旅への扉

秘境に佇む宿で、月見風呂を愉しむ|熊本 黒川温泉

文/黒澤彩 撮影/鮫島亜希子

山あいの隠れ宿で浮き世を忘れる

▲宿の裏手の小萩山から見た「月洸樹」。

 
県境を越え、高速道路を降りて山道を走ることしばらく。阿蘇山の北側、熊本県南小国町(みなみおぐにまち)の黒川温泉は、30軒ほどの旅館が集まる小さな温泉郷だ。

 

▲山の自然を間近に感じられる。

 
田の原川(たのはるがわ)沿いに奥ゆかしい風情の旅館や店が立ち並び、浴衣でそぞろ歩く人の姿もあった。温泉旅館が協力し合って景観の美しさをつくってきたのだという。旅館組合が発行する共通の入湯手形を買えば、各旅館のいろいろな露天風呂を利用できるという面白い仕掛けも気になるが、秘境の宿を目指して、さらに山の上へ。

 
2016年に開業した「黒川温泉御処 月洸樹(げっこうじゅ)」は、黒川温泉郷の最も標高の高い位置にある、全室露天風呂付き離れの宿。秘境という言葉に胸が高鳴る。

 

虫の音だけが聞こえる月夜に

▲茅葺の大きな門。

 
垣根のそばに落ちていた栗の実に、深まる山の秋を感じながら、離れの門をくぐる。フロントのある本館から各部屋まではカートで送り迎えしてもらうほどの急勾配で、よくぞここに旅館を開いたものだと妙に感心。

 

▲馬刺しなど熊本産食材をふんだんに。

 

▲赤身がおいしい肥後あか牛を炭火焼で。

 
食事は、部屋に設(しつら)えられた囲炉裏端で。季節の滋味溢れる先附(さきづけ)、旬菜に始まり、炭火焼きは豊後牛と希少な肥後あか牛の2種を食べ比べ、ご飯は夕食と朝食とで別の銘柄米を炊いてくれるといった心尽くし。毎月変わる献立を楽しみに訪れる常連も多いのだそう。満室と聞いたけれど、ほかの宿泊客の気配すら感じなかった。

 

▲一棟ごとに趣が異なる。

 
広々とした室内もさることながら、最大の感動は部屋付きのそれとは思えない大きさの広縁(ひろえん)と露天風呂。もちろん源泉掛け流し。庭の植栽と山の景色が重なる眺めも素晴らしく、このお風呂に入り放題というだけで殿様の気分。

 

▲「天空」の湯から、くじゅう連山を望める。

 
いや、もう部屋のお風呂で十分だよねと思いながら、予約した「天空」の湯へと階段を上る。その名のとおり、ぐるり360度視界をさえぎるものがないので、山頂にいるような開放感。空が近い。夜は満天の星を見上げ、朝は運がよければ眼下に雲海を眺めることもできる。残念ながら雲海は現れなかったけれど、それを求めてはるばる九州、熊本へ旅するのも夢があっていいのではと思えた。

 

▲露天風呂で月光浴。

 
満月だったこの夜、星はまばら。露天風呂に浸かりながら、まんまるの月とさし向かいの月見酒とは、ちょっと贅沢がすぎただろうか。雪見風呂もさぞや美しいはず。

 
冬の温泉、いい湯だな。

 

黒川温泉御処 月洸樹
住所:熊本県阿蘇郡南小国町大字満願寺6777-2
電話:0967-44-1717
URL:www.gekkoujyu.com

 
黒澤彩
くろさわ あや/ライター・編集者。女性誌を中心に、花、食と料理、暮らしまわりの記事を執筆。書籍の企画編集も手がける。

 
鮫島亜希子
さめしま あきこ/東京生まれ、インドネシア育ち。藤代冥砂氏に師事。ポートレートやライフスタイル、旅写真を中心に活動中。カレー好きが高じ、スパイスユニットtributesとしても活動を広げている。

 

熊本(黒川温泉)へのアクセス


東京(羽田)・大阪(伊丹)などから熊本空港へ、JALグループ便(一部コードシェア便)が毎日運航。名古屋(小牧)・天草から熊本空港へコードシェア便が毎日運航。空港からは車、バスなどで移動。

 

(SKYWARD2020年12月号掲載)
※記載の情報は2020年12月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
※2020年11月9日時点での情報です。最新の運行状況はJAL Webサイトをご確認ください。
※掲載地の状況は変更なっていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。

 

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