今や世界的な広がりを見せる「クラフトビール」。日本でもブルワリー(醸造所)が増え、個性溢れるさまざまなクラフトビールが気軽に飲めるようになった。
一方で、今まで飲んでいたビールや地ビールとはどう違うの? ラガーやエールって? 種類が多すぎてどれを選べばいいかわからない……という方も多いはず。
この記事では
・クラフトビールとは?
・ビールの種類
・クラフトビールの楽しみ方
・試してみたいクラフトビールの銘柄
について詳しく紹介する。ぜひこの機会に、奥深きクラフトビールの世界に足を踏み入れてみてほしい。
目次
クラフトビールとは?
まずはクラフトビールとは一体どのようなビールのことを指すのか、その定義や歴史を見ていこう。
もともとの発祥はアメリカの「craft beer」
ビールといえばドイツなどのヨーロッパを思い浮かべる方が多いかもしれないが、クラフトビールの始まりは、大量生産のビールが市場のほとんどを占めていたアメリカ。1980年代に小さなブルワリーが登場し始め、クラフトビールが広がっていった。そのベースには家庭でビールを造る、ホームブルワリーの流行もあったという。
現在アメリカには、8,000軒を超えるブルワリーがあり、多彩なクラフトビールが醸造されている。アメリカの小規模な醸造所(マイクロブルワリー)の業界団体、ブルワーズ・アソシエーション(Brewers Association)によると、小規模で独立した醸造所を「クラフトブルワリー」と定義し、伝統的な手法(と新しいスタイルを生み出すための革新的な副材料など)を用いて醸造されるビールを「クラフトビール」と呼んでいる。
「小規模」とはどの程度のことを指すのかというと、現在では年間生産量が600万バレル(約70万キロリットル)以下とされている。ちなみに、これを超える「大規模」なメーカーがクラフトビールに準ずる製法の商品を発売した場合などには、クラフト風のビールということで、「クラフティビール」と呼ばれることもあるようだ。
日本での定義や歴史は?
日本においては、まだクラフトビールについて明確な基準や定義はない。ただ、「クラフト」を「手工芸品」の意味合いで捉え、職人がこだわりをもって手作りする、大量生産品にはない個性を持ったビールというイメージは定着してきているようだ。
そもそも日本のビール造りにおいて大きなポイントとなったのは、1994年の酒税法改正。このとき、ビールの製造免許を取得するのに必要な最低の製造量が2,000キロリットルから60キロリットルへと大幅に引き下げられた。その結果、それまで大規模な工場などでしかできなかったビールの製造が、小さな醸造所でも可能となった。また、日本酒の蔵元がビール醸造を始めるケースも多かった。
クラフトビールと地ビールとの違いは?
酒税法の改正により、地酒のような感覚で、日本各地でビールが造られるようになり、「地ビール」ブームが起こった。小規模な醸造所で製造されたビールという意味では、これらが日本のクラフトビールの前身といえる。
このブームによって、日本には一時300以上の地ビール醸造所があったというが、当時は「お土産用のビール」というイメージも強く、その後衰退してしまった。そして2000年代に入り、あらためて「クラフトビール」として見直され始める。新たな名称どおり、醸造者の技術やこだわりが追求されているものが多く、これまでの地ビールとの違いを打ち出す商品も多い。
もちろん、「地ビール」として、今もこだわりを持って造り続けている醸造所もあり、地ビールとクラフトビールを簡単に線引きするのは難しい。しかし「クラフトビール」という名前には、地元との結び付きだけではなく、広く、深く、ビールそのものを探究していくという意味が込められているといえるだろう。
普通のビールとの違いや楽しみ方
クラフトビールは少量でも醸造できるため、材料や副原料、醸造方法などにとことんこだわることができる。またラベルのデザインなども個性的なブルワリーが多い。海外もあわせると、とにかく豊富な種類が展開されているので、いろいろ飲み比べて、好みに合うものや新しい味わい、お気に入りの醸造所などを発見する楽しみがある。
そもそも、ビールにはどんな種類がある?
醸造所のこだわりといっても、ビールってそんなにいろいろな造り方があるの? という方に、ビールの種類について紹介しておこう。
大きく分けると「ラガー」と「エール」
ビールの種類は大きく分けると「ラガー」タイプと「エール」タイプがある。それは酵母の違いによるもので、ラガー酵母で発酵させたかエール酵母で発酵させたかでスタイルが決まる。ラガー酵母は涼しい温度帯で活発になり、下面発酵で沈殿する。ごくごくと飲める、すっきりとした喉越しのビールができるのが特徴だ。
エール酵母は上面発酵で、常温の温度帯で活発に発酵する。古くからの製法で、大量生産には向かないが、まろやかでフルーティーな味わいなど、個性的な味を生み出すことができる。さらに最近では、ラガーでもエールでもない、野生の酵母で造られた自然発酵ビールなども増えている。
「生ビール」とは?
ところで、居酒屋などで馴染み深い「生ビール」の「生」とはどんな意味なのかご存じだろうか? それは加熱処理をしていないということ。「ドラフトビール」とも呼ばれる。店で樽詰めやサーバーから注がれるビールが「生ビール」のイメージかもしれないが、実は製造工程の違いで、缶ビールでも瓶ビールでも、加熱処理をしていなければ「生ビール」ということになる。
加熱処理とは、製品として出荷する際に酵母を死滅させて発酵を止め、品質を安定させるために行われていた工程。しかし現在ではろ過技術が向上し、加熱処理をしなくても酵母を取り除くことができるようになったので、ほとんど行われなくなった。従って、現在日本の大手メーカーで生産されているビールは、ほとんどが「生ビール」なのだ。
しかしクラフトビールのなかには、小麦系のビール等、無ろ過であえて酵母を残した製法のビールも多数ある。これらは濁りがあるのが特徴で、酵母の旨味やコクも感じられるので、未体験の方はぜひ試してみてほしい。
「ラガービール」の種類と特徴
ラガービールにもさまざまな種類があるのだが、なかでも「ピルスナー」は、世界中で愛されているスタイルの一つ。19世紀中ごろにチェコで誕生した、淡い黄金色の爽やかな味わいのビールだ。日本で大手メーカーから市販されているビールのほとんどはこの「ピルスナー」といってもいい。
「エールビール」の種類と特徴
一方で、クラフトビールに多いのは、エールタイプ。古代からの製造方法のため、世界各地で生まれ、愛されてきた個性的なビールが多い。
例えば、ドイツ生まれの白ビールとも呼ばれるフルーティーな香りと苦味の少ない「ヴァイツェン」、イギリス発祥でホップやモルトの香りを楽しめる「ペールエール」、ホップを多く使い苦味が強い「IPA(インディア・ペールエール)」や、ギネス社に代表される黒ビール「スタウト」など。
それぞれの醸造所が、世界各地で生み出されたスタイルを取り入れ、それぞれの材料を用いて多様なクラフトビールを造り出すのだ。
クラフトビールの楽しみ方
ビールといえば、グラスをキンキンに冷やして喉越し爽やかに!という方や、缶でプシュッとお手軽にという方も、クラフトビールを飲む際には、ぜひ飲み方にもこだわり、その特徴的な味わいや香りを楽しんでほしい。
色を楽しむ
ビールは原料に使われるモルト(麦芽)の種類によって色が変化する。ぜひグラスに注いで、光に透かして、ビールの色とその味わいの組み合わせも楽しんでほしい。
ちなみに、淡い麦色から金色、琥珀(こはく)色や黒色などと、色味にも個性があり、低温で乾燥させたモルトは、淡い色に。高温では濃い色になる。さらに大麦や小麦、ライ麦などモルトの種類、焦がし方、分量などにより、色味や味わいが変化する。
香りを楽しむ
香りも特徴的なクラフトビール。季節や好みにもよるが、クラフトビールはキンキンに冷やすよりも、実は冷やしすぎないほうが、香りが楽しめるという。
バナナやリンゴなどフルーティーな香り、ホップのアロマ、チョコレートやナッツのような香りなど、自分なりにイメージを膨らませて味わうと、クラフトビールがさらに面白くなる。
グラスや温度での味わいの違いを楽しむ
クラフトビールのスタイルにあわせてグラスの形を選ぶのもいい。ごくごくと飲みたいラガー系は、ジョッキやパイントグラスなど飲み口の広いグラスで豪快に。背の高い細いグラスに注ぐと、細やかな泡立ちと、ビールの美しい色合いも楽しめる。香りを楽しみたいエール系は、膨らみのある形のグラスを選んでみよう。ワイングラスを使うのもおすすめだ。
さらにビールやグラスの温度によっても、味わいは変化する。冷蔵庫から出した後、数分ほど室温に馴染ませたり、手でグラスを温めながら飲むなど、いろいろと試してみてほしい。自分の好みとクラフトビールの個性を確かめながら、ゆっくりと味わってみよう。
料理とのマリアージュを楽しむ
ワインと料理をペアリングして楽しむように、個性豊かなクラフトビールでも料理とのマリアージュを楽しんではいかが。
クラフトビールと料理の組み合わせ方の簡単なコツは、ビールと色味をあわせること。ホワイトビールなど淡い色のタイプには、さっぱりとした料理を。例えば貝のワイン蒸し、白身魚のカルパッチョ、サラダなど。
ピルスナーは中間の色合い。すっきりとした味わいなので、唐揚げから餃子、定番のソーセージと、さまざまな料理にあわせやすい。ペールエールなどの褐色のビールには、照り焼き系の料理や、とんかつなどの揚げ物をぜひあわせてみて。IPAにはスパイシーな料理や薫製系などパンチのあるものも試してほしい。スタウトなど濃色のビールには、ビーフシチューなどの煮込み料理や赤身肉の料理などがおすすめ。
また、クラフトビールの醸造所にはレストランが併設されている場合もあるので、出来たてのビールと料理を楽しむのもおすすめだ。
編集部が厳選!ぜひ試してみたいクラフトビールおすすめ9選
ここからは、クラフトビール初心者にも、クラフトビール好きにもおすすめの9銘柄をご紹介。さまざまなスタイルのビールや、新商品、個性的なビールなどを取り揃えた。
なお、クラフトビールの性格上、原料や醸造量に限りがあり、少量ずつの出荷となったり、入手が困難になったりすることもあるが、気になるものはぜひ醸造所に問い合わせるなどしてゲットしてみてほしい。
宇宙IPA(UCHU BREWING/山梨県)
自ら育てたホップと世界中のトップクオリティの原料を使い、DIYで造り上げた醸造所で2017年からクラフトビール造りを始めた「UCHU BREWING」。今では出荷後即完売が続く、もっとも熱い醸造所の一つだ。
こちらはアロマホップの代表格「モザイク」をたっぷりと効かせ、しっかりとしたコクと苦味の中に、かんきつ系のアロマとフレーバーが鮮烈な、UCHU BREWINGのフラッグシップIPA。やや濁りがあるのも特徴で、多くのIPA好きを唸らせているヒット作だ。購入のチャンスがあればぜひお試しを。
宇宙IPA(UCHU BREWING/山梨県)
アルコール度数:7%
価格:6本セット 3,738円(税込)
山の上ニューイ(ヤッホーブルーイング/長野県)
長野県と山梨県発祥のホップを使用した「山の上ニューイ」は、「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイングから2021年12月に登場。長野県と山梨県のセブンイレブンとオンラインストアで限定販売されている。
「山の上ニューイ」は、新製法のエッセンシャルホッピング(水蒸気蒸留法)で6種類のホップから上質なホップアロマを抽出して加えた。レモングラスや森林のウッディな香り、上品で爽やかなフレーバーが広がる。甘みやコク、苦味のバランスがよく、ついついおかわりしたくなる飲みやすさだ。
おすすめの温度は、香りが引き立つ7度とのこと。広い飲み口のグラスで、香りを目いっぱい楽しんで。ちなみにビアスタイルは「甲信ノーブルホップエール」!長野や山梨の山を思い描けるクラフトビールだ 。
山の上ニューイ(ヤッホーブルーイング/長野県)
アルコール度数:4.5%
価格:293円(税込)
常陸野ネストビール ホワイトエール(木内酒造/茨城県)
ネスト(巣)と名付けられた、茨城県那珂市鴻巣生まれの「常陸野(ひたちの)ネストビール」。フクロウのデザインが可愛らしい。1823年創業の老舗「木内酒造」から1996年に誕生した。原料はイギリスやベルギーなどから直輸入し、日本酒造りの経験や感性を生かしたビール造りを続けている。
定番ラインの「ホワイトエール」は、フルーティーで爽やかな香り、薄く濁った柔らかな味わいが人気の小麦エール。小麦麦芽にスパイシーなホップ、コリアンダー、オレンジピール、ナツメグなど、スパイスや果実が加えられている。飲みやすく初心者にもおすすめだ。
蒸留過程が見えて料理も楽しめるビアバー「常陸野ブルーイング 東京蒸溜所」(http://hitachino.cc/tokyodistillery/)もおすすめ。
常陸野ネストビール ホワイトエール(木内酒造/茨城県)
アルコール度数:5.5%
価格:407円(税込)
一意専心(京都醸造/京都府)
2015年創業の京都醸造は「ベルギー&アメリカ」スタイルのクラフトビールに特化した小さな醸造所。こちらの「一意専心」は、ベルギーの酵母とアメリカのホップで造られた個性的なIPAだ。
IPAというと苦味が強めのスタイルだが、「一意専心」は、苦味というよりもドライでかんきつ系の華やかな味わいが印象的。シャープで爽やかなホップ香と、フルーティーな酵母の味わいがバランスよく組み合わされている。ハーブを使った肉料理や、ソーセージ、サーモンマリネにもぴったり。
ユニークな発想やさまざまな手法で、新しいスタイルのビールに挑んでいる京都醸造は、まさにクラフトビールを体現する注目のブルワリーだ。
一意専心(京都醸造/京都府)
アルコール度数:6.5%
価格:555円(税込)
PUNK IPA(BREWDOG/イギリス)
イギリスで大人気のクラフトブルワリー「BREWDOG」のオーナーが、世界一のIPAを目指し、大量のホップを使用して作り上げたという「PUNK IPA」。金の色味が美しく、味わいはグレープフルーツ、パイナップル、ライチといったトロピカルフルーツのような軽やかさ。
製法へのこだわりから「パンク」と名付けられているが、その味わいはすっきりしていて飲みやすい。世界中のクラフトビールファンに愛される逸品だ。IPA好きならぜひ試してみてほしい。
PUNK IPA(BREWDOG/イギリス)
アルコール度数: 5.4%
価格:要問い合わせ
ナイアガラエール(北海道麦酒醸造/北海道)
北海道・小樽にある北海道麦酒醸造では、周辺の特産品であるフルーツを使った多彩なフルーツビールをラインナップ。こちらの「ナイアガラエール」は、余市産の白ブドウを使用し、白ワインを思わせる味わいが特徴だ。
フルーツの芳醇な香りはあるが甘みは強くないので、食事にも合わせやすい。他にもメロンや洋ナシ、リンゴ、チェリー&ブルーベリーなどのフルーツビールがある。ビールが苦手な人にもおすすめ。
ナイアガラエール(北海道麦酒醸造/北海道)
アルコール度数:要問い合わせ
価格:要問い合わせ
大山Gビール ヴァイツェン(くめざくら大山ブルワリー/鳥取県)
鳥取県の大山(だいせん)の麓に位置する「くめざくら大山ブルワリー」からは、小麦麦芽を使ったヴァイツェンを。フルーティーで口当たりがよく、苦味はとても弱い。
未ろ過のためうっすら濁っており、ビール酵母もしっかりと含まれている。酵母由来のコクと華やかな味わいを堪能できる、料理にあわせやすいクラフトビールだ。
大山Gビール ヴァイツェン(くめざくら大山ブルワリー/鳥取県)
アルコール度数:5.0%
価格:550円(税込)
栗黒(ひでじビール/宮崎県)
九州・宮崎の「ひでじビール」は自家培養酵母を使ったビール造りをしている。こちらの「栗黒(くりくろ)」は、副原料になんと和栗を使ったスタウトビール。黒色になるまで焦がした大麦と、宮崎県産の栗ペーストで仕込み、濃厚で香ばしい逸品に仕上げている。
また、ビールでは珍しい9%という高アルコール度数のため、長期間の瓶内熟成も可能。熟成することで、香りや旨味、アルコール分が馴染み、さらに重厚でまろやかになる。賞味期限の設定はないため、好みの熟成度合いで楽しんで。冷やしすぎず、少し高めの温度(10〜18度前後)で飲むのがおすすめとのこと。
栗黒(ひでじビール/宮崎県)
アルコール度数:9%
価格:要問い合わせ
インペリアルチョコレートスタウト(サンクトガーレン/神奈川県)
サンフランシスコでビール造りを始め、1997年に日本で製造を始めた「サンクトガーレン」。地ビールブームの始まりからクラフトビール流行の現在まで、職人的な感覚を生かしながらビール造りを続けてきた。
今回は珍しいスタウトをご紹介。バレンタインシーズンに限定販売される「インペリアルチョコレートスタウト」だ。といっても、チョコレートやカカオは使っていない。
「インペリアルスタウト」と呼ばれるスペシャルなスタイルで、通常のスタウトの約3倍の原料を使っているという。アルコール度数も9%のため2年間の熟成が可能。泡まで真っ黒なスペシャルなスタウトは、上質なチョコレートのようなほろ苦いビター風味。スタウト好きにはもちろん、ビールが苦手という方にも、ぜひ味わってみてほしい。
インペリアルチョコレートスタウト(サンクトガーレン/神奈川県)
アルコール度数:9%
価格:要問い合わせ
今こそ奥深きクラフトビールの世界を探究しよう!
ビール好きはもちろん、普段あまり飲まないという方も、気軽にクラフトビールを手に取ってみてほしい。種類豊富で個性溢れるクラフトビールだからこそ、思ってもいない味や香りに出合えるかもしれない。
そして何より、作り手のこだわりが感じられるのがクラフトビールの世界。地元ならではの素材を副原料に加えたり、その土地の個性をイメージした商品作りなど、小規模だからこそできるビール造りがとても面白い。
気になるブリュワリーについて調べたり、その活動を一緒に楽しみながら、自分らしいビールを探してみてはいかがだろう。大切な時間を、クラフトビールを味わいながら、ゆったりとすごしてほしい。
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