とっておきの話

「おかえり」がくれる安らぎ、『旅屋おかえり』

【光浦靖子さんの旅する推薦図書】

文/光浦靖子 撮影/安永ケンタウロス

今回ご紹介する旅の小説は、原田マハさんの『旅屋おかえり』。30ちょい過ぎの売れないタレント「おかえり」こと丘えりか。5年続いた唯一のレギュラー番組「ちょびっ旅」は、おかえりのミスで打ち切りになります。社長と事務員、タレントはおかえりだけの弱小事務所。ひょんなことから、旅の代行業を始めることになります。健康上の都合、家族の関係性、いろんな事情により旅に行けない人の代わりにおかえりが旅をするのです。

 
旅先にどんな本を持っていきますか? 私は大変な怖がりで、ホテルの初日はだいたい緊張して眠れません。小さな物音一つで「何? オバケ? 泥棒? 何? なに? ナニ?」と。霊感もなければ、怖い目にあったことは一度もありません。ただ、相当なビビリなので、旅に持っていく小説には条件があります。まず、ホラーは言語道断。殺人事件が起きないこと。暴力シーンがないこと。人間の底にある醜さを描かないこと。私に新たな悩みを与えないこと。そして楽しいもの。はて、そんなのあるんかいな。あったんですね。それが、これです。

 
原田さんはキュレーターであり、美術に造詣が深くて、絶対お洒落なはずです。が、この小説、登場人物みんなダサいんです。ファッションの描写のせいじゃなくて、行動が、セリフが、空気がぜーんぶダサいんです。褒めています。いい人って、ダサくありません? 初対面でもツッこまれる隙を持っているというか、でも、あれは隙じゃなくて「ここまでは大丈夫だよ」と思わせる度量の広さだと私は思うんです。ここには善人しか出てきません。この小説は読む人を緊張させません。知識もセンスも要求してきません。まるで土曜の朝の25分の旅番組、まさに「ちょびっ旅」を見るように、安心して読めばいいんです。

 

『旅屋おかえり』
原田マハ 著
集英社文庫

 
光浦靖子
みつうら やすこ/1971年、愛知県生まれ。プロダクション人力舎所属。幼馴染みの大久保佳代子と結成したオアシズでデビュー。バラエティー番組、ラジオなどに出演するほか、舞台やコラム執筆など多岐にわたり活動。主な著書に『ハタからみると、凪日記』(毎日新聞出版)、『靖子の夢』(スイッチ・パブリッシング)など。

 

(SKYWARD2020年9月号掲載)
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