(たみや きょうじ)
民谷螺鈿株式会社 代表取締役。1969年京都府京丹後市生まれ。大学卒業後、京都・室町の帯問屋に就職。4年間の修業を経て京丹後に戻り、家業に携わる。先代である父の勝一郎が完成させた螺鈿織の技術を継承。2005年「丹後テキスタイル」としてジャパンブランド育成支援事業に採択、06年より毎年パリで展示会を開催。13年、パリで開かれる世界最高峰の国際的テキスタイル見本市「プルミエール・ビジョン」に設けられた「メゾン・デクセプション」に招聘、以降出展を続ける。世界的なハイブランドからのオファーを受け、パリコレクション、ニューヨークコレクションなどでも発表されている。
https://tamiyaraden.com
丹後ちりめんの伝統から、世界のテキスタイルへ
帯に織り込まれた精緻な柄は、プリズムのように表情を変え、美しい色彩と光を放つ。まるで海のきらめきのように─。
1300年以上の歴史を誇る絹織物の産地で、江戸時代から続く「丹後ちりめん」で知られる京都・丹後地方。その中心にある京丹後市で生まれたのが、国内外でも例を見ない、まさに唯一無二の織物「螺鈿(らでん)織」だ。金箔や銀箔を貼った和紙を細く裁断して糸にする「引箔(ひきばく)」の技術を応用し、金・銀箔の代わりに薄く切り出した貝殻を用いる。


▲貝殻の真珠層を薄く板状に切り取って使う。柄の図面を専用の接着剤がついた和紙に転写し、そこに貝殻を切り抜き、貼っていく。
▲貝殻の真珠層を貼った和紙を細く裁断して糸に。
1979年、民谷螺鈿の創業者、民谷勝一郎さん(故人)が開発した。京都西陣の織元からの仕事を丹後の機屋に下請けに出す代行業を営む中、「この地でしか作れないものを」と奮起した勝一郎さんは、正倉院展で目にした螺鈿細工の美しさに感動し、「貝殻を織物にできたら」とひらめく。「目の前には海があり、貝殻もたくさん手に入る。京丹後ならではの織物ができると父は考えたようです」と2代目を継ぐ民谷共路さん。割れやすい貝殻を糸に加工し、しなやかな織物にすることは決してたやすい挑戦ではなかった。2年間の研究の末、螺鈿織は生まれた。「『人とは違うことをせなあかん』。それが父の口癖でした」
▲螺鈿織に使われるのはアワビやカラス貝といった貝殻の真珠層。
そんな父の背中を見ながら、民谷さんは京丹後の豊かな自然の中で伸び伸びと育った。「海まで歩いてすぐやったから、タコ釣ったり貝拾ったり」。素潜りもお手のもの。「静かな海の中から見上げると、降り注ぐ光が海面に反射してゆらゆらと揺れ動き、光のきらめきが海の中に閉じ込められているようでした」
▲工房にて。
大学卒業後は京都の帯問屋に就職し、4年後、故郷へ。京都から送られてきた原料を地元の機屋へ配り、仕上がった織物を回収して京都に運んだ。機屋は個人の家も多く、当時は京丹後だけで100軒以上あった。「朝から晩まで車で走り回っていましたね」
多忙な日々を送りながらも、民谷さんは危機感を覚えるように。「ライフスタイルが変わり着物が売れなくなる中、織元や作家からの受注だけではこの先立ち行かなくなる。それどころか、千年以上京丹後に受け継がれてきた『財産』も失われてしまう」
▲「オリジナルの帯を作り始めたとき、上皇后美智子さまにお召しいただくことを目標にしました」と民谷さん。
1996年、オリジナルの帯の販売を開始。デザインは民谷さんが手がける。「アートもデザインも勉強したことなくて。美術番組は好きでよう見てたけど」と笑うが、螺鈿織は特殊な織物ゆえ、その原理を知り尽くしていないと繊細な柄や図案は描けない。問屋に勤めていた時代に美術品クラスの帯に触れ、目と感性が鍛えられたこともあるが、しかし、その源泉は「幼いころ海の中で見た、ゆらめく光にあるのかもしれません」。
▲独特のゆらめき、きらめきのある柄が唯一無二の美しさをたたえる螺鈿織。
螺鈿織のオリジナリティは海外でも勝負できると、2006年、パリとブリュッセルで展示会を開催。美しさはもちろん、新たなテキスタイルとしても高く評価され、ラグジュアリーブランドのオートクチュールにも採用されるように。また、螺鈿織を学びたいという海外のアートスクールの学生をインターンとして受け入れている。「世界のクリエーションやアーティストとの交流は、私たち職人にとっても大きな刺激や発見がある」と民谷さん。こう結んだ。
「織物の産地として京丹後が紡いできた歴史と伝統、文化を、時代に合った形で表現し、日本に、世界に向けて発信していきたい」
▲帯と同じ柄のカードケース。上質なイタリアンレザーと組み合わせ、全ての工程を手作業で丁寧に仕上げる。
京都府京丹後市へのアクセス
各地より大阪国際(伊丹)空港へ、伊丹空港よりコウノトリ但馬空港へJALグル
ープ便が運航。京丹後市までは但馬空港が便利です。
※最新の運航状況はJAL Webサイトをご確認ください。
(SKYWARD2025年2月号掲載)
※記載の情報は2025年2月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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