旅への扉

御三家宿で非日常を味わう|大分 湯布院

文/黒澤彩 撮影/鮫島亜希子

▲野山の植物をいけた玄関。

晩秋から冬へと移ろう湯の里

稲藁(いなわら)が天日に干されている田園のなかを、馬車がぽくぽく進む。見上げれば、「豊後富士(ぶんごふじ)」ともいわれる由布岳(ゆふだけ)の稜線がくっきりと浮かび、紅や黄に色づきはじめた山から吹くひんやり乾いた風は、もうすぐ訪れる冬を告げていた。

 
日本でも屈指のブランド温泉地というイメージを他所(よそ)に、大分県湯布院(由布院)に広がるのはこんなにも長閑(のどか)な風景だ。いわゆる温泉街の風情とは異なり、別荘地のように湯宿が点在する。商店やカフェが並び、日帰り客でも賑わう「湯の坪街道」あたりを除けば、どこを歩いてもほとんど観光地の顔をしていない。

 

▲由布院名物の観光辻馬車。

 
それもそのはずで、四十年ほど前までは別府の奥座敷の一つとして知られていたものの、決して今ほど有名な土地ではなかったのだという。緑豊かな温泉リゾート地としての湯布院ブランドが全国に知れ渡ったのは、平成になってから。いくつかの宿を旗振り役に、宿で過ごす時間を楽しむスタイルも定着した。

 
慌ただしく名所を巡る旅よりも、ゆったりと滞在型の旅を。時代の変化にいち早く反応した温泉地といってもいいだろう。そして、そんなおこもり旅の需要は、この時世にあってますます高まっている。

 
湯布院でも憧れの“御三家”とされる宿のなかで最も新しい、「山荘 無量塔(むらた)」を訪ねた。

 

離れの部屋で非日常を味わう

▲「袍(ほう)」の部屋の内風呂。

 
「どのお部屋も森に佇むように建てられています。窓の外に鹿がやってくることもありますよ」

 
こう話すのは、開業当時からここで宿泊客をもてなしてきた内藤順子さん。12の客室すべてが離れで、明治時代の古民家を移築したり、古材を使って新たに建てたりと、一つ一つの部屋に個性があり、物語がある。先代のオーナーが好んで集めたという古今東西の調度品、和洋がうまく融合した室礼(しつらい)に見入ってしまう。

 
温泉も、それぞれの部屋に。窓を開閉できる内風呂の造りなので冬は寒さもしのげる。部屋から出なくても過ごせてしまうけれど、談話室やバー、敷地内にある系列店にふらりと出かけても。なにしろ1日12組しか泊まれないので、ほかの宿泊客と会うことも少なく、プライベートな時間を過ごしたい人にとってはこのうえなく恵まれた環境。最近は、1週間ほど連泊する人もいるのだとか。なんとうらやましい。

 

▲向附。冬は鯵、鯖の“関のもの”が旬。

 

▲ショコラティエ「テオムラタ」。

 

山荘 無量塔
住所:大分県由布市湯布院町川上1264-2
電話:0977-84-5000
URL:www.sansou-murata.com

 
黒澤彩
くろさわ あや/ライター・編集者。女性誌を中心に、花、食と料理、暮らしまわりの記事を執筆。書籍の企画編集も手がける。

 
鮫島亜希子
さめしま あきこ/東京生まれ、インドネシア育ち。藤代冥砂氏に師事。ポートレートやライフスタイル、旅写真を中心に活動中。カレー好きが高じ、スパイスユニットtributesとしても活動を広げている。

 

大分(湯布院)へのアクセス


東京(羽田)、大阪(伊丹)から、大分空港へJALグループ便が毎日運航。空港からは車、バスなどで移動。

 

(SKYWARD2020年12月号掲載)
※記載の情報は2020年12月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
※2020年11月9日時点での情報です。最新の運行状況はJAL Webサイトをご確認ください。
※掲載地の状況は変更なっていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。

 

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