旅への扉

COFFEE & TRAVEL エチオピア南部 客人をもてなすコーヒーセレモニー

文/高橋敦史 写真/永島岳志(現地風景)、Blue Bottle Coffee Japan(農園)、高橋敦史(店舗)

東アフリカのエチオピアはコーヒー好きの旅人にとって特別な思い入れのある国だ。村ごとに異なる少数民族が暮らす同国南西部は観光的なハイライトというだけでなく、世界的に名高いコーヒー豆の産地でもある。高品質豆の代名詞・アラビカ種の起源はここエチオピア付近だとされていて、エチオピアには客人をもてなす「コーヒーセレモニー」なる習慣も広く浸透している。

 

首都が標高2,300mを超える「涼しいアフリカ」

一般に、品質のよいコーヒー豆が育つ大きな要因の一つは標高の高さ。標高が高くて1日のうちの寒暖の差が大きいほど良質なコーヒー豆が穫れる。内陸国のエチオピアは首都アディス・アベバで標高約2,300m、昨今コーヒーの銘柄としても名を聞くことが増えた南部の村・イルガチェフェもおおむね標高1,800〜2,000m程度の高地にある。

 
それゆえエチオピアは、アフリカといえども思いがけず涼しい国だという印象だ。さらに「コーヒーは輸出用の高級品」という扱いが常の生産国においては少数派の、国内にもコーヒー愛飲文化が広く根づく国でもある。

 
エチオピア文化を象徴するコーヒーセレモニーは客人を歓待する儀式で、きわめて大雑把に例えれば日本の茶道のようなもの。一般家庭ではわざわざ豆を煎るところから始め、コーヒーを飲むまでに軽く1〜2時間もかけるとか。

 
まずは鉄板でじっくりと豆を煎り、煎り上がると客人の前に持って行き、香りを楽しませる。次いで杵と臼で粉にして、素焼きのポットに沸かしてあるお湯に投入。煮立てて淹れたコーヒーを客人に振る舞う。液面にはティナダムというハーブを浮かべることも。

 
ゆっくりと3杯のコーヒーを飲みながら世間話をして過ごすのが地元流。部屋にはコーヒーの香りと、炭にくべられた乳香の甘い香りが入り混じる。コーヒーセレモニーは観光の目玉でもあるのでゲストハウスなどでも体験できる。

 
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▲上/南部の村のホテルで行われたコーヒーセレモニー。左下/儀式の準備。乳香の香りがあたりに満ちる。中下・右下/首都アディス・アベバのカフェ。

 

上質なアラビカ種を栽培するイルガチェフェ村の農園

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▲左/「ブルーボトルコーヒー」が契約するイルガチェフェ村のアダメ・ゴルボタ農協。香り高いウォッシュドのコーヒー豆を作る。右2点/同じくイルガチェフェ村の農園で。

 
エチオピア産の洗練されたコーヒー豆は、世界各国の本格珈琲店へと旅立ってゆく。日本では、例えば昨今のコーヒー界における第三の波「サードウェーブ」のブームを巻き起こしたアメリカ西海岸発の「ブルーボトルコーヒー」にも、もちろんエチオピアの豆はある。

 
ブルーボトルコーヒー各店舗で扱う創業当初からの定番ブレンドの一つ「スリーアフリカズ」は、創業者として名高いジェームス・フリーマン氏が、当時出店していたファーマーズマーケットで出したのが始まりだ。その名の通り、手元にあった3種類のアフリカ産コーヒー豆を用いて明るく調和の取れたブレンドを生み出した。

 
個性はもっぱら、精製方法の異なるウォッシュド(水洗式)とナチュラル(自然乾燥)の2種類のエチオピア産の豆が担う。ウォッシュドが上品な酸味のアクセントを、ナチュラルがシロップやジャムのような甘い深みを。そしてボディを感じさせる深煎りのウガンダ産の豆が全体を取りまとめるベース。

 
昨今のブレンドは、気軽な喫茶店などに多い「常に安定した、安くて親しみやすい味を提供する」目的だけでなく、「新たな美味しさを積極的に創り出す」ことに重きを置くものが増えている。スリーアフリカズの主眼も後者。それぞれに素晴らしいコーヒー豆が、ブレンディングでさらに味わいの領域を広げてくれる。

 
また、ブレンドといえばバランスのいいブラジルやコロンビアあたりの豆が入ったものこそ馴染み深いが、アフリカ大陸の豆だけでまとめたスリーアフリカズはその点でも珍しく、名前につられ、ついつい頼みたくなってしまう。

 
今回はそんな個性的なコーヒーが日本で飲める一軒、2019年12月に誕生した「ブルーボトルコーヒー 京都六角カフェ」へと足を運んだ。

 

京都らしさがにじむ町家造りのカフェは老舗自転車店と共存

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▲上/交差点に面したブルーボトルコーヒー 京都六角カフェ。町家のよさを生かした控えめな外観も魅力だ。ひさしの上に掲げられた自転車は、同居する自転車店の看板として昔からあったもの。

 
地下鉄烏丸御池駅を出て1ブロック先の路地に入り、左手に紫雲山頂法寺、通称「六角堂」の築地塀(ついじべい)を見ながら歩くとすぐ。京都の街の日常を感じさせる交差点に面してその建物はある。内外装を控えめにリニューアルした二階建てのこの町家が、「ブルーボトルコーヒー 京都六角カフェ」だ。

 
よく見ると、南側のひさしの上に古風な自転車が1台、看板代わりにのっている。それもそのはず、ここは明治後期に創業した自転車店・辻森自転車商会の建物で、その半分を間借りするかたちでカフェが生まれた。

 
「ブルーボトルコーヒーの各店舗は、いずれも地域の魅力や建物の味わいを生かしたリノベーションをしています」

 
同社の広報担当者がそんなふうに話してくれた。

 
今でこそ世界に90軒以上あり、国内16軒目を開いたブルーボトルコーヒーだが、特徴はまさにそこ。ファンたちの「次第に店舗が画一化してゆくのではないか」との不安をよそに、どの店も街に応じたスタイルで、街の人とともに歩む姿勢を貫いている。

 
だから今回のオープニングに際しては報道陣や関係者へのお披露目だけでなく、地域住民、つまりご近所さんに集ってもらう「コミュニティーデー」も催された。そんなところも、かのジェームス氏がアメリカ西海岸の自宅ガレージに焙煎機を置いて簡素な店舗をしつらえた頃から変わらない、同社の精神なのだろう。

 
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▲左上/店のブレンドはスリーアフリカズを含めて合計3種あり、日によっては違うブレンドになる。右上・左下/カフェスペースは2階。右下/老舗の辻森自転車商会と同じ屋根の下。

 
ところで、この京都六角カフェには、ここでしか味わえない甘味もある。その名も「ブルーボトル羊羹」(税抜300円)。堀川三条の都松庵(としょうあん)とのコラボレーションで、イチジクやクルミが練り込んであり、シナモンとコリアンダーがアクセント。やわらかな口当たりに時折かすかに主張する「シャリッ」っとしたイチジクの種の食感が嬉しい。そして、利招園茶舗(りしょうえんちゃほ)の抹茶を用いた「抹茶テリーヌショコラ」(税抜300円)もここだけの味。

 
くだんのブレンド、「スリーアフリカズ」(税抜450円)はウォッシュドの豆のシトラスのような酸味がアクセントになっているだけに、こうした甘味に実によく合う。

 
個性が光るコーヒー豆がエチオピアで生まれ、特徴的なブレンドのスリーアフリカズがアメリカ西海岸のガレージで生まれ、京都の町家のカフェで飲まれる。目前のコーヒーは机上の小さな一杯なれど、広い世界とつながっていて、各国各地の物語をも含む。

 
コーヒーをめぐる旅は、かように地域文化を感じさせる旅でもある。

 
高橋敦史
旅行媒体を中心に活動する編集ディレクター・紀行作家・写真家で、季刊雑誌『珈琲時間』編集長。移動編集社代表。温泉旅行やバックパッカーからリゾート、クルーズまであらゆる旅を撮って書く。昨今はバンライフにも目覚め、移動編集「車」を購入。

 

ブルーボトルコーヒー 京都六角カフェ
電話:非公開
住所:京都府京都市中京区東洞院六角上る三文字町226-1
営業時間:9:00〜19:00
定休日:無休 禁煙
京都市営地下鉄烏丸線・東西線烏丸御池駅から徒歩7分

 
 

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