旅への扉

COFFEE & TRAVEL 小笠原 父島 希少な国産コーヒーの故郷へ

文・写真/高橋敦史

コーヒー豆は赤道付近のいわゆるコーヒーベルトが主な産地となるだけに、すべてが舶来かと思いきや、さにあらず。日本にもわずかながらコーヒー農園はある。とりわけ小笠原は歴史が古く、日本で最初にコーヒー栽培が始まった場所。東京・竹芝桟橋から南へおよそ1,000km、定期船で約24時間かけて行く「東京の亜熱帯」小笠原の父島に、希少な国産コーヒーを求めて旅立った。

 

ルーツを明治初期までさかのぼるNose’s FarmGarden

小笠原産コーヒーを語るうえで外せないのがNose’s FarmGarden(野瀬農園)だ。父島中部の森に埋もれるようにあり、トロピカルフルーツや各種植物、コーヒーの木を栽培する。

 
明治初期に小笠原に新たな作物が導入された際、そこにコーヒーの苗もあり、野瀬家もそれを譲り受けた。栽培の歴史を示すかのように、近隣には「コーヒー山」の地名が残る。

 
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▲上/Nose’s FarmGardenの野瀬もとみさん。左下/足元の土からコーヒーの木の芽が発芽していた。中下・左下/見学者自ら手で焙煎をして、できあがった貴重な一杯を森のなかで飲む。

 
第二次世界大戦中に全島民が島を離れたものの、昭和48年に4代目の野瀬昭雄さんが帰島。荒れ果てた土地で命をつなぐコーヒーの木を発見し、小笠原コーヒーを復活させた。そして今、娘のもとみさんが栽培を引き継ぎ、観光客向けのコーヒーツアーを行っている。

 
はじける笑顔が素敵な彼女に導かれ、谷あいの農園へと足を踏み入れる。品種は高品質で知られるアラビカ種のティピカ。背丈ほどの低い木が、半ば亜熱帯の森に溶け込むようにして、いくつかの場所に分かれて植わっていた。

 
「ほら、足元を見てください。コーヒーの木の芽が出ています。ウチは接木苗ではなく、本当に種から育った実生苗(みしょうなえ)を使っているんですよ」

 
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▲見慣れない植生の森に亜熱帯を実感する。Nose’s FarmGardenにて。

 
見ると、楕円(だえん)に縦線が入った見慣れた形のコーヒー豆(本当は種)を抜け殻のように纏う小さな双葉が、地面から立ち上がっていた。例年3〜5月には、運がよければ可憐な白いコーヒーの花が見られることもある。

 
ちなみに農園では、収穫期の10~11月以外でも、通年、可能な限り体験用に摘める実を残す工夫をしてくれている。ツアーでは見学者自身が実を摘んで脱殻、コンロで手焙煎した貴重な一杯を、亜熱帯の森のなかのテラス席で味わえる。

 
自ら摘んで自ら焙煎し、自ら淹れた一杯は、まさに格別。

 

父島のUSK Coffeeで珠玉のコーヒーを

父島で小笠原産のコーヒーが飲めるカフェは数軒。Nose’s FarmGardenでは基本的にツアー参加者しか、飲むことや豆の購入はできない。そんななか、ぜひ訪ねたいのがUSK Coffeeだ。

 
USKcoffee

▲左上/USK Coffeeが自家農園で育てたコーヒー、ボニンアイランド(900円)。左下/コーヒー果実のお茶・ギシル(800円)。右/キッチンはエアストリームの車内。

 
この店は、名古屋出身のバリスタで「コーヒーのすべてを自分でやりたくて」移住した山野雄介さんが家族で営む。森のなかに留め置いたヴィンテージのエアストリームをキッチンにして、目前に設えられたテラス席でコーヒーを飲ませてくれる。

 
庭には放し飼いの鶏が遊び、鳥のさえずりがこだまする。海からもそう遠くない場所にありながら、小笠原は森の恵みも素晴らしいのだと実感できる。山野さんは自家製クッキーの数々や、コーヒー果実のお茶・ギシル、コーヒーチェリーソーダなど、コーヒー農家ならではのメニューを積極的に導入。産地ならではのエピソードを聞きながら味わいたい。

 

小笠原コーヒーが東京23区内で味わえる屋外カフェ

日本のコーヒー農園の生産量は、ほぼ現地での消費分しかないのが実情だ。だから小笠原産のコーヒーも流通にはまず乗らない。ところが、父島まで行かなくても、Nose’s FarmGardenのコーヒーを味わえる店がわずかにある。

 
その一つが、東京・広尾橋交差点前の一等地に1961年式シトロエンHバンを停めて営業するカフェアパショナート広尾店。

 
カフェアパショナート

▲広尾駅前の一等地で営業するカフェアパショナート広尾店。古風なシトロエンHバンが目印だ。

 
「われわれは創業30年のシアトル発祥のコーヒーショップです。日本国内でもわずかながら優れたコーヒーが栽培されているということを広めたくて、野瀬さんが作る小笠原コーヒーを提供しています」

 
同店の清水直樹さんが話してくれた。店のメニューの多くはマシンを用いたシアトル系だが、小笠原コーヒーは1杯ずつペーパードリップ。自家焙煎して密封しておいた個包装を注文ごとに開封し、その場で挽いて抽出する念の入れよう。

 
小笠原コーヒーは広尾店や新丸ビル店など系列4店で、1日5杯限定で飲める。

 
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▲左/野瀬農園産の小笠原コーヒー。写真は100%ピュアコーヒー(税込930円)。右/小笠原コーヒーは注文ごとにペーパードリップ。

 
広尾は日本人のみならず各国の人々も多く行き交うインターナショナルな場所。見たところお客のほぼ半数は外国人で、一方、昔から地元に暮らしているのであろう散歩のご婦人も。みな、思いついたように立ち寄って屋外席で小休止する。

 
筆者も外苑西通りを見渡すソファ席に陣取って、小笠原コーヒー「100%ピュアコーヒー」を口元へ。飲み口はすっきりとした印象だ。そして後味にコーヒーらしいしっかりとした苦味が追ってくる。

 
日ごとに暖かさを感じる春。小笠原の風、そこでコーヒーを育てる人たちの顔、海も山も盛りだくさんだった旅路。それらを思い出しながら、貴重な一杯を味わった。

 
高橋敦史
旅行媒体を中心に活動する編集ディレクター・紀行作家・写真家で、季刊雑誌『珈琲時間』編集長。移動編集社代表。温泉旅行やバックパッカーからリゾート、クルーズまであらゆる旅を撮って書く。昨今はバンライフにも目覚め、移動編集「車」を購入。

 

Nose’s FarmGarden(野瀬農園)
電話:04998-2-3485
住所:東京都小笠原村父島字長谷
コーヒーツアー:10:00〜、14:00〜の1日2回、所要約2時間30分(要予約)、1人4500円(税込)。おがさわら丸入港翌日と出港日に開催(変更の可能性あり。予約時に要確認)
二見港船客待合所からバス30分農業センター前下車、徒歩5分

 

USK Coffee
電話:04998-2-2338
住所:東京都小笠原村北袋沢(小港)
営業時間:11:00〜17:00
営業日:土・日、おがさわら丸入港中に営業(臨時営業・不定休あり)
テラス内禁煙、庭のみ喫煙可
二見港船客待合所からバス約30分、自由乗降でUSK Coffee前下車すぐ

 

カフェアパショナート 広尾店
電話:080-7730-7389
住所:東京都港区南麻布4-1-12 三菱UFJ銀行前
営業時間:7:30~15:00(4月以降は~18:00)
定休日:月・水・金(土・日曜などイベント出店による臨時休業あり)。4月以降は月曜休み
禁煙
東京メトロ日比谷線広尾駅下車、徒歩約1分

 
 

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