半島彩発見

【幡多半島】静かな川、迫力ある海。四国の最南端で多彩な自然に出合う

文/本城さつき 撮影/キッチンミノル

四国の最南端、かつ高知県の最西端にあり、太平洋に囲まれる幡多(はた)半島。景勝地が点在し、雄大な自然が満喫できる半島だ。

 
ゆったりと流れる四万十川、海の美しさに目を奪われる柏島、奇岩に好奇心を刺激される竜串(たつくし)海岸、水平線の眺めに圧倒される足摺岬、とエリアごとに全く異なる風景に出合えるところも大きな魅力。川の幸、海の幸、山の幸、とおいしいものも満載だ。

 
高知空港から車で行くと、半島の突端である柏島、足摺岬まではどちらも約3時間。ドライブを楽しみながら、半島を巡る旅に出発しよう。

 

目の前を流れる四万十川の眺めもごちそう

高知空港から高速道路を経て、約2時間。土佐の小京都と称される中村の町を過ぎ、四万十川のほとりに立つ「四万十屋」で、まずは腹ごしらえ。四万十川で漁師をしていた先代が昭和42(1967)年に開いたという食事処で、川の幸を活かした漁師料理が楽しめる。

 

▲ゆったりと流れる四万十川。川沿いにはカヌーやキャンプが楽しめる場所もある。

 
春から夏にかけては天然ウナギが名物(漁獲量によっては1日あたりの数量を限定)だが、取材時は秋のため、こちらもおすすめの川魚料理を。

 
ごり(地方によって指す魚が異なり、四万十市あたりでは主にヌマチチブの幼魚のこと)を卵でとじてご飯にのせた「ごり丼」は、甘めに味付けたとろとろの卵に、ごりのほのかな苦味がアクセントとなって箸が進む。ごりは卵でとじる前に揚げてあるためコクがプラスされ、満足感ある食べ応え。もちろん、目の前を流れる四万十川の眺めもごちそうの一部だ。

 

▲「ごり丼」。こちらも四万十川の特産アオサ入りみそ汁、漬け物などが付く。

 
お腹がいっぱいになったら、お土産売り場をのぞいてみよう。四万十川河口付近でのみ栽培される柑橘「ぶしゅかん」を使ったドリンクや、タイミングが合えば、四万十屋自家製の「天然うなぎの佃煮」など、この土地ならではの味を見つけることができる。お気に入りを連れ帰って、家でも楽しみたい。

 

▲お土産売り場。取材時の10月末はちょうど旬の時期とあって、かなりのぶしゅかん推し。ぶしゅかんは、ほんのり苦味のある爽やかな香りと、フルーティーでまろやかな酸味が特徴。

 

四万十屋
住所:高知県四万十市山路2494-1
電話:0880-36-2828
URL:https://shimantoya.com

 

エメラルドグリーンに輝く海でイルカに出合う

四万十川にいったん別れを告げて1時間ほど車を走らせると、そろそろ柏島だ。気象条件がよければ、船が浮いて見えるほど透明でエメラルドグリーンに輝く海が広がり、イタリア南部のランペドゥーザ島にも例えられる島。付近は魚種が多い海域で、世界有数のダイビングスポットとしても人気だ。

 

▲大堂山(おおどうやま)展望台から柏島(右手)を望む。

 
車を降りて漁港を散策する。周辺に海水浴場やキャンプ場があり、夏にはたくさんのレジャー客で賑わう島も、シーズンオフの時期は人影がまばらだ。ぶらぶらと歩きながら海を眺めていると、目の端にポチャン、と跳ねる大きな魚影が。……魚??と思いきや、なんとイルカ。しかも2頭!

 

▲柏島漁港。船を避けながらすいすいと泳ぎ回る。人がいても全く動じる気配なし。

 
実は柏島は、ここ数年、イルカがすぐ近くで見られる場所としても知られているそう。地元自治体(大月町)の公式インスタグラムにもイルカはたびたび登場していて、2頭は親子なのだとか。港に人がいてもお構いなしで、一緒に泳ぐ姿が微笑ましい。取材に訪れた日も、「イルカを見に来ました」と、スマホを向けて撮影する観光客の姿があった。

 

▲イルカがジャンプしている。

 
島を出て、対岸の大堂山へ。ここには柏島を一望できる展望台があり、島を囲む海の美しさがよくわかる。奥に横たわる海は豊後水道の入り口あたり。九州はすぐそこだ。

 

▲条件が揃えば、こんな海の色を見られる可能性も!(写真:PIXTA)

 

柏島
住所:高知県幡多郡大月町柏島
大堂山展望台
住所:高知県幡多郡大月町一切(大堂山)

 

カツオと四万十川の幸、居心地のよさに大満足

再び四万十市に戻り、「居酒屋なかひら」を目指す。開店時間の17時30分を回ると、あっという間に席が埋まっていく人気店だ。店主の中平富士夫さんは、お客さんと楽しそうに言葉をかわしつつ、カウンターの中でてきぱきと手を動かしている。

 
高知へ来たなら、やっぱり食べたいのはカツオのたたきだ。全国で広く知られているのはタレを付ける食べ方だが、このあたりでは、たっぷりの薬味と柑橘を添えた「塩たたき」が多い。

 

▲さっぱりとした味わいの「塩たたき」。薬味と一緒に召し上がれ。

 
「たたきの作り方は、店によっていろいろ。うちではカツオをガス直火で焼いてから切り、塩、酒、ポン酢をかけてたたいています」

 
どっさりの薬味とともに添えられているのは、やはり地域特産のぶしゅかん。キュッと搾ると、すっきりした酸味がたたきの香ばしさを引き立てる。

 

▲香ばしい川エビの唐揚げと、香り豊かなアオサの天ぷら。

 
「他にも地元の味を食べてみて」と中平さんがすすめてくれたのが、カツオなどの刺し身と、川エビの唐揚げ、アオサの天ぷら、鮎の塩焼き、ウナギのたれ焼き、ツガニ(上海蟹の近親種)の塩ゆでだ。刺し身以外は、どれも四万十川で獲れる「川の幸」ばかり。川の恵みの豊かさを改めて実感した。

 

▲上/カツオ、カンパチ、モイカ(アオリイカ)の刺し身。カツオのもちもち食感が美味。下/鮎の塩焼き、ツガニの塩ゆで、ウナギのたれ焼き。四万十川の恵み。

▲左/カツオ、カンパチ、モイカ(アオリイカ)の刺し身。カツオのもちもち食感が美味。右/鮎の塩焼き、ツガニの塩ゆで、ウナギのたれ焼き。四万十川の恵み。

 
それにしても、お店の居心地のいいこと、飲み、食べる人たちの幸せそうなこと。中平さんも仕事の合い間にビールジョッキを傾けて、「これが楽しみ」と笑う。

 
店を訪れるお客さんは「近所の人と観光の人が半々ぐらい」というが、訪れる頻度に関係なく、誰もがすっと馴染める空気が流れている。そんな雰囲気を生み出す中平さんの温かい人柄に触れ、おいしい料理を味わいに、ぜひ足を運んでみてほしい。

 

▲店主の中平さん。この笑顔がみんなを惹きつける。

 

居酒屋なかひら
住所:高知県四万十市中村天神橋34
電話:0880-34-4077

 

昭和を感じさせる赤と白の不思議な建物

海の中からニュッと突き出たような、赤と白の不思議な建物。土佐清水市の一角、竜串海岸のシンボルとして昭和47(1972)年にオープンした「足摺海底館」は、いかにも昭和、という感じのレトロな姿が今見るとかえって新鮮だ。

 
海岸から連絡橋を渡って館内に入ると、子どもだけでなく大人もワクワクさせてくれる“秘密基地感”がある。

 

▲海岸のランドマーク的存在。赤と白が海に映える。

 
らせん階段を下りると、広がるのは水深7mの世界。

 
「条件がいいときには、15m近く先まで見ることができますよ」と、館の運営を行う高知県観光開発公社の宮地寿和さんは話す。

 
「特によく見えるのは、11月から2月ごろ。冬になって水温が下がると、海の透明度が増して視界がぐんとよくなるんです。観光のお客さまは減る時期ですが、個人的には寒い時期はおすすめですね」

 

▲上/らせん階段、丸い窓、海から差し込む光。近未来感。下/この日は強風が吹いて海のうねりが強く、視界は約5m。

▲左/らせん階段、丸い窓、海から差し込む光。近未来感。右/この日は強風が吹いて海のうねりが強く、視界は約5m。

 
土佐清水で生まれ育ち、子どもの頃に海底館へ来たことがあるという宮地さん。働き始めてから気付いたことも多いと言います。

 
「水族館は『魚が囲われている』という感じですが、ここでは『囲われている』のは人間のほう。魚は海の中を生き生きと泳いでいて、風が強い日は逆らわずに流されたり、無理をしません。そんな魚の自然な姿を、私もここで初めて見ました」

 
海の様子は、館のインスタグラムで毎日発信中(コメントもユニーク)。見通しのよい海中の風景を楽しみたいなら、その日の天候や海の状態を確認してから足を運ぶのがおすすめだ。

 

▲見学者がいるタイミングで、海の中にエサを入れて魚を集める。

 

足摺海底館
住所:高知県土佐清水市三崎4032
電話:0880-85-0201
URL:https://kaiteikan.jp

 

奇岩が連なる、驚きの風景

海底館を出て、すぐ隣の竜串海岸へ。ここは、砂岩(さがん)が波や風の侵食を受けてできた、珍しい形の「奇岩」が連なる海岸だ。このあたりの地層は約1700万年前のもの。すぐには想像できないほど長い年月をかけて造られた、自然の造形にただただ驚く。地学を研究する人たちにとっては、教材の宝庫でもあるそう。

 

▲奇岩の向こうに足摺海底館が見える。唯一無二の風景。

 
奇岩には、その形状から「大竹・小竹」(竹の節を思わせる)、「欄間(らんま)石」(日本家屋の欄間のよう)などと名前が付けられたものもあり、遊歩道を伝って歩きながら見ることができる。

 

▲上/風や波の侵食作用で削り取られた岩肌。「蜂の巣構造」と呼ばれる。下/生き物の活動の痕跡を示す生痕化石も多く見られる。

▲左/風や波の侵食作用で削り取られた岩肌。「蜂の巣構造」と呼ばれる。右/生き物の活動の痕跡を示す生痕化石も多く見られる。

 
岩の上に顔を出した化石もちらほら。潮の状態によっては足元まで波が打ち寄せるので、注意して歩こう。

 

▲岩とは思えない不思議な形。特に干潮時にはっきりと姿を現す。

 

竜串海岸
住所:高知県土佐清水市竜串

 

生産量日本一の「宗田節」をお土産に

土佐清水市は、宗田節(そうだぶし)の生産量日本一を誇る産地。宗田節はメジカ(ソウダガツオ)を原料とする節で、カツオ節より味が濃く、香りも強いことが特徴とされる。その宗田節から生まれた土佐清水土産が、「だしが良くでる宗田節」だ。

 

▲「だしが良くでる宗田節」。土佐清水市のスーパーやお土産店の他、県内各地で買うことができる(取扱店の詳細はWebサイトを参照)。

 
「発案者は、地元のお母さんたちでつくるボランティアグループです」と、製造・販売を手がけるウェルカム ジョン万 カンパニー代表の田中慎太郎さん。

 
「地元の素材を使ってお土産が作れないかと考えていたとき、折れるなどで出荷できない宗田節を醤油に漬けて使っている人がいる、という話を耳にしてひらめいたそうです」

 
試作を経て、2010年に完成。販売を始めてみると予想以上に好評で、会社を興すことになった。お母さんがグループのメンバーだった縁で、田中さんが代表に。

 
「2015年に工場を造り、現在に至っています。削りの仕上げや瓶詰めはひとつずつ手作業で、雌節(めぶし)と雄節(おぶし)がバランスよく入るようにしています」

 

▲上/削りの作業には機械も使うが、仕上げはひとつずつ手作業。下/形を整える前の宗田節。作業場にいい香りが漂う。

▲左/削りの作業には機械も使うが、仕上げはひとつずつ手作業。右/形を整える前の宗田節。作業場にいい香りが漂う。

 
形を整えるためにカットしたり、削ったときに出た部分などは、パウダーにして別の商品(だしパウダー、おかきなど)に使う。

 
「メジカを宗田節に加工する手間と労力を知っているので、端っこの部分まで無駄にしたくないんです」

 
醤油は自分の好みのものを注げばよく、1年を目安に節を入れ替えれば、続けて使うことができる。ありそうでなかった発想で、誰にあげても喜ばれそうなお土産だ。

 

ウェルカム ジョン万 カンパニー
住所:高知県土佐清水市天神町6-18
電話:0880-83-0085
URL:https://mungero.com

 

見渡す限りの海、丸い水平線

▲展望台から足摺岬灯台を望む。大正3(1914)年から付近の海の安全を守っている。

 
旅の締めくくりに足摺岬へ。展望台に上ると、目の前に広がるのは太平洋。270度にわたってぐるりと開けた海は、地球が丸いことを実感できる見事な眺めだ。『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で二つ星を得たのも納得といえる。

 

▲水平線がなだらかに弧を描く。花崗岩が波で侵食された岩肌も一見の価値あり。

 
岬周辺の台地は、約1300万年前のマグマ活動でできた花崗岩からなるもの。波の侵食で生まれたダイナミックな地形も見所のひとつだ。付近にはビロウ、アコウなどの亜熱帯性植物や、ヤブツバキが自生し、冬にはツバキの花が岬を美しく彩るという。今度はきっと、ツバキの咲く頃に。そう思いながら展望台を後にした。

 

▲展望台の近くに立つ、ジョン万次郎の銅像。現在の土佐清水市出身。

 

足摺岬展望台
住所:高知県土佐清水市足摺岬

 

急がずゆったり、エリアごとに回っても

いくつもの表情を持つ幡多半島。何度か足を運んで、エリアごとに見て回るのもおすすめだ。つい、あそこもここもと欲張りたくなるけれど、先を急ぐことはない。豊かな自然に触れ、お遍路さんたちとすれ違ううちに、そう思えてくる。

 

▲四国最南端の碑。足摺岬にて。

 
日常をちょっと休んで、心も体もぐーんと伸びをしたい。そんなときに訪ねたい風景が、ここにはいつでも待っている。

 
※掲載施設の情報は変更されていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。

 

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