とっておきの話

ナポリとそっくり! 鹿児島湾【ヤマザキマリの世界逍遥録】

文・イラスト/ヤマザキマリ

以前仕事場として使っていた東京のマンションのそばに、壁一面にナポリ湾とヴェスヴィオ火山が描かれたお店があり、てっきりイタリアンレストランだと信じ込んで出かけてみたところ、鹿児島の焼酎専門店だったということがありました。時々東京にやってくるイタリア人の夫も、その店をてっきりピッツァ屋さんだと思い込んでいたそうですが、実はそれくらい、ナポリ湾と鹿児島湾の風景は似ているのです。

 
鹿児島は私の祖父の祖母の故郷でもあり、初めて鹿児島市を訪れたのも、彼女の実家である呉服問屋があったとされる場所を見に行くのが目的でした。万延元(1860)年生まれの彼女は西南戦争の年に東京へ出てきたそうで、聞くところによると結婚させられそうなった相手が気に入らず逃げてきたのだとか。彼女の実家があったとされる場所を散策した後、鹿児島で見晴らしが一番よいといわれる城山公園へ足を運びました。

 
写真では度々見ていましたが、正面にうっすら噴煙をたなびかせている桜島が構え、その前に広がるのは紺碧の海、湾のへりに沿って鹿児島市の建造物が立ち並んでいるその光景は、まさにナポリ湾とそっくり。あまりに「ナポリとそっくりだ!」と騒いでいると、地元の人から「いや、もう鹿児島市とナポリは1960年から姉妹都市になってますから」と笑い混じりに教えてもらい、腑に落ちたのでした。鹿児島市は昔から「東洋のナポリ」と呼ばれていたそうで、市内には”ナポリ通り”と命名された道もあるのだそうです。

 
そういえば『プリニウス』という古代ローマ時代を舞台にした作品で、主人公の博物学者プリニウスと、その背景に噴火するヴェスヴィオ火山を描いたところ、「もしや桜島と西郷どんですか?」と聞かれたことがありました。プリニウスがもしタイムスリップをして鹿児島にやってきても、あまりの景色のそっくりさに間違いなく驚くことでしょう。

 
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、1巻が好評発売中。

 

(SKYWARD2025年1月号掲載)
※記載の情報は2025年1月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 

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