煌(きら)びやかなライティングに照らし出された会場に、躍動する鼓動のごときパーカッションのリズムと、1年かけて作られたハイテクでゴージャスな巨大山車の数々。その合間を歌って踊りながら通り過ぎていく、色とりどりの衣装に身を包んだ人々。私が初めて観たリオのカーニバルはスペシャルリーグの最終日、「エスコーラ・ジ・サンバ」と呼ばれるいくつかのグループの中からトップを決めるパレードが行われた夜でした。
カーニバルの時季、リオデジャネイロには通常150万人もの人々が集まりますが、その夜も収容人数8万人の会場は超満員。参加者も含めると10万人近くもの人々が皆、命を謳歌する喜びのエネルギーを、満面の笑みで満遍なく放出させているその様子は、まさに人間力と喜びの祭典といえるでしょう。夜の8時に始まった6チームのパレードを終始食い入るように観続けていたら、いつの間にか空には眩しい太陽が昇っていました。それまで抱いていたイメージを完全に超越した、驚くべき体験に眠気はすっかり吹き飛び、その日は1日、記憶に焼きつけたパレードが頭の中を延々と通り過ぎていく始末。
昼食を取りに外へ出ると、管理人のおじさんが庭の木陰のベンチにぐったりと横たわっているので、どうしたのかと尋ねてみると、昨晩、パレードに登場したグループの一人として、アマゾンの植物の被り物をつけて一晩中踊っていたというではありませんか。気が付かなかったと言うと、「気が付くわけないよ、その他大勢のうちの一人なんだから!」と笑われてしまいました。「でも、踊っていると、会場の観客が全員自分に注目してくれている気がするんだ。あの感覚は最高だよ」とのこと。今度は観る側じゃなくて参加者になりなよ、と誘われてからもうだいぶ時間がたってしまいましたが、生きているうちに一度くらい、観られる側を体験してみるのもいいかもしれません。
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、1巻が好評発売中。
(SKYWARD2025年2月号掲載)
※記載の情報は2025年2月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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