とっておきの話

2機種に乗務できるMFF制度【キャプテンの航空教室】

文/西迫 友彦 イラスト/高橋 潤

本日もJALグループをご利用いただき誠にありがとうございます。ボーイング777型機・787型機機長の西迫と申します。ここで不思議に思われたお客さまは飛行機に詳しいのではないでしょうか。

 
今回は、「MFF(Mixed Fleet Flying)」についてお話しします。パイロットが旅客機を操縦するには機種ごとの免許取得が必要で、もし複数機種の免許を取得していても、手順やシステム、操縦感覚の差異を排除するため、同時期に乗務できるのは1機種に限定されています。

 
一方で、パイロットが別機種に移行する際、なるべく違和感なく移行できるよう、エアバスやボーイングなどの航空機製造元により、各々の設計概念に基づいた操縦操作や手順の共通化が図られてきました。MFFは海外では歴史のある混乗制度ですが、日本では2019年4月に航空法施行規則、通達が改正され、「極めて類似した型式」において2機種を上限として同時期に乗務することが可能になりました。

 
この類似した2つの型式に混合乗務することをMFFと呼び、JAL保有機材では777型機と787型機の2機種に混合乗務することが該当します。JALでは2019年7月より混合乗務を開始し、現在私を含めて10名の機長が月替わりでこの2機種に乗務しています。

 
MFF乗員になるには、機長としての経験に加え、両機種の資格を維持するための訓練を実施し、どちらかの機種で審査不合格となった場合は両機種を乗務不可とするなどの付加的条件が設定されています。そして何より我々MFF乗員自身が機種の差異を認識し、万全の準備で操縦席に座っていますので、どうぞご安心ください。

 
実際に777型機と787型機を混合乗務してみると、大きさや操縦感覚、さらには就航路線も似ており、手順もおおむね共通化されているため、違和感なく乗務できています。

 
もちろん類似はしているものの、装備品などでは多少の違いもあります。例えば操縦室の大きな違いとして、一部の自動車にも搭載されている「HUD(Head Up Display)」が787型機には装備されています。特に離着陸時、操縦室内の計器に目線を落とすことなく、前方の滑走路を視認したまま、速度や高度などの情報を得ることができるため大変重宝しています。しかし、777型機には装備がないから困るというものでもありません。

 
私は23年間777型機に乗務した後に、787型機の免許を取得しました。MFFのおかげでHUDをはじめとする787型機の最新技術に触れつつ、愛着のある777型機をこれからも引き続き操縦できることにこの上ない幸せを感じております。次回皆さまに機内でお会いする時、私は777型機、787型機どちらに乗務しているでしょうか。またのご搭乗を社員一同心よりお待ちしております。

 

西迫 友彦 Nishisako Tomohiko
JAL
ボーイング777型機・787型機 機長
出身地:広島県
趣味:メダカの飼育、ランニング
座右の銘:自己研鑽

 

(SKYWARD2022年1月号掲載)
※記載の情報は2022年1月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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