(こまさ よしつぐ)
小正嘉之助蒸溜所株式会社 代表取締役社長。マスターブレンダー。1978年鹿児島生まれ。2001年東京農業大学 農学部 醸造学科卒業。03年東京農業大学大学院 醸造学専攻卒業。同年小正醸造株式会社入社。入社後は、焼酎造りの一員として独自性のある新商品開発に没頭。17年11月、ウイスキー蒸溜所の「嘉之助蒸溜所」を立ち上げ、21年8月に小正醸造より分社化し小正嘉之助蒸溜所株式会社を設立。同社の代表取締役を務める。
https://kanosuke.com
伝統を受け継ぎ、この地の風土を表現する
今や世界からも垂涎の的となっているジャパニーズウイスキー。歴史ある蒸溜所はもちろん、ウイスキー造りに夢をかける新たな造り手も参入する中、伝統のある焼酎メーカーが手がけるウイスキーが注目を集めている。小正芳嗣さんは、鹿児島県日置市にある1883年に創業したメーカー、小正醸造の長男として生まれた。鹿児島といえば芋焼酎だが、創業者の曽祖父は貴重な米を原料とした米焼酎を手がけ、高級路線を目指した。2代目の祖父はさらに価値を高めようと、ウイスキーから着想を得て樽熟成の米焼酎を開発。心地いいを意味する「mellow」を用いた洒脱な銘柄「メローコヅル」は、芳醇な香りとまろやかな口当たりで、芋焼酎に比べ高値にもかかわらず主に都市部で人気を博した。

▲祖父が思い描いた施設を形にし、祖父の名を冠した「嘉之助蒸溜所」。
小正さんが幼い頃、蔵の経営は厳しい状況にあったが、「自分が継ごうという思いは早くからありました」。東京農業大学に進学し蒸留や酒について学びを深めた。大学院を修了し、蔵に戻った2003年は折しも焼酎が大ブーム。小正さんは本格的な海外展開を見据え、各国の展示会に積極的に参加した。しかし、世界に行けば行くほど「壁」を感じるように。
同じホワイトスピリッツでも、アルコール度数が40度前後もあるウォッカやジンに比べ、焼酎は25度前後と低い。さらに、世界の多くの蒸留酒が食前や食後に飲まれるのに対し、焼酎は水やお湯で割り、食中酒として楽しむ。「焼酎ならではの文化、日本ならではのスタイルが、海外では説明しても理解されなかった」

▲ポットスチル(蒸留器)は2基が一般的だが、嘉之助蒸溜所では3基備えることで、多種多様な香りと味わいを持つ原酒を生み出している。
10年前、決定的な出来事が起きる。スコットランドの商社からメローコヅルを輸入したいというオファーが。ウイスキーの本場で認められれば突破口になると浮き立った。しかし、待てど暮らせど注文が入らない。業を煮やして問い合わせると、「質の高さはわかるが、どう伝えていいのかがわからない」。悲願は頓挫した。「悔しかった」。小正さんは唇をかみ、こう続ける。
「蒸留酒はいわばサッカーで、国は違えど共通言語で語り合えると思っていた。ところが、自分たちがやっていたのはサッカーじゃなく蹴鞠だった… …。そのぐらいの疎外感を突きつけられました」

▲嘉之助蒸溜所のウイスキーラインナップ。小瓶は「シングルモルト嘉之助」(右から3本目)の構成原酒で、蒸溜所のショップで販売される限定商品だ。
まずは共通言語を持たなければ、と踏み出した一歩がウイスキーだった。蒸留技術はもちろん、長く培ってきた樽熟成のノウハウが活かせると踏んだ。小正さんはメローコヅルの貯蔵庫がある地に蒸溜所を建設。「ここはかつて祖父がメローコヅルを楽しめる施設を造ろうとした場所。今でいうツーリズムの構想を持っていた。敬意を表し、祖父の名を冠して『嘉之助蒸溜所』としました」

▲原酒は貯蔵庫の樽の中で時を刻み、美しい琥珀色を呈していく。
2017年、最初の原酒が誕生した。ウイスキーはしかし、ここから長い道のりを辿る。樽の中で時を紡ぎ、熟成を重ねた数種類の原酒をブレンドし、ようやく完成を迎える。2021年から毎年限定品を手がけてきたが、2023年、初の定番商品「シングルモルト嘉之助」をリリース。蜜のような甘露な香りが鼻腔をくすぐり、スモーキーで複雑な味わいの余韻が長く続く。メローコヅルに通ずる気品と優しさをまとっているよう。「焼酎を造り続けてきた僕らが表現するウイスキーを通じ、焼酎の魅力を伝えていきたい」

▲蒸溜所に併設の「ザ・メローバー」。雄大な東シナ海をパノラマビューで望みながらテイスティングを楽しめる。

▲メローな気分でテイスティングを。

▲ショップではウイスキーやオリジナルグッズなどを販売。
蒸溜所では製造過程の見学ツアーを実施し、ショップや目の前の海を望む絶景のバーも設けている。この地で生まれたウイスキーをこの地でゆったりと味わう──。そんなメローな気分に浸れる特別な旅が待っている。

▲日本三大砂丘とされる吹上浜に面する美しいロケーション 。この風土だからこそ生まれるウイスキーがある。
嘉之助蒸溜所
住所:鹿児島県日置市日吉町神之川845‑3
電話:099-201-7700
URL:https://kanosuke.com
鹿児島県日置市へのアクセス
東京(羽田)、大阪(伊丹)、福岡、静岡、松山、種子島、屋久島、喜界島、奄美、徳之島、沖永良部、与論から鹿児島空港まで、JALグループ便またはコードシェア便が運航。鹿児島空港より日置市まで車で約1時間。
※最新の運航状況はJAL Webサイトをご確認ください。
(SKYWARD2025年4月号掲載)
※記載の情報は2025年4月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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