旅の+one

回復の旅の物語、『うつくしい人』

文/光浦靖子 撮影/安永ケンタウロス

今回紹介する旅の小説は、西加奈子さんの『うつくしい人』。

 
他人の目ばかり気にして、びくびくと生きている百合。「皆が認める」男とつき合いたい。職につきたい。人に面倒がられる女にはならない。空気の読めない女と言われたくない。百合はある日、上司に誤表記を指摘されたことで、自分でもわからないが急に泣き出してしまいます。そんな失態……。百合はすぐに退職し、その後、人と会えなくなり、家から出られなくなります。自分は病気か? いや、正常だ、そんなはずない、姉とは違う、強烈な危機感で旅に出ます。瀬戸内海の島にできたリゾートホテルに。

 
人から見た自分、自分のことを見ている自分の目が何重にもありすぎて、自分が自分でいることがどういうことなのか、わからなくなってしまった百合。仕事のできない中年のバーテンダーと、客の一人、カタコトのドイツ人青年とホテルで過ごす4泊5日の話です。

 
私はテレビタレントです。番組が私に求めることを察知し、表現します。うまくやれば次につながります。視聴者には嫌われてはいけないし、言葉に、態度に注意を払わなければいけません。「じゃあ、私のやりたいことって何なんだろう?」。そう悩んでいたとき、何の気なしにエゴサーチをしてしまいました。私は世間が日々の鬱憤をはらすためのゴミ箱になるために生きてきたのか……と思いました。そんなときにこの本に出合いました。

 
この本も西さん節は健在で、軽妙で、笑えます。変な人がよく出てきます。西さんの文章にはいつも「ツッコミ」の目があって、酔うことがありません。でもそのツッコミは、否定や訂正でなく「生かす」ツッコミです。私は西さんの小説を読むたびに「究極の共存の人だな」と、何か許された気持ちになります。

 

『うつくしい人』
西 加奈子 著
幻冬舎文庫
545円(税込)

 
光浦 靖子
みつうら やすこ/1971年、愛知県生まれ。プロダクション人力舎所属。幼なじみの大久保佳代子と結成したオアシズでデビュー。バラエティー番組、ラジオなどに出演するほか、舞台やコラム執筆など多岐にわたり活動。主な著書に『ハタからみると、凪日記』(毎日新聞出版)、『靖子の夢』(スイッチ・パブリッシング)など。

 

(SKYWARD2020年5月号掲載)
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