パリの象徴ともいえるノートルダム大聖堂が立つシテ島は、サン=ルイ島とともにパリ発祥の地とされています。セーヌ川の中州となるこの島は元は沼地でしたが、紀元前3世紀ごろからパリの名前の由来となるパリシイという民族が集落を築きました。その後ローマ帝国の植民が始まると、パリシイの集落はルテティアと名付けられ(沼地を意味するLutumに由来)、浴場や水道など高度なインフラが続々と建設されます。ローマ人とパリシイ人は仲よく共生していたようですが、中世のゲルマン民族の大移動でパリも大きな影響を受けます。街の中心に位置するルテティアは新たな統治者であるフランク人の王によって “シテ”(都市)と宣言され、その後も “シテ島”と呼ばれるようになったのでした。都市を意味する英語Cityはシテ島が語源だともいわれています。
ゲルマンの王が首都と称するほどですから、当時のシテ島ではローマ人たちによって築かれた優れた都市構造がうまく機能していたのでしょう。パリを観光で訪れる人はたくさんいますが、ノートルダム大聖堂広場の地下に、そんなローマ時代の遺跡があることに気が付く人は多くはないようです。というのも、この私ですら14歳での初めての一人旅でパリを訪れ、ノートルダムもじっくり見ていながら、地下に別の歴史があることなど全く知りませんでした。
「クリプト」と呼ばれるこの遺跡には異民族の侵入を防ぐ城壁の他、セーヌ川のほとりに位置していた埠頭、床下暖房機能を用いた浴場の跡も見られます。ゲルマンの王も床下暖房を使った浴場には驚かされたに違いありません。ちなみにこの遺跡は1965年、地下駐車場の建設に当たって調査が行われたときに発見されたそうです。
パリには他にもこうした驚きの古代ローマの軌跡がいくつも残っているので、パリを訪れた際にはぜひ、この街の古代にも目を向けてみてください。
やまざき まり
漫画家・文筆家・画家。日本女子大学国際文化学部国際文化学科特別招聘教授、東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』、作品集『ヤマザキマリの世界 1967─2024』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、第1・2巻が好評発売中。
(SKYWARD2026年7月号掲載)
※記載の情報は2026年7月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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