イタリア南部、プーリア州アンドリアの郊外にあるカステル・デル・モンテ(山の城)は、私たちがイメージする西洋のお城とは様子がかけ離れています。黄金比を成すこの八角形の建造物は、今からおよそ800年ほど前に、神聖ローマ帝国の皇帝だったフリードリヒ2世(イタリア語ではフェデリーコ2世)が建立したものです。
当時の南部イタリアは、ドイツに起源を持つホーエンシュタウフェン家の統治下にあり、フリードリヒ2世はこの一族の王である父親とシチリアの王女との間に生まれました。文化の交差路だった南イタリアにはギリシャにローマ、ビザンツ、ノルマン、そしてイスラムの影響が色濃く残っており、フリードリヒはそんな環境の中で広範な学識と知識を備え、駆使した言語は6カ国語とも7カ国語ともいわれています。
周りからは「世界の驚異」と称えられるほどの人間力を備え、ナポリには大学、サレルノにはヨーロッパ最古の医学校を設立。芸術や文学を擁護し、鷹を飼っていた本人も鳥類に関する学術書を執筆しています。この人の存在が、200年後のルネサンスという文化改革につながったとする解釈もありますが、カステル・デル・モンテを見ればフリードリヒがいかに型破りで、突出した人物だったのかが実感できるでしょう。
カステル・デル・モンテはお城ですが、軍事的要素は備わっていません。では何が目的で建てられたのかというと、鷹狩りの拠点ないし数学者や天文学者などを招聘して、ここでアカデミックな論議を交わしていたという説もあります。
何年も前になりますが、私がこのお城の内部に入った時は他に誰もおらず、八角形の空間の真ん中に佇んでいると、自分の脳もどんどん冴えわたるような気がしてきました。余すことなく人間力を謳歌したフリードリヒ2世がこの世に残した地球への愛情を、このお城を訪れると体感できるのです。
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。日本女子大学国際文化学部国際文化学科特別招聘教授、東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、1・2巻が好評発売中。
(SKYWARD2026年2月号掲載)
※記載の情報は2026年2月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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