とっておきの話

離陸と着陸、できる条件は?【キャプテンの航空教室】

文/待永 秀和 イラスト/高橋 潤

定期便のパイロットは、決められた路線を決められた時間に毎日飛行しています。そのため、晴天の日ばかりではなく、悪天候のなかでの安全な飛行も求められます。刻々と変わりゆく天候は自然を感じられて楽しい半面、厳しい仕事だと思っています。今回は私の乗務するATR42-600型機でのさまざまな天候に応じた運航について、ご紹介します。

 
例えば、霧で前方が見えにくい場合、どのような状況なら離陸できるのかご存じでしょうか。それは滑走路上での前方の見える距離によって決められています。その空港の施設などにより違いはありますが、最低でも200mほど前が見えれば離陸は可能です。離陸可否の最終決定はパイロットが行い、そのほかのすべての状況を確認し、安全に離陸できると判断した場合のみ離陸します。

 
一方、着陸はどのくらいの条件で可能かご紹介します。各空港には数種類の進入方式(ルート)があり、風向により使用する滑走路を選択し、その滑走路に設定されている最適なルートを選択します。そのルートにより滑走路まで近づける距離と高度が決められています。その距離と高度に到達するまでに滑走路が見えないと着陸はできません。

 
着陸設備が整った空港では、滑走路上での前方の見える距離がたった550mほどあれば、滑走路に向けての飛行を最後まで継続できます。必要な条件を満たして飛行を継続できた場合、滑走路の手前上空、約61mの高さ(建物だと20階くらい)まで接近できます。その時の飛行機の速さは時速約200km、滑走路に着陸する約25秒手前の位置までです。

 
この時までに滑走路が見えない場合は、進入をやめ上空に戻ります。見えた場合は着陸するために進入を継続しますが、滑走路の状況を見て安全に滑走路上で停止できそうか、滑走路上の決められた地点内に接地できそうかなどを瞬時に判断し、慎重に着陸します。

 
今、私の乗務するATR42-600型機では、本邦初の新しい進入方式、LPV*の導入準備を進めています。これはGPSと静止衛星の情報のみで進入するもので、諸外国ではすでに一般的です。これにより、離島空港への就航率が上がる可能性があり、期待しています。

 
自然の猛威に屈して、目的地に到達できない場合も稀にありますが、安全運航にご理解いただけると嬉しく思います。

 

* Localizer Performance with Vertical guidance

 

待永 秀和 Machinaga Hidekazu
HAC
ATR42-600型機
出身地:北海道
趣味・特技:スノーボード、SUPボード、ワークアウト
座右の銘:Never give up

 

(SKYWARD2022年10月号掲載)
※記載の情報は2022年10月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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