鹿児島市内から見ると、錦江(きんこう)湾(鹿児島湾)の対岸、桜島の向こう側に長く延びているのが大隅半島だ。大隅半島はそのほとんどが鉄道空白地域。そのぶん、海と山に囲まれた豊かな大自然があり、いまだに秘境的な雰囲気がたっぷりと残されている。
まずは本土最南端の地、佐多岬を訪れ、その後、かんぱち養殖の町として知られる垂水(たるみず)市、「かごしま黒豚」をはじめ畜産が盛んな鹿屋(かのや)市、半島の東部に位置する志布志(しぶし)市を巡ってみたい。
目次
最南端の地ならではのダイナミックな大パノラマ!
鹿児島空港から車で約2時間、鹿児島市内から桜島フェリーあるいは鴨池・垂水フェリーを利用しても約2時間。同じ鹿児島県といえども、大隅半島の南端に位置する南大隅町まではそれくらい時間を要する。さらに最南端の佐多岬へは30~40分ほどのドライブ。ようやく駐車場に辿り着いたと思ったら、ここから展望台まで歩いて15~20分ほどかかるという。
ソテツやフェニックスといった亜熱帯植物が深く生い茂る展望台までの遊歩道は、まさに大自然がつくり上げた秘境のトンネル。途中に縁結びの神様として知られる本土最南端の神社「御崎(みさき)神社」が鎮座しており、ただよう空気もどことなく神々しい。
その先にある佐多岬展望台は大隅半島随一の絶景ポイント。360度見渡せる屋上デッキからは、荒々しい岩礁の上で圧倒的な存在感を放つ白亜の「佐多岬灯台」が見える。その奥に広がるのは太平洋や東シナ海、錦江湾の大海原。薩摩半島の南端にある開聞岳(かいもんだけ)も見えるし、よく晴れた日には屋久島や種子島も一望できる。
ちなみに海と空に囲まれた佐多岬はサンライズもサンセットも、さらには夜の星空観賞にもうってつけ。もうこれ以上先がない最南端地で、地球が丸いことを実感することだろう。あるいは大自然のダイナミズムに癒やされるのもいいかもしれない。いずれにせよ佐多岬には、ここまで足を運んだからこそ出合えるすてきな何かが待っている。
佐多岬 自然
住所:鹿児島県肝属郡南大隅町佐多馬籠417
電話:0994-27-3151(佐多岬公園観光案内所)
桜島を眺めながら、日本一のかんぱちに舌鼓
大隅半島の西海岸にある垂水市は、鹿児島市街から見て、桜島を挟んだちょうど対岸にあたる。大正3(1914)年の桜島大噴火により桜島と陸続きになり、その桜島の麓に広がる錦江湾は古くから漁業で栄えてきた。中でも垂水市漁業協同組合は1960年代から「取る漁業から育てる漁業へ」とシフトチェンジし、かんぱちの養殖で成功を収め、今や単一の漁協としては日本一の生産量を誇っている。
その垂水市漁協が養殖するブランド魚が極上かんぱち「海の桜勘」。目の前に桜島を望む海潟(かいがた)漁港に、このブランドかんぱちを提供する食堂があると聞きつけ、さっそく立ち寄ってみることに。
ブランド名そのままの食堂「味処 海の桜勘」があるのは、垂水市漁協直営加工場の2階。すぐ目の前の海から朝取れた「海の桜勘」が、新鮮そのもの、最高の状態でいただけるというワケだ。
「目の前の錦江湾は平均水温22度と温かく、平均水深は約120mと深いんです。さらに高隈(たかくま)山系のミネラル豊富な水が流れ込み、かんぱちの養殖漁場としては最高の環境が整っています」とは垂水市漁協の中島紀子さん。さらにエサには鹿児島県産のお茶や焼酎粕を配合。これによりビタミンEが増加し、鮮度の保存にもつながっているという。
そんな取れたての「海の桜勘」を思いっきり味わうなら「西郷どん定食」がおすすめ。メインの刺身は、背身、腹身、炙りの3種類。さらに調味料として、塩、レモン、さしみ醤油、特製ドレッシングが用意される。安定の醤油はもちろん、塩やレモンでさっぱりいただいてもいいし、ドレッシングでカルパッチョ風にするのも美味。少し厚めに切られた極上のかんぱちは歯ごたえもほどよく、身自体に甘さがのっている。気に入ったら、お土産として一尾まるごと発送も可能とのことだ。
味処 海の桜勘 食
住所:鹿児島県垂水市海潟643-14
電話:0994-32-0321
鹿児島でとんかつといえばココ、と言われる名店!
続いては海沿いの垂水市から少し内陸に入った鹿屋市へと向かう。鹿屋市をはじめとする大隅半島は県内でも有数の畜産の本場だが、その鹿屋市で初めてとんかつ専門店として開業したのが今回の目的地「とんかつ竹亭」。訪れたのは平日の昼過ぎだというのに、まさかの大行列。聞けば、鹿児島市に2店舗、霧島市に1店舗を構える人気とんかつ店の本店だという。
しばらく並んだ後に「上とんかつ定食」を注文すると、たっぷりのキャベツにこんがりと揚がったとんかつ、みそ汁にご飯に漬物という、王道スタイルのとんかつ定食が運ばれてきた。鹿児島=「かごしま黒豚」と思いきや、特にブランドにはこだわっていないという。店主の久保竹弘さんはこんな風に説明してくれた。
「鹿児島県産の豚を使用していますが、肉の状態、仕入れの状況、お客さまにやさしい価格帯を考慮して、その日もっともいい豚肉を厳選しています。ブランド肉に頼らないのは、逆に畜産県の鹿児島だからこそできるやり方です」
豚肉本来の味わいをしっかりと味わってほしいとの思いから、余計な味付けなどはせず、シンプルに塩コショウで調理。パン粉は薄めにまとわせ、低温の油でじっくりと火を通してから、最後に高温の油でカラリと二度揚げにする。飽きのこないシンプルなとんかつだからこそ、揚げ物にもかかわらず高齢の常連客も目立つ。休日には家族3世代で来店する長年のファンも多いという。
やはり特製のオリジナルソースでいただくのが定番だが、地元鹿屋市の「マルイ醤油」や佐多岬の釜焚き塩「楽塩」で食べてもいいという。「ウチは町の定食屋ですから、お客さまの好きに味わっていただけたらいいんですよ」と久保さんは笑いながら話してくれた。畜産の本場のとんかつはシンプルゆえに奥が深い!
とんかつ竹亭 鹿屋本店 食
住所:鹿児島県鹿屋市西大手町9-15
電話:0994-43-3383
世界でひとつだけのオリジナル焼酎づくり!
最後に立ち寄ったのは、大隅半島を横切り、東部に位置する港町の志布志市。焼酎どころの大隅半島には数多くの焼酎蔵が点在するが、今回は随時見学を受け付けており、直売所が併設されている、志布志市の「若潮酒造」へ。さらにここでは世界でひとつだけのオリジナル焼酎「ブレンド体験」ができるというではないか!
「少しでも多くの方に焼酎に興味を持っていただけるように、この『ブレンド体験』を始めました。ですからお気軽にご参加ください」と話すのは、蔵元スタッフの川崎剛嗣さん。「ブレンド体験」では、原料の芋の種類、麹の種類、熟成具合などが異なる6種類の焼酎原酒を、試飲を重ねながら、自分の好みにあわせてブレンドしていく。6種類すべての原酒を使用してもいいし、2~3種類だけでもOK。自らブレンドすることで、華やか系が好きなのか、スッキリ系が好きなのか、はたまた芳醇系が好きなのか、自分好みの焼酎の味わいもわかってくるという。
ブレンドが終わったら、ラベルやシール、ラインストーンなどでボトル自体もお好みにデコレーション。世界でひとつだけのオリジナル焼酎の完成だ。「お土産にするのはもちろん、父の日や誕生日のプレゼントのために参加される方も多いですね」と川崎さん。
また「若潮酒造」では年間を通じて蔵の見学を受け付けている。世界で唯一といわれる職人によって造られる伝統的な木樽蒸留器をはじめ、約60mに及ぶトンネル貯蔵庫の他、9~11月には実際に芋焼酎の仕込みを間近で見られるチャンスもあるという。
「ブレンド体験」や蔵の見学を終えたら、蔵に併設されている直売所でお楽しみのお土産探し。定番の「さつま白若潮」やフラッグシップの「千亀女(せんがめじょ)」、世界で唯一の木樽蒸留器製のクラフトジン「424GIN」もいいけれど、せっかく志布志の蔵元まで来たら蒸留所限定のお酒にも手を伸ばしたいところ!
若潮酒造 体験 買物
住所:鹿児島県志布志市志布志町安楽215
電話:099-472-1185
URL:https://wakashio.com
鹿児島の奥深き魅力を、半島旅で発見!
錦江湾の東に長く延び、本土最南端の佐多岬を有する大隅半島は、決してアクセスがいいワケではないけれど、そのぶん海と山が織りなすダイナミックな自然が広がり、いかにも半島らしいゆったりとした時間が流れる。絶景はもちろんのこと、旅先で出合うなにげない風景もどこか懐かしく、旅情を誘う。この半島ならではの地元グルメを味わいながら、まだ見ぬ風景を探しに、本土最南端の地、大隅半島へと出かけてみてはいかがだろう。
※掲載施設の情報は変更されていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。
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