青い海を覆うファンタジックな氷の世界へ ― 知床

オホーツク海に70kmほど突き出た北海道北東部に位置する知床半島。知床というこの地名は、アイヌ語の「シリ・エトク(sir・etok)」に由来するといわれています。“sir”は「陸地・大地」、“etok”は「先端・前」。すなわち「大地の突端」を意味します。太古の自然をそのまま残し、海に森に動植物たちの楽園が広がる知床。『A WORLD OF BEAUTY 2021』11月は、世界自然遺産、知床の海を覆い尽くすアイスブルーの世界が舞台です。

 

▲遥か遠くシベリアのアムール川から、1,000kmもの旅をしてきた流氷が知床に辿り着くのが1月下旬。この時期、オホーツク海は海面の約80%が流氷に覆われます。温暖化の影響か、流氷の数は以前より少なくなっているそうです。

 

極寒の知床の海にて、流氷と戯れる人びと

 
知床の2月の平均最低気温、マイナス9.6度。到着した日はどんよりとした曇り空。早速海へ出てみると「流氷ウォーク」を楽しんでいるグループがいました。流氷ウォークというのは、ただ流氷の上を歩くだけではありません。高い保温性と浮力を兼ね備えたブーツ一体型のドライスーツに身を包み、流氷の上に寝転んだり、海に入って流氷と一緒に浮かんだりするアクティビティー。ドライスーツのおかげで泳げない人でも楽しむことができます。空を見上げると天然記念物のオオワシがこの辺りを見守るかのように旋回していました。

 

気まぐれな北の海の氷たち

 
撮影初日は見事な快晴。流氷の上での撮影シーンを思い描きながら胸躍らせてロケの場所に行くと……。なんと前の日にあった流氷のほとんどが消え去っていました。幻想的な氷の世界が一夜にして冬の青い海原に。風向きと強い潮の流れによって、見渡す限りあった流氷が沖に流れていってしまったようです。大自然の力というものを思い知らされました。

 

アイスブルーにきらめくステージはいずこ

 
気持ちを切り替えて、別のポイントで厚めの流氷を探すことにしました。でも残念ながらこの日の流氷は、どこも思い描いていたイメージとは程遠いものでした。しかも氷の薄い所を踏んでしまい、海に落ちる撮影クルーが続出。そんな状況のなかで、氷上での温かいコーヒーが気分を和らげてくれました。ガイドさんによると、この辺りでは運がよければアザラシや海中のクリオネを見ることができるとか。また、流氷同士がぶつかり合う動物の鳴き声のような「流氷鳴き」を耳にすることができるそうです。

 

オホーツクの海を潤す大切な存在として

 
今でこそ多方面で注目されている流氷ですが、その昔、海を閉ざしてしまう流氷は、特に漁業を営む人びとにとっては厄介な存在だったようです。しかし、流氷が運んでくる豊富な栄養分がプランクトンを育み、それを餌にする魚介類はもちろん、クジラやイルカ、アザラシやトドなどの海獣類や海鳥など、さまざまな海の生き物がその恩恵を受けていることが知られるようになると、人びとの意識が変わったといいます。今日では冬の観光のメインにもなっている流氷。そんな流氷の訪れを一番心待ちにしているのは、オホーツクに暮らす人びとなのかもしれません。

 

流氷と陽の光が描くアイスブルーのステージへ

 
撮影最終日。流氷のコンディションがかなりよくなってきました。大きな流氷がひしめき合う知床の海。あと欲しいのは太陽光。十分期待が持てそうな感じです。やがて、一瞬青空が見えて、薄曇りの合間から光が差すと、流氷の断面が美しいアイスブルーにきらめきだしました。まさしく私たちが求めていた情景です。スタンバイしていたダンサーの高見昌義さんは、すぐさまアイスブルーのステージで流れるようなポージング。こうしてミラクルショットともいうべき一枚が11月のカレンダービジュアルを飾りました。

 

銀世界のトレッキングへの誘い

 
今回は、運よく美しい流氷での撮影がかないましたが、実は流氷が来なかった場合を想定して知床の森のロケハンも行っていました。かなりの雪が積もっていましたが、ガイドさんが用意してくれたスノーシュー(西洋かんじき)が大活躍。静かな森の中で、風の音、雪を踏みしめる音が心地よく響いていました。ご存じのように世界自然遺産の知床の森にも、シマフクロウやシレトコスミレといった絶滅危惧種や希少な動植物が広く分布しています。私たちが入った森ではエゾシカに遭遇。キツツキの巣やエゾユキウサギの足跡なども発見しました。流氷はもちろんですが、冬の知床では森の大自然を楽しむのもおすすめです。

 

知床のお土産スナップ

▲左/昭和の香りがする木彫りの熊。鮭をくわえたお馴染みのタイプです。右/流氷のアイスブルーが再現された「流氷飴」。爽やかな味がするかと思いきや、ほろりと甘い自然な味わいです。

 

 

知床(ウトロ)までのアクセス

東京(羽田)、札幌(新千歳・丘珠)から女満別(めまんべつ)空港までJALグループ便が運航。女満別空港から車もしくはバスを利用して、約2時間半で知床へ。

 

カレンダー撮影:谷口 京


たにぐち けい/フォトグラファー。1974年京都市生まれ、横浜育ち。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、ニューヨークを拠点に独立。雑誌や広告撮影のかたわら「人と自然の関わり」をテーマに世界約60カ国を旅したのち帰国。ヒマラヤをはじめ国内外の山に登る冒険好き。

 

 

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