ケープペンギンが飛ぶように水槽の中を泳いでいる。その奥には、どこまでも続く青い空と、都心のビル群。世界に水族館は数あるけれど、こんな風景が見られる場所は、ほかにはないだろう。
地上約40mのビルの屋上にある「サンシャイン水族館」。2011年と2017年の大規模リニューアルを機に飛躍的に来場者数を伸ばした同館の目玉の一つが「天空のペンギン」だ。大きくオーバーハングした幅約12mの水槽をペンギンたちが舞うこの展示は、空やビルを借景とすることで水槽内に不思議なランドスケープを描く。
「当館はビルの屋上にあるため、使用できる水量や敷地面積、周囲の景観などに多くの制約があります。水族館にとっては弱点ともいえるこれらの制約をストロングポイントと捉え、“屋上だからできる”展示を追求しています」とは、同館広報の大浦優紀さん。
屋外エリアには、高さ約2mのドーナツ型水槽をアシカが泳ぐ「サンシャインアクアリング」などの見所も点在。心地よい風が吹き抜ける環境で、今日も生き物たちがのびのびと過ごしている。
目次
水中世界に漂うような
太陽が降り注ぐ屋外エリアを抜けて屋内エリアに足を踏み入れると、そこにはひんやりとした青の世界が待っている。色鮮やかな魚やサンゴがゆらめく「サンゴ礁の海」や無数のマイワシが回遊する「生命の躍動」などの美しい展示が続くが、誰もが足を止めてしまうのが、同館最大の水槽となる「サンシャインラグーン」だ。
水量240tという規模は、現代の大規模水槽としては決して大きくはないが、「サンシャインラグーン」では、細かな照明のコントロールやおにぎり型に設計された独特の水槽形状など、細部にこだわることで、どこまでも続くような水中世界の奥行きを表現。エイや熱帯の魚が白砂の海を回遊する光景を前にすると、思わずビルの中にいることを忘れてしまう。
「『サンシャインラグーン』の前に設置された観賞用の椅子に座って、ぼ〜っと水槽を眺めている女性のお客さまも多いですね。目の前の水中世界に没入する感覚を楽しんでいただければ」と大浦さん。
2020年7月には、新たな展示エリアとなる「海月空感(くうかん)」も登場。視界一面にミズクラゲが舞う幅約14mの大水槽など、独特の浮遊感と没入感を体験できる新たな名物となりそうだ。
涼し気な水中世界に心やすらぐ「サンシャイン水族館」は、夏にこそ訪れたい都会のオアシスだ。
サンシャイン水族館
住所:東京都豊島区東池袋3-1 サンシャインシティ ワールドインポートマートビル 屋上
アクセス:羽田空港から車で約30分
営業時間:9:30~21:00
休日:なし
URL:https://sunshinecity.jp/aquarium/
“水塊”を楽しむ大人のための水族館
小さな島国にもかかわらず、100を優に超える水族館が点在する日本は、世界有数の“水族館大国”。水族館プロデューサーとして日本の水族館シーンを見続けてきた中村元(はじめ)さんは、「大人が楽しめる施設が増えたこと」が、近年の水族館人気を支える大きな要因だと分析する。
「かつての水族館は、子どものための教育施設という側面が大きく、動物園の水中版と考えられていました。動物園の主役がゾウやキリンであるように、水族館はサメやイルカを観察するための場所だったのです。ところが、バブル期以降に擬岩や擬サンゴの技術が発展し、水槽の大型化も加速したことから、水中の環境を精巧に作り込めるようになっていく。主役が動物から“水中世界そのもの”にシフトしてきたことで、水族館は大人も楽しめる場所へと進化してきたのです」
水族館に広がる “水中世界”は、安全に楽しめる非日常の空間。ひんやりと涼しく美しい青の世界に浸ることで、心身ともにリフレッシュできることが、大人たちを惹きつける要因なのだという。
「水中世界を感じてもらうためには、海の広がりや青さ、光のゆらめき、浮遊感などをきちんと表現することが大切です。例えば『サンシャイン水族館』の『天空のペンギン』で空を借景にしたのは、どこまでも広がる奥行きを感じてほしかったから。また、ミズクラゲが舞う水槽から目が離せなくなるのは、そこに水中世界の浮遊感を感じられるからです」
水中にいるような感覚をリアルに味わえる展示のことを、中村さんは“水塊(すいかい)”と表現する。
「僕が大切にしているのは、自分が心を動かされた水中の景色を、そのまま塊にして持ってくること。太陽の光が差し込むサンゴの海や、滝壺の下から眺める川の流れを水槽の中に再現し、さらにその奥に本来あるはずの自然環境や生命まで感じてもらう。そんな展示を目指しています。日本には“水塊”を楽しめる魅力的な施設が数多くあるので、この夏はぜひ水族館に足を運んでほしいですね」
中村元
水族館プロデューサー。サンシャイン水族館や広島県のマリホ水族館のほか、国内外の水族館のリニューアルを手がける。
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