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シードルとは?最新おすすめ13選|産地や醸造方法も解説

リンゴのお酒、シードルがじわじわと人気に。親しみやすい味わいと低めのアルコール度数、そしてシードルという響きが持つ都会的でおしゃれなイメージも人気上昇の原因か?しかし、ワインやビールと比べて、その製法や種類、飲み方はまだあまり知られていない。そこで……

 
この記事では、

 
・シードルの基礎知識
・産地別の特徴
・飲み方
・日本で手に入る、おすすめの銘柄

 
について詳述する。

 

シードルというお酒を知る

 
シードルはリンゴの果汁を発酵させて造る醸造酒。伝統的にはフランス北部を中心としたヨーロッパ各国や北米で、また近年はクラフト醸造所ブームもあって、オセアニアや日本でも造られている。

 
リンゴの果実味と酸味に、酵母や熟成に由来するさまざまな風味が加わって、複雑みのある味わいになる。アルコール度数が2~9%と比較的低いことも特徴。リンゴ以外に洋ナシを原料にしたもの(英語でペリー、フランス語でポワレ)もシードルに分類される。

 
生産者によってはリンゴと洋ナシ、それぞれからシードルを造り、ラベルの色で見分けがつくようにして売っているところもある。

 
産地ごとに製法も、味わいも、飲み方も異なる。発泡性のものが一般的だが、泡の立たないタイプもある。味わいには、甘口、中辛口、辛口がある。色味は淡くて無色に近いものから、褐色までさまざま。ただ喉を潤すために飲むだけでなく、ワインやビールと同じように、食中酒として、料理と共に楽しむことができる。

 

その歴史~スペインからフランスへ

 
シードルの歴史をざっと見ておこう。リンゴを原料としたお酒はヨーロッパでは紀元前から造られていたとされている。シードル造りの最古の記録は、紀元前55年、グレート・ブリテン島に住むケルト民族が野生リンゴの果汁を発酵させている様子を、ユリウス・カエサル軍が目撃したというものだ。

 
4世紀にはローマでシードルを表す言葉が使われていたといい、果実酒を意味するヘブライ語「シェカール」を語源に、ラテン語の「シセラ」が派生した。9世紀にはスペイン北部でこの飲み物が定着し、フランク王国を治めたカール大帝はシードルやポワレなどの果実酒造りを奨励した。

 
当時は、スペイン北西部にあるキリスト教の聖地、サンティアゴ・デ・コンポステーラに詣でる巡礼が大流行し、スペインとフランスの間には盛んに人と情報の行き来があった。シードルを飲む習慣や製法もこの巡礼路に沿って伝わったに違いない。

 
11世紀にはフランス北部ノルマンディーとブルターニュ地方でリンゴ栽培とシードル生産が確立された。ブドウが熟さない寒冷地でもリンゴは熟す。このことがワインとシードルの「棲み分け」につながっている。

 
日本に入ってきたのは1953年。青森県弘前市の吉井酒造の社長が欧米を視察した際にその製法を学び、生産を始めた(本格的な生産が始まったのは56年以降)。

 

製法はワインとよく似ている

 
ブルターニュ地方やノルマンディー地方では、シードルの味に複雑みを与えるために、甘いもの、酸っぱいもの、渋みのあるものなど複数の品種のリンゴを使い、ブレンドしてシードルを造る。多いところでは40品種を超えるリンゴをブレンドすることも。

 
一般に生食用のリンゴとシードル用のリンゴは品種が異なる(生食用の品種を使う産地もある)。逆に単一品種のリンゴで造られるシードルもある。リンゴの実が熟して地面に落ちるのを待って収穫する方法と、木から直接もいで収穫する方法がある。また摘果リンゴ(生食用で間引きされたもの)を使うところもある。

 
収穫したリンゴは冷たい水で洗浄し、粉砕してからプレス機(搾汁機)で圧搾し、果汁を搾る。油圧式、垂直プレス、遠心分離など、プレス機の種類もさまざまだ。収穫したリンゴを圧搾する前に屋外で日に晒し、熟成させることもある。

 
搾った果汁をタンク(または樽)に入れ、しばらく静置する。搾りたての果汁には果肉やペクチンが混じって濁っているため、これが澄むまで待つのだ。透明なジュースだけを発酵槽に移し、発酵工程に入る。リンゴ自体が持っている酵母により自然発酵させる方法と、培養酵母を添加して発酵させる方法がある。

 
発酵では果汁の中の糖分が酵母によって代謝され、アルコールと炭酸ガスが発生する。発酵を1ヵ月程度で完了する国もあれば、最低でも3ヵ月かける国もある。発酵期間が長いものほどアルコール度数が高くなり、残糖が減って辛口になる。これが一次発酵である。

 
一次発酵で発生した炭酸ガスとともに瓶詰めして出荷することもあれば、さらにしっかりとした泡を生み出すために二次発酵を行う蔵もある。二次発酵は、一次発酵を終えた液体に再び酵母と糖を加え、密閉した容器(タンクやボトル)の中で発酵させる。この工程を端折って、炭酸ガスを注入することで泡を作り出す製法もある。

 

産地によって異なる呼び名やスタイル

日本では「シードル」という呼び名が定着しているが、これはフランスでの呼び方。イギリスでは「サイダー」、スペインでは「シードラ」、イタリアでは「シードレ」、ドイツでは「アプフェルヴァイン」、アメリカでは「ハードサイダー」と呼ばれている。呼び名だけでなく、製法や味わい、飲み方のスタイルまで、地方によって違いがある。

 
主な生産国の個性を見ていこう。

 

フランス

 
「シードル」の語源はラテン語の「シセラ(Cicera)」。ブルターニュ地方とノルマンディー地方は、シードルの聖地と言っていい。ブドウ栽培に適さないことから、ワインに代わるものとしてシードルが造られてきた背景がある。伝統的には数多くの品種のリンゴを使い、果実が熟し切って地面に落ちるのを待って収穫する。

 
じっくりと時間をかけて発酵させるため、適度の渋みと複雑みのある「大人の味わい」になる。陶製のカップで飲むのが伝統的なスタイルだ。そば粉のガレットと共に楽しむのが王道。甘口から辛口まである。

 

イギリス

世界最大のシードル消費国。「サイダー」と呼ばれ、パブではビールと同じようにタップからパイントグラスに注がれることも。比較的辛口が多く、アルコール度数は高め。フィッシュ・アンド・チップスにサイダーをあわせる人も珍しくない。

 

スペイン

「シードラ」と呼ばれる(バスク地方では「サガルド」)。歴史のところでも述べたように、スペインはフランスと並ぶ伝統生産国だ。バスク地方やアストゥリアス、ガリシアといった北部地方がその中心。祝祭には欠かせない飲み物となっている。

 
産地ごとにスタイルが大きく異なるが、一般的に酵母の香りが強めで、キレのある酸が特徴。発泡していないもの、微発泡のものが多い。ボウルを高々と掲げ、特製グラスの中に勢いよくシードラを落として注ぐ「エスカンシアール」という独特の注ぎ方があり、バルにはその道の達人「エスカンシアドール」がいる。

 

ドイツ

リンゴのワインを意味する「アプフェルヴァイン」と呼ばれる。生産地として有名なのはフランクフルト。甘口も辛口もあり、郷土料理とあわせて食中に飲まれる。大粒で穏やかな泡が特徴。「ベンベル」というピッチャーと、切子模様のグラスで伝統的に楽しまれている。

 

アメリカ

「ハードサイダー」と呼ばれ、アルコールを含まない「サイダー」と区別されている(この「サイダー」という呼称が日本に入ってきて、サイダー=炭酸飲料というイメージが定着した)。日本同様、生食用のリンゴから造られるフレッシュな味わいのものも多い。

 
主要産地は北東部のニューヨーク州とニューイングランド地方各州。生食用リンゴを原材料にしたフレッシュでみずみずしいものが多いのが特徴。ビールやジン、ウイスキーと同様に「クラフト・ブーム」が起こっていて、多様でユニークなハードサイダーが登場している。

 

日本

 
本場フランスに倣って「シードル」と呼ばれることが多いが、「サイダー」の表記も見られる。主に紅玉やふじといった生食用のリンゴからスッキリとした飲み口で繊細な味わいのシードルが造られている。

 
日本シードル発祥地の青森・弘前市には、10軒以上の生産者があり、それぞれの個性を主張し合っている。2021年7月のデータによると、日本のシードル醸造所の数は約110軒。最も多いのが長野、ついで青森、北海道。山形・岩手とリンゴ産地が続く。

 
海外ではシードル専用の醸造所で造られることが多いが、日本ではワイナリーや酒造、ビール醸造場がシードルを手がけているケースが多く、発酵にワイン用や清酒用の酵母を用いるなど、ユニークな試みが行われている。

 
最近はリンゴ農家がさまざまな品種のリンゴを栽培して、醸造所に持ち込み、委託醸造を行うケース(「農家シードル」と呼ばれる)も多い。

 
ちなみに、日本の酒税法では泡の出るシードルは「発泡性酒類」、泡のないシードルは「果実酒」に分類されている。

 

おいしく飲むには?グラス、温度、保存法など

 
まず容器だが、伝統的には陶器のカップで飲むが、ワイングラスやタンブラーでサービスされることが多い。ガラス製の容器なら美しい色合いを愛でることができる。

 
飲み頃の温度帯はシードルのタイプによって異なるが、フレッシュさが特徴のものは低めの温度(6~8℃)、コクのあるものはやや高めの温度(10~12℃)で飲むようにすればいいだろう。

 
元々寒冷地の飲み物なので、キンキンに冷やして飲む習慣はないし、冬場には沸騰寸前まで加熱したものにスパイスを加えてホットで飲む習慣もある。

 
ワイン同様、料理との相性を考えるもシードルの楽しみ。きりっとドライなタイプはビール感覚で、甘口は食前酒として、タンニンや果実味をしっかり感じられるものは赤ワイン感覚で肉料理にあわせて……など、いろいろと試してみてほしい。それぞれの産地の名物料理や食材もマッチングのヒントになる。

 
泡の出るタイプのシードルの泡は思った以上に強い。ボトル1本が飲みきれず、残しても、栓をしておけば翌日にも泡立ちを楽しめる。風味も1~2日は変わらない。スパークリングワイン用のストッパーがあると便利だ。

 

おすすめ銘柄 世界のシードル6本

それでは、世界各地と日本国内で造られるシードルのおすすめ銘柄を見ていこう。ワインのフルボトルと同じ750ml、小瓶、缶など、サイズもさまざま。飲むシーンにあわせて選びたい。

 

ヴァル ド ランス「クリュ ブルトン ドゥ」(フランス)

▲出典:ル・ブルターニュURL

 
レ・セリエ・アソシエ社は1953年創立の生産者組合。500軒を超える農家が加盟している。このシードルはフランス・ブルターニュ産のリンゴだけを用い、自然発酵で造られる。ブレンドされる品種の数は40以上。微発泡で、ナチュラルな甘口。柔らかい酵母の香りと、適度な濃厚さがある。アルコール2%、750ml、税込小売価格:1,310円。

 

メゾン・サッシー「サッシー・シードル」(フランス)

▲出典:AmazonURL

 
メゾン・サッシーは2014年、フランス・ノルマンディー地方で生まれた若いブランド。カール・ラガーフェルド、クロエなどファッションブランドとのコラボレーションも行い、えてして「田舎の飲み物」と言われがちだったシードルの汚名を払拭、「プレミアム・シードル」というジャンルを確立した。

 
この「サッシー・シードル・クラシック」は、22種類のリンゴをブレンド、スッキリとした味わいに仕上げられている。アルコール5.2%、330ml、税込希望価格:748円。

 

ベレシアルトゥア「シードラ」(スペイン)

▲出典:ワイン館アレグリアURL

 
ベレシアルトゥアはスペイン北東部、バスク地方の高級保養地サン・セバスチャン郊外の“シードラの町”アスティガラガにある醸造所。在来品種のリンゴを使い、砂糖や炭酸ガスを添加することなく、自然な伝統製法でシードラを造っている。

 
このシードラは「泡なし」タイプ。ドライな味わいだが熟したフルーツの風味があり、グリルした魚、ミートパイなどの料理に合う。アルコール6%、750ml、税込小売価格:1,760円。

 

マエロック「ドライシードル」(スペイン)

▲出典:アイコン・ユーロパブURL

 
造り手はスペイン北部の協同組合。「マエロック」は6世紀にイギリスからスペイン・ガリシア地方に来訪した司教の名前に由来。この司教がリンゴ酒の文化と製法を伝えたとされる。

 
5種類の在来種のリンゴをブレンド。「ドライシードル」はしっかりした果実味と心地よい渋みがある本格派の味わい。缶入りもある。アルコール4.5%、330mlボトル、税込参考価格:459円。

 

ザ・ヒルズ・サイダー「アップル シードル」(オーストラリア)

▲出典:Hills CiderURL

 
オーストラリアでもシードル(サイダー)は大ブーム。「ザ・ヒルズ・サイダー・カンパニー」は2010年に南オーストラリア州アデレードヒルズで誕生したクラフト醸造所。

 
サステナブル農法によって栽培される4種類のリンゴをブレンド。少量生産・品質重視で造られるサイダーはコンテストでの評価も高い。「アップル シードル」のクリスピーな酸味は、アジア料理やスパイシーな肉料理と相性がいい。アルコール6%、330ml、税込希望小売価格:770円。

 

ダンカートン「オーガニック・シードル・ブラックフォックス」(イギリス)

▲出典:TRAVESIAURL

 
「ダンカートン」は、イギリス・ヘレフォードシャー州で1980年に創業。オーナーのアイバー・ダンカートン氏はイギリスのテレビ局BBCの敏腕プロデューサーだった人物。創業以来、オーガニックを貫き、そのサイダーは英国オーガニック・シードルの最高峰と称される。

 
最低でも12ヵ月の熟成をかけることで生まれる重厚な味わいは「ダンカートンのディープ・フレーバー」として知られる。「オーガニック・シードル・ブラックフォックス」は、10種類のリンゴを使った中辛口。果実味は圧倒的。果肉の甘みと皮の渋みが重層的に広がる。アルコール7%、500ml、税込小売価格:1,320円。

 

おすすめ銘柄 国産シードル7本

弘前シードル工房kimori「kimori シードル ドライ」(青森)

▲出典:kimoriURL

 
「弘前シードル工房kimori」は日本一のリンゴ生産地である青森・弘前のリンゴ農家が集まって立ち上げた小さな醸造所。

 
このシードルは、サンふじをメインにその他のリンゴを混合、弘前大学白神酵母で発酵。濾過せずに瓶詰め。ナチュラルで優しい味わいの“農家シードル”。アルコール6%、750ml×2本、税込小売価格:3,315円。375mlボトルもある。

 

もりやま園「テキカカシードル」(青森)

▲出典:もりやま園URL

 
もりやま園は青森・弘前で明治時代から100年以上続くリンゴ園。このシードルは、摘果で間引かれる未成熟リンゴを70%使用。これまでは法令による規制があって、摘果リンゴは農産物として扱えないという問題があったが、同農園はICT(情報通信技術)を駆使することでこれをクリア。フードロスの問題と向き合って生まれたお酒といえる。

 
摘果リンゴには成熟果の約70倍ものプロシアニジン(ポリフェノールの一種で、強い抗酸化力を持つ)を含むことがわかっている。摘果リンゴから来るキレのよい味わいが特徴。アルコール5%、330ml×3本、税込小売価格:2,013円。

 

セイズファーム「シードル」(富山)

▲出典:IMADEYAURL

 
「セイズファーム」は、富山・氷見の実力派ワイナリー。このシードルは富山県産のふじのみを使用した単一品種のシードル。フランス・ブルターニュ地方の製法に倣い、甘さを抑えたドライなタイプに仕立ててある。フレッシュな青リンゴの香りと酵母由来の香ばしい香りが混じり合う。アルコール7%、750ml、税込小売価格:1,600円。

 

カモシカシードル「La 3e saison Brut 辛口」(長野)

▲出典:カモシカシードルURL

 
カモシカシードル醸造所は長野県伊那市で2016年に製造開始。原料を地元農家から買い入れるだけでなく、自社栽培も手がけ「ル・シードル・フェルミエ(農家のシードル)」造りを目指す。既にアジア最大の国際コンクール「Fuji Cider Challenge 」で5年連続受賞の実績がある。

 
ふじをベースにグラニースミスをブレンド。甘い果実香がありながらも、口の中ではキリリとした辛口。瓶内二次発酵によるきめ細かい泡が楽しめる。2022年2月現在、2019年と2020年ヴィンテージのシードルを発売中。アルコール8%、750ml、税込小売価格:1,650円。

 

リュードヴァン「シードル」(長野)

▲出典:リュードヴァンURL

 
「リュードヴァン」は、長野県東御市にあるワイナリー。創業は2008年。このシードルは、東御市産のふじのみを使用。優しい泡立ちと心地よい酸味が楽しめる。飲みごたえがあり、食中酒向き。アルコール8%、750ml、税込小売価格:1,700円。

 

ふかがわシードル「ふかがわシードル」(北海道)

▲出典:ふかがわシードルURL

 
「ふかがわシードル」は北海道深川市の「アップルランド山の駅おとえ」内に併設された醸造所。2015年から操業。深川産のリンゴだけを使い、日本酒の吟醸造りの手法を応用し、フレッシュで、飲みやすい味わいを実現している。アルコール5%、750ml、税込小売価格:1,700円。375mlもある。

 

ニッカシードル「ニッカ JAPAN CIDRE」

▲出典:アサヒビールURL

 
国産リンゴ100%で造られる真っ赤なスパークリング。美しい色合いは、原料の一部として使われている、果肉まで赤い品種ジェネパから。同品種の特徴である適度な酸味と渋みも、甘くてスッキリした味わいに寄与している。アルコール度数は3%とビールの半分程度なので、気軽に楽しめる。アルコール 3%、720ml、税込小売価格:1,958円。

 

シードルで広がる、新たなお酒の世界

シードルの魅力の一端に触れてもらえただろうか?

 
世界的なブームの背後には、シードルが低アルコールであることやポリフェノールなどの健康効果が期待できること、果実味と酸味が現代のライトな食事に合うことなどが挙げられるだろう。

 
甘酸っぱい味と爽やかな飲み口で、お酒のビギナーでも入りやすい。が、実は奥が深いのがシードルの世界だ。いろいろと飲み比べて、新たな「発見」と「体験」をしてほしい。

 
 

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