とっておきの話

オリンピアの古代遺跡【ヤマザキマリの世界逍遥録】

文・イラスト/ヤマザキマリ

子どもの頃、走るのが速かった私は短距離走の選手として、地域の競技会によく出場していました。でも、私のそうした運動能力は大自然の中で昆虫を追いかけ回しながら過ごした結果でしかなく、誰かと能力を競い合う競技会の空気が苦手だったこともあって、そのうち運動への関心がなくなってしまいました。

 
そんな私が数年前、古代オリンピックと現代オリンピックの比較漫画を描くことになりました。人類はなぜ古代から運動を愛し続けたのか、そして人々はなぜ運動する人々に熱狂するのか、その真意を知りたくなったからです。

 
取材のために、私は早速、古代オリンピックの発祥の地であるギリシャのオリンピアへ足を運びました。古代オリンピックの地は、神殿などいくつかの建造物の遺跡がオリーブや松の林の合間に点在する、穏やかで静かな空間の中にありました。現代の煌びやかで華々しい開閉会式典が執り行われるような立派な競技場とは全く様子が違います。

 
記録に残る1回目の古代オリンピックが開催されたのは紀元前8世紀、都市間の争いを止めるために競技会をせよ、というアポロン神から啓示を受けた王によって催されたとされています。聖地オリンピアに兵器を持ち込むことは禁止され、ギリシャ全土からこの地に集まる選手や観客を巻き込まないように、停戦期間が設けられました。

 
ちなみに、1回目の種目は191mのトラックを走り抜ける短距離走のみですが、やがて競技種目の数も開催期間も増え、古代ローマ統治下でも受け継がれて、1000年以上もの間、開催され続けた祭典となったのです。

 
ギリシャ中から人々が集まり、選手たちと一緒に生きる喜びを美しい自然の中で謳歌していた古のオリンピック。その情景を思い浮かべながら、戦のない平和な世界を願わずにはいられなくなる、そんな佇まいのオリンピアなのでありました。

 
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、1巻が好評発売中。

 

(SKYWARD2024年7月号掲載)
※記載の情報は2024年7月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 

『ヤマザキマリの世界逍遥録』単行本、好評発売中!

 
JALグループ機内誌『SKYWARD』に大好評連載中の「ヤマザキマリの世界逍遥録」より、2018年5月号~2020年10月号に掲載された30編を収録。ヨーロッパ、中東、アジア、アメリカ、南米……世界を旅するヤマザキさんならではの、独自の視点で捉えた各地の魅力をイラストとともに綴っています。さらに特別編として、JALカード会員誌『AGORA』2019年7月号、8・9月号に掲載の、タイ・チェンマイ~チェンセーン~チェンライ周辺を巡った「タイ北部紀行」前後編も併せて収録。

 

定価:1,430円(税込)
発行日:2021年3月31日
サイズ:四六判(天地:188mm/左右:128mm)
総ページ数:176ページ

 
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