とっておきの話

定時運航と環境に優しいフライト【キャプテンの航空教室】

文/戸塚 和宏 イラスト/高橋 潤

いつもJALグループの翼をご利用いただき、ありがとうございます。ジェット機が飛行する高度は約1万m。機内からは澄み渡ってきれいに見える冬の空ですが、冬場のその高度付近では強いジェット気流が西から東へと吹いています。風速は時速250kmを超える日もあり、正面から風を受けると飛行機の進む対地速度が遅くなるので飛行時間も長くなってしまいます。

 
そこで季節に応じて、過去実績を基にした定時運航が可能なダイヤ(時刻表)を設定しています。例えば、東京(羽田)発福岡行の場合、夏と冬でダイヤが10分程度異なります。しかし、ジェット気流の位置や強さは毎日変化するため、計画ダイヤと日々の運航時間には若干の差異が必ず発生します。そこでパイロットは定時運航を守るべくいろいろと考えますが、最も悩ましいのは巡航高度の選択です。

 
通常、航空機は空気の薄い、高い高度を飛ぶことで消費燃料を抑えています。一方、冬場の場合、向かい風が弱い、通常飛ぶときよりも低い高度を飛行すると対地速度を上げることが可能となり、飛行時間を短縮できる場合もあります。しかし低い高度を飛ぶため消費燃料が増え、結果として環境負荷も増大することになります。5分の遅れを取り戻すために大型機の場合で消費燃料が約600ℓ増となり、これはCO₂排出量に換算すると約1,500kgの環境負荷に相当します。

 
そこでJALグループでは環境に配慮した運航を促進すべく、今年度の冬期ダイヤより、過去実績に基づいて算出した理論値に対して、さらに運航時間を5分延伸する取り組みを一部の便で実施しています。この5分は我々パイロットに、巡航高度選択における柔軟性を持たせてくれます。日々変化するジェット気流を相手にしながらも定時運航確保に対する時間的余裕を持てることになるので、環境に配慮した高度、速度を選択する機会を増やせるようになるのです。

 
JALグループの仲間たちが最高のバトンタッチを繰り返しながら、全力を尽くして仕事にあたるところから始まり、お客さまのご協力により実現できる定時運航。お客さまからいただいた時間を大切にしながら丁寧に活用させていただくことで、定時運航を守りながらも、できる限り環境に優しいフライトが実現できるよう心掛けています。

 
皆さま、いつも定時運航と、環境に優しいフライトへのご理解、ご協力ありがとうございます。

 

戸塚 和宏 Totsuka Kazuhiro
JAL
ボーイング737-800型機 機長
出身地:神奈川県
趣味・特技:愛犬との散歩
座右の銘:転ばぬ先の杖

 

(SKYWARD2023年1月号掲載)
※記載の情報は2023年1月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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