旅への扉

COFFEE & TRAVEL ホンジュラス 秘境の村と湘南を結ぶミッションとは?

文/高橋敦史 写真/27 COFFEE ROASTERS(産地)、高橋敦史(店舗)

中米7カ国は言わずと知れた一大コーヒー豆生産エリアで、例えばグアテマラやエルサルバドル、パナマあたりはお馴染みのはず。とはいえ「ホンジュラスのコーヒー」はコーヒー雑誌の制作に携わる筆者にとっても、これまであまり多くは聞かなかった珍しいもの。そんなホンジュラスのコーヒー豆を、湘南の人気焙煎店が独自にコンテナを仕立てて輸入しているらしい。果たしてそれはどんな味のコーヒーなのか。

 

家族経営の小さな農園が作る「マイクロロット」

いま一度地図で確かめてほしいのだが、ホンジュラスは西の国境をグアテマラとエルサルバドル、南をニカラグアと接する中米の国。国土はダイヤモンドを横から見たような形をしていて、北は広くカリブ海に面し、南はかろうじて太平洋にも開けている。

 
首都テグシガルパは金・銀鉱の基地として16世紀にスペイン人が拓いた街だ。中南米の多くの都市の例に漏れず、大航海時代のコロニアル建築が街を彩る。コーヒーは中西部や南部などの広い範囲で栽培されていて、山歩きやヨホア湖のバスフィッシングで知られるサンタ・バーバラ、ラ・パス、マルカラ、世界遺産のマヤ遺跡が残るコパン付近にも農園がある。

 
honduras

▲写真はいずれもエル・ラウレル農園で。ホンジュラスにしかない珍しいパライネマ種のコーヒー豆を水洗式で精選。家族写真左端が農園主のオスカー・ラミレスさん。

 
大規模農園が多い近隣国と異なり、ホンジュラスは家族経営の小さな農園が多いのも特徴の一つ。世界的にスペシャルティーコーヒーが認知されるにしたがって、小規模農園のコーヒー豆は、近年「マイクロロット」と呼ばれて希少性を評価されるようになってきた。

 
「たとえ小さな農園でも、とりわけ美味しいコーヒーがある」

 
そういうことに、世界中の多くのコーヒー好きが気づき始めたのかもしれない。

 
その一例が、オスカー・ラミレスさん一家が営むエル・ラウレル農園。ホンジュラスで行われたコーヒーの国際品評会「カップ・オブ・エクセレンス(COE)2017」において、初出場ながらも1位を獲得。まさに彗星のごとく現れたマイクロロットだ。

 
エル・ラウレル農園は国境に近い南部の山岳地帯にあり、急傾斜の森にへばりつくようにしてコーヒーの木が植わっている。機械も当然入らないから栽培のほとんどは手作業だ。

 

田舎村の「埋もれた生産者」が一夜にして英雄に

ニカラグア国境近くの農園

▲上/ニカラグア国境近くの農園。この写真の意味は本文で。下2点/農園の日常。右はホンジュラスのローカルフード「バリアーダ」。トルティーヤ生地に豆のペーストや炒り卵、アボカドなどをトッピング。

 
ホンジュラスのコーヒーは本当に面白い。そう教えてくれたのは、湘南・辻堂の人気自家焙煎コーヒー店「27 COFFEE ROASTERS」の葛西甲乙(こおつ)さん。

 
「作る人で味が変わるって本当なんです。個性が味に出る。考えてみれば当然ですよね、その人なりの創意工夫で栽培や精選に工夫を凝らすわけですから……」

 
葛西さんは、くだんのオスカーさんの農園も訪ね、直接取引で買い付けている。湘南の店には「オスカー・ラミレス パライネマ」として焙煎豆を置き、カフェでの提供もする。

 
国際品評会で優勝して何が変わったかと聞いたとき、オスカーさんはこう答えたそうだ。

 
「おかげで村に電気が通り、大統領がお祝いに来た」

 
「それを聞いて僕も本当に嬉しかったんですよ」。COEの審査員も務める葛西さんは、言葉を継いだ。“素朴な田舎のおじさんそのもの”のオスカーさんが丹精込めて作ったコーヒーが品評会でクオリティーを認められ、彼は借金を無事返済し、新たな設備投資をし、十分な肥料も用意できるようになった。

 
ホンジュラスのマイクロロットにはさまざまな物語がある。

 

ホンジュラスからコンテナまるごと仕入れる湘南の“コーヒー・ラボ”

27 COFFEE ROASTERSの店内

▲27 COFFEE ROASTERSの店内。試飲用のコーヒーがずらりと並ぶ。(写真は撮影のためにマスクを外しています)

 
葛西さんが営む27 COFFEE ROASTERSの店内は、まるでコーヒー研究所の様相だ。最新のマシンが惜しげもなく並び、配管が壁を伝い、豆販売スペースには20種類以上のコーヒーが常に試飲できる状態で置かれている。

 
決して大きくない郊外の店がこれほどの種類の豆を出すことも珍しいし、いつ行っても試飲できる環境も稀有。だからこの店の名はコーヒー好きの間でつとに有名だ。

 
店では、2016年からホンジュラスの豆だけでコンテナ1台を仕立てて単独輸入する「ワン・コンテナ・ミッション」を続けている。

 
「簡単に『コンテナ1台』というけれど、お店の焙煎豆8oz(226.7g)に換算すると6万6,000袋分。個人経営のロースターが、トップクオリティーの豆だけでコンテナいっぱいにするなんて、まさに夢のような話なんですよ」

 
葛西さんがホンジュラスに注力するのには理由がある。業界の縁で2008年に初めて同国を訪ね、その後いくつもの生産国を訪れた末に「やはりホンジュラスはすごい」と実感。COE国際審査員となって同国を再訪して、たくさんの個性的な農園主と彼らが作る質の高いコーヒーを目の当たりにしてきた。

 
しかも葛西さんは、あるマイクロロットを当時のCOE史上「世界最高額」で落札。

 
この出来事は焙煎店と農家、双方の未来を大きく拓いた。たとえ小さな事業規模でも熱意と努力でいいコーヒーを生み出せる。そんな流れを作り出すことができた。

 
CORNER 27

▲上2点/喫茶利用は隣接の「CORNER 27」で。オスカー・ラミレス パライネマを急冷式のアイスコーヒー(税込550円)で味わう。下2点/これほどの試飲環境が整った店は全国的にも珍しい。

 
ゆえに最近の27 COFFEE ROASTERSは「ホンジュラス推し」。複数並ぶマイクロロットは、爽やかな酸味を感じるものが多いようだ。

 
今回は「オスカー・ラミレス パライネマ」を夏らしく、氷に落とす急冷式でアイスコーヒーにしてもらった。昨今のスペシャルティーらしい新たな味わいとでもいうべきか、まるでフルーツジュースのような爽快さを持つコーヒーだった。

 
店主の葛西さん。

▲左/奥のグレーの建物が27 COFFEE ROASTERS、手前が焙煎所兼カフェのCORNER 27。右/店主の葛西さん。背後に見える巨大な焙煎機はローリングスマートロースターの35kg釜。

 
余談だが、店主の葛西さんは常々やることが大きい。地味だった往時の「かさい珈琲」をリニューアルした時も高価な機材を惜しみなく投入していたし、個人店とは思えない大きなチャレンジの「ワン・コンテナ・ミッション」もまたしかり。

 
聞けば「何も考えてないだけですよ」と笑うものの、「自分の本気度だけは見せたいから」と続ける。店の小冊子『Road to HONDURAS』にはこんな言葉も記されていた。――いつか自社だけでワン・コンテナ買って、海外ロースターと肩を並べたいと思っていた。

 
「ちょうど今、コロナ禍のホンジュラスの農家を応援すべく、クラウドファンディングでコンテナを仕立てるプロジェクトを始めました。支援してくださる方々を2020年8月9日まで募集しています」

 
小冊子の副題「小さなロースターと小さな生産者をつなぐ物語」はめでたく実現した。今後もさまざまな時代の波を越え、新たな物語を紡いでゆくに違いない。

 
高橋敦史
旅行媒体を中心に活動する編集ディレクター・紀行作家・写真家で、季刊雑誌『珈琲時間』編集長。移動編集社代表。温泉旅行やバックパッカーからリゾート、クルーズまであらゆる旅を撮って書く。昨今はバンライフにも目覚め、移動編集「車」を稼働中。

 

27 COFFEE ROASTERS brew + espresso lab
CORNER 27 coffee works

住所:神奈川県藤沢市辻堂元町5-2-24
TEL:0466-34-3364
営業時間:カフェ10:00〜17:00、豆販売は10:00〜18:00(土・日曜、祝日は9:00〜)
定休日:火曜・第3月曜 禁煙
JR東海道本線辻堂駅から徒歩約15分
クラウドファンディング参加サイトは
https://camp-fire.jp/projects/view/298096

 
 

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