を信頼しているか、心から話を聞いてもらうために自分が相手の話をちゃんと聞いているか、自分が自律型姿勢で生きているか─。時には失敗もありますが、充実した人生を生きて、副操縦士たちに「こういうふうになりたい」と思ってもらえているかが大事です。

 
ところが人間はそんなに簡単ではありません。無意識だと私は安楽に流され、人や環境に依存し、楽をしたいと思ってしまいます。決して依存型姿勢が悪いというわけではありません。時には楽も必要です。しかし、楽でい続けようとすると、人や環境は思いどおりにならなくなって不満がたまり、楽でいられなくなります。逆に自律型の生き方は充実感や達成感、幸福感を味わえる機会が増えるのです。そこで私は自律型を忘れないための工夫の一つとして、10個のポリシーを決め、ときどき思い出しています。僭越ながらご紹介します。

 
(1)毎日を楽しむ・人生を楽しむ、(2)心身健康、(3)家族を大切にする、(4)夢や目標をなるべく具体的に持ち共有する、(5)プラス受信を意識、(6)率先垂範・見本となって行動、(7)傾聴、(8)相手の立場や視点に立って考え行動する、(9)相手を受け入れて感謝する、(10)思いやりの気持ちを持つ。

 
いろいろ書きましたが、教官ではない私が育成のために何をやっているかといいますと、まずは自分が本気になる、自分から信頼する、そして自分自身が充実して幸せに生きるということです。まずは“自分がどうか”を考えています。皆さんは何かポリシーなどお持ちですか?

 
本日はご搭乗ありがとうございました。

 

馬場 照久 Baba Teruhisa
JAL
737-800型機 機長
出身地:長崎県
趣味:サーフィン、散歩
座右の銘:プラス受信

 

(SKYWARD2022年5月号掲載)
※記載の情報は2022年5月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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