栗山 あらゆる業務データがデジタル化される時代、企業のIT部門では担当する業務範囲とシステムが増え、結果として疲弊してしまうケースをよく耳にしますが、JALさんのIT部門ではいかがでしょうか?
岡 当社IT部門でも、飛行機の安定運航に欠かせない重要な基幹システムのみならず、現場の業務改善レベルのシステム開発も求められるようになり、業務量や開発コストの膨張が課題となっていました。特にコストについては、お客さまのニーズの目まぐるしい変化や多様化を背景に、ペーパーレス化や脱表計算ソフト、生産性向上を目指した細かな業務改善など、現場からのシステム開発の要望が急増したことで全体のコスト上昇が避けられない状況となっていたのです。
栗山 人員やコストは限られていますから、どうしても現場の業務改善レベルのシステム開発は後手後手になってしまいますよね。
岡 はい。しかし、この問題はキントーンの活用で大きく改善されました。基幹システムに組み込むべき業務と、キントーンで開発できる業務の仕分けをすることで、現場の業務改善レベルのシステムは現場の社員自らがキントーンで開発できる体制を整えました。その結果、IT部門は人的工数を割かなくても現場のシステム開発の要望に応えられるようになっただけでなく、大規模な基幹システム開発に集中できるようになりました。また、一般的なシステム開発コストは、現場の業務改善レベルであっても最低でも100万円単位、高い場合は 1000万円を超えることも珍しくありませんので、1ユーザーあたり月額1500円(税抜)で利用できるキントーン導入によるコストカット効果は非常に大きいといえます。
栗山 キントーンを使うと低コスト・低リスクで開発・維持管理できるので「費用対効果を考えると外注するほどのコストをかけられない。でも、あったら便利」という規模感のアプリを開発しやすいという評価もいただいています。
岡 当社がキントーンで開発したシステムの中で最もよく使われている「落とし物情報共有アプリ」や「グランドスタッフ業務引き継ぎアプリ」がまさにそれです。「落とし物情報共有アプリ」は、ある空港内で使われているもので、到着したフライトの落とし物情報が日々登録されています。空港内の落とし物情報については、以前は口頭や手書きのメモ、エクセルなどを使って社員のシフト交代時に引き継いでおり、アナログで煩雑な業務だったのですが、アプリ開発・導入後は各社員が携帯している端末上で「いつ、どこで、どんな落とし物があったのか」がリアルタイムで確認できるようになり、お客さまと空港スタッフの体験価値が格段に向上しました。しかも、従来は数カ月かけて開発していたようなシステムが、キントーンなら数日、場合によっては数時間で開発できており、その分、お客さまのニーズにより迅速に対応できるようになりました。
栗山 実際に現場でシステムを使う人が自ら作るわけですから、システムの機能と現場ニーズとのミスマッチが起きにくいというメリットもありますよね。現場社員の方はシステムを作ることについてどう考えているのでしょうか?
岡 それが面白いことに、もはや本人たちには「キントーンでシステム開発をしている」という意識はなくなっていて、ごく当たり前の業務改善活動の一環として取り組んでいるんですよね。その意味で当社にとってキントーンはすでに「システム開発のためのツール」ではなく「業務改善のためのツール」になっています。キントーンを使うことによって、社員一人一人にとってDXが絵空事ではなく自分事になり、日常業務の一部になりました。この社員の意識の変化が今後、JAL全体のDXを加速し、経営課題解決の大きな原動力になってくれるものと確信しています。
栗山 キントーンを業務改善のツールとして活用し、着実に成果を挙げるJALさんの取り組みは「カイゼン」を得意とする多くの日本企業にとって最適なロールモデルになると思います。日本企業が「社員のシステム開発力を活かしたカイゼン」を武器にグローバル市場での存在感を高められるよう、サイボウズも引き続き日本企業の皆さんとのベストプラクティスの構築に努めてまいります。