豊かな熱帯の森が広がる中米のコスタリカは、知る人ぞ知る自然の楽園。観光客を森に連れ出し自然や野生生物などをガイドする「エコツアー」が盛んな国で、エコツーリズム発祥地といわれるモンテベルデの熱帯雲霧林を筆頭に、心安らぐ自然散策ツアーの人気が高い。国土の面積は日本の1/7ほどと小さいものの変化に富み、東にカリブ海、西には太平洋。内陸の高地では、世界各国で愛される美味しいコーヒーが栽培されている。
目次
マングローブの奥へと伸びる水路をボートでゆく
小さな国土に地球上の生物の約5%が集中するコスタリカは、その自然を目当てに空路で訪れる観光客が多いほか、カリブ海と太平洋を往来できるパナマ運河が近いため、クルーズ船で寄港する人も少なくない。
手軽な自然散策なら、カラーラ国立公園のタルコレス川遊覧あたりもいいだろう。エンジン付きの川船に40〜50人が乗り、密林の奥へと延びる泥濁りの川をゆく。
出発早々、ガイドが次々と風景の一部を指差した。片言の英語と図鑑を用いて、ささやくように「ほら、あそこの木の向こう……」などと言う。「どこ? 何?」と乗客たち。目を凝らすと、ワニやシロトキなどの水辺の生き物が次々と見つかった。
この日の最大の見ものはコンゴウインコ。森の木の高いところに橙・黄・青の鮮やかな羽毛をまとった2羽がいた。聞けば、「一夫一妻で生涯連れ添う」らしい。望遠レンズをいっぱいまで伸ばして切り取ったのが冒頭の一枚だ。
「どれ。よく撮れてるじゃないか。ほら、みんなも見てみなよ!」
日本のカメラマンがうまく撮ったぞ、とガイドが乗客たちに向かって声をあげた。
エコツーリズム発祥国の希少な「高高度」コーヒー
さて、内陸の首都サンホセは標高1,172m。中米のなかでもパナマと並んでとりわけくびれた位置にあるコスタリカは内陸部の高度が急激に高くなる。高原の首都の周囲には、火山とその裾野のコーヒー農園という風景が広がっている。
そんな産地で今回注目したのは「コスタリカ オルティス2000」というコーヒー。サンホセの南、ドタ市サンタマリアの「グラニートス」というマイクロミルによる逸品だ。
マイクロミルとは小規模な精製所のことを指し、コスタリカでは「栽培だけでなくコーヒーの味を決める重要工程の精製も自らやりたい」という熱意ある作り手によって設立されるケースが多い。
グラニートスは、農園主オマール・カルデロンさんの次女ジョアナさんの「私が作業をぜんぶやるから」というひと言が切っ掛けでウェットミル(水洗式精製機)を導入、マイクロミルとして頭角を現した。次女・三女・四女が仕切り、若い女性だけで作業を行うという点も珍しいのだという。
オルティス2000は農園内でも最も高い2,000〜2,150mの畑で穫れたコーヒーだ。その味は華やかな香りと滑らかな質感が身上。深煎りにすると「桃を連想させる繊細な甘さとミルクチョコレートのような甘さをあわせ持ち」、品のよさが際立つ。
そんなコスタリカ発の逸品が行き着く日本のカフェを探したら、東急目黒線・西小山駅の近くに雰囲気のいい一軒が見つかった。
西小山の駅近にひっそり佇む北欧風の人気店
西小山駅と直交する立会道路を南に歩き始めてすぐ、左手に小さな間口の店がある。うっかりすると見逃しそうな店構えだが、看板には確かに「GLOBE COFFEE」の文字。ここだ、と心のなかで口にして、店の扉を引き開けた。
「西小山の静かな環境が好きですね。春は桜の名所として賑わうこの道に面した物件を探していたら、運よくここが見つかって……」
穏やかに話すのは店主の増本敏史さん。開業は2016年2月。かつて会社員をしながら週末に珈琲店で修業を重ね、自分の店を持つに至った。内装は広い白壁に、差し色となるブルーグレー。北欧風の落ち着いた雰囲気で寛げる。
「取材はオルティス2000がテーマだと聞いて、とても嬉しく思いました。お店では常々コスタリカ産が人気ですし、私自身、オルティス2000はこれまで当店で扱ったコスタリカ産のなかでも『最高』と言っていいくらいの美味しさです」
そう聞いて筆者もひと安心。増本さんは輸入元の堀口珈琲のセミナーでくだんの農園の次女ジョアナさんに直接会って、その熱意にも心打たれたという。
北欧製のカップに注がれたコーヒーを口元へ運ぶ。舌触りは滑らかで、苦味のなかに甘さが引き立つ。心地よい酸味もある。きっと多くの人が好むであろうバランスのよさ。
オルティス2000はいったん品切れになりそうだとの話だったが、取材後、「思っていたより早く入荷したので大丈夫です」との知らせが筆者に届いた。
コーヒーは農産物であり季節もの。運よく店頭で味わえたのは嬉しいし、今度は違うコスタリカ産とも比べてみたい。テーブル上のそんな「出合い」があるのも各国各地の農園からやってくるコーヒーゆえの楽しみだ。
気づけば午後の日差しが傾き始め、夕方の常連客が続々やってきた。喫茶ついでに焙煎豆を買ってゆく人、日々のルーティーンなのであろう寛ぎの時を過ごす人、「プレゼントなので」と告げて豆を頼む人……。
GLOBE COFFEEは開業4年半とは思えない落ち着いた佇まいで、駅前からすぐに住宅地が始まる閑静な西小山に溶け込んでいた。
高橋敦史
旅行媒体を中心に活動する編集ディレクター・紀行作家・写真家で、季刊雑誌『珈琲時間』編集長。移動編集社代表。温泉旅行やバックパッカーからリゾート、クルーズまであらゆる旅を撮って書く。昨今はバンライフにも目覚め、走る事務室「移動編集車」を稼働中。
GLOBE COFFEE
住所:東京都品川区小山5-25-10 平岡マンション1B
TEL:03-6426-2234
営業時間:10:30~19:30(カフェスペースは〜18:30)
定休日:火曜休 禁煙
東急目黒線西小山駅から徒歩3分
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