半島彩発見

【宇土天草半島】蒼海に連なる島々を橋が結ぶ、変化に富んだ半島へ

文/大沼聡子 撮影/大泉省吾

「天草パールライン」を駆け抜けて

宇土天草(うとあまくさ)半島は、変化に富んだ半島だ。熊本県の南西部にある宇土半島部と、その先に連なる天草島しょ部からなり、それぞれに異なる文化や暮らしがある。東と南は八代海(やつしろかい)、北は有明海に面しており、西は東シナ海が広がり、海の表情も実に多彩だ。

 
宇土半島と天草の島々は「天草五橋(ごきょう)」と呼ばれる5つの橋によって結ばれ、くるくると変わる風景が面白い。国道266号上にある「天草パールライン」を駆け抜ければ、雲仙天草国立公園の絶景を眺めることもでき、ドライブしながら豊かな自然を満喫できる。島々が数珠つなぎになっている、この半島ならではの旅を楽しもう。

 

目の前で跳ね回るイルカに会いに

▲船に乗れば、イルカの姿をこんなに近くで! ©道の駅 天草市 イルカセンター

 
熊本空港から車を走らせること、2時間半。宇土天草半島を縦断して辿りついたのは半島の北西部、天草下島(しもしま)にある「道の駅 天草市 イルカセンター」。この旅で真っ先に会いたかったのは、愛らしいイルカ! 温暖な気候の天草諸島周辺の海には、「ミナミハンドウイルカ」という種類のイルカが一年中、群れで生活しているのだ。

 
この道の駅では、船でイルカの群れがいる場所へ連れて行ってくれる「イルカウォッチング」を一日5回、実施している(乗船料金は、中学生以上の大人3,000円。令和7年4月1日より環境保護費500円が加算される予定)。太陽の光を受けてきらめく天草の海に漕ぎ出せば、そこは天然の水族館。手が届きそうな近さで、いきいきと跳ね回るイルカに感動する。

 

▲天草市イルカウォッチング総合案内所の皆さん。イルカのことならなんでも聞いてみて!

 
「天草には約200頭の野生のイルカが生息するといわれています。エサとなる魚が豊富なので、とても暮らしやすい場所なんでしょうね。それぞれに特徴があって、名前もついているんですよ。たとえば、体にブチのある子はアニメのキャラクターにちなんで“タンジロウ”と呼ばれています」

 
そう教えてくれたのは同センター内の「天草市イルカウォッチング総合案内所」のスタッフ、柳原宏司さん。イルカは特に背びれの形に個性があるので、じっくり観察すれば専門家でなくても見分けることができるのだそう。

 
同センターには他にも、イルカについてより詳しくなれる展示が充実している。万が一、悪天候のために出航できない場合も、VR映像でイルカウォッチングを体験できるので、ぜひ訪れてほしい。

 

▲上/イルカがトレードマークの道の駅。天草の名産品も買える。下/イルカについて学べる展示も盛りだくさん。

▲左/イルカがトレードマークの道の駅。天草の名産品も買える。右/イルカについて学べる展示も盛りだくさん。

 

道の駅 天草市 イルカセンター
住所:熊本県天草市五和町二江4689-20
電話:0969-33-1600
URL:https://www.amakusa-dolphin.jp/kiji003149

 

「天草大王」を使ったラーメンとちゃんぽんを堪能

▲「天草大王ラーメンセット」。セットに付くから揚げは、衣にサバ節が使われており、白いご飯と相性抜群!

 
天草下島にはもうひとつ、山の中にもユニークな道の駅がある。2021年、廃校となった小学校の校舎を利用してつくられた「道の駅 宮地岳(みやじだけ)かかしの里」だ。その名の通り、施設のあちこちをにぎわせているのは、地元の人々がつくった愛嬌たっぷりのかかしたち!

 

▲小学校の懐かしい趣をいかした道の駅 宮地岳かかしの里。

 
さて、そんな個性的な道の駅のお目当ては、この施設に出店している「苓州屋(れいしゅうや)」が提供する「天草大王ラーメン」と「天草ちゃんぽん」。いずれも「天草大王」という地鶏を使った、この地ならではの味だ。

 
一番人気の天草大王ラーメンは、天草大王の鶏ガラと豚骨からとる濃厚な白濁スープにストレートの中細麺。天草大王の鶏むねチャーシューがトッピングされていて、地鶏のおいしさを満喫できる一杯だ。焦がしニンニクをペースト状にした“黒マー油”も熊本ラーメンならでは。香ばしさがアクセントとなって、後を引く味わいなのだ。

 
“日本三大ちゃんぽん”のひとつといわれる天草ちゃんぽんは、長崎ちゃんぽんのソフトな麺と比べると、しっかりコシのある太麺が特徴。ラーメンと同じく、天草大王の鶏ガラと豚骨でとるスープがベースとなっているが、上にはキャベツやキクラゲ、カマボコなどを炒めた具材がたっぷり!

 

▲炒めた具材がたっぷり! 「天草ちゃんぽん」は火曜限定で提供されるメニュー。

 
「ベースのスープは同じでも、ちゃんぽんは野菜から出る旨味もプラスされるので、ラーメンとは全然味が違うんです。この道の駅では、スープと麺のセットも販売しているので、ぜひ家庭でつくってみてほしいですね」

 
こう話すのは、苓州屋の店主であり、道の駅の運営も担う中西英雄さん。聞けばなんと、この小学校に通っていた卒業生なのだそう。「道の駅から発信して、地元を盛り上げたい」という熱い心を持つ、生粋の天草育ちだ。

 

▲かつての教室に展示されたかかしの生徒に囲まれる、中西英雄さん。後ろにはくまモンのかかしも!

 
施設の2階は、かかしの生徒たちでにぎわう教室や、天草の昔の結婚式の様子をかかしで再現した展示などもあり、この地の伝統文化や暮らしについても知ることができる。おいしい麺料理と共に、手づくりの温かさや懐かしさを楽しんでほしい。

 

▲ラーメンやちゃんぽん、サバ節を使ったから揚げの素は、お土産としても購入できる。

 

道の駅 宮地岳かかしの里
住所:熊本県天草市宮地岳5516-1
電話:0969-28-0384
URL:https://kakashinosato.jp/

 

山海の恵みを存分に味わえる“天草フレンチ”

▲コースで提供される前菜のプレート。地元の磁器の窯元「器峰(きぼう)窯」に特注した器を使い、天草の食材の魅力を伝える。

 
きらめく海に心を躍らせ、緑豊かな山の澄んだ空気に癒やされ、さあ夜はどこで食事をしようか。魚も肉も野菜も、天草ならではのおいしいものを食べたい。そんな欲張りな旅人は、天草市の中心街にあるフランス料理店「Picasso(ピカソ)」を訪れてほしい。

 
腕を振るうのは、天草で生まれ育ったオーナーシェフの松田悠佑(ゆうすけ)さん。名古屋の老舗フランス料理店で7年ほど研鑽を積み、再び地元へ。亡きお祖父さまが洋食店を営んでいた建物を改装して新たな風を吹き込み、平成28(2016)年にレストランとしてよみがえらせた。

 
“カジュアルなフランス料理”を掲げるが、一皿一皿が目でも味わいたい繊細な美しさだ。5,500円(税込)のコースは、前菜として天草の季節の食材を使った小さな料理7~8品を盛り合わせにして提供される。この日は、軽くスモークした天草産ハガツオに近隣の苓北町(れいほくまち)産セイロンウリのソースを添えたものや、地元ではおなじみのヒメジ科の魚“オジサン”のキッシュ、ブランド豚“天草プレミアムポーク”のパテドカンパーニュなど、天草の食材がぎっしり。世界遺産の﨑津(さきつ)集落にある教会のステンドグラスをイメージした、野菜のゼリー寄せも華やかさを添える。

 

▲天草育ちの黒毛和牛のランプステーキ。付け合わせは苓北町産のレンコンやサツマイモなどの根菜類。

 
「天草は海産物で知られていますが、畜産も盛んな地域。ぜひ肉料理も味わってほしいんです」と話す松田シェフ。この日のメインは、天草育ちの黒毛和牛のランプステーキ。牛すじのだしと黒トリュフの濃厚なソースは、絶妙な火入れの肉だけでなく、付け合わせの根菜のソテーにもよく合う。

 
年齢を問わず楽しんでもらえるように、カトラリーは箸も揃える。そして、テーブルを彩るカトラリーレストにも、松田シェフの想いが詰まっていた。

 

▲上/「天草の食材の豊かさを伝えたい」と話す松田悠佑シェフ(写真左)。下/ステンドグラスは新たな姿となって、店の歴史を紡いでいる。

▲左/「天草の食材の豊かさを伝えたい」と話す松田悠佑シェフ(写真左)。右/ステンドグラスは新たな姿となって、店の歴史を紡いでいる。

 
「レストランを開くとき、祖父の洋食店の内装をできるだけいかして改装したんですが、撤去した仕切り部分のステンドグラスがどうしても捨てられなくて。それで、ガラス工房に依頼して断裁して加工してもらい、こうして使っているんです」

 
そんなあたたかさが溢れるこの店には地元のファンも多く、週に2、3回訪れるという常連も。ワインと共に天草の恵みを味わい、ゆったりとした時間を過ごしてみてはどうだろう。

 

Picasso
住所:熊本県天草市南新町3-8
電話:0969-66-9595
URL:https://picasso2014.com

 

海中に鳥居が浮かぶ「永尾剱神社」へ

▲天候や時間によって、多彩な表情が見られるのも「永尾剱神社」の魅力だ。

 
雲の隙間からこぼれる太陽の光を受け、きらめく水面に神々しく立つ海中鳥居。この神秘的な風景を見るために、ぜひ足を運んでほしいのが、宇土天草半島の八代海側にひっそりと佇む「永尾剱(えいのおつるぎ)神社」だ。真夏の夜の海に美しい無数の光が連なる「不知火(しらぬい)現象」の観望地として、国指定名勝にもなっている。

 
創建は、和銅6(713)年。伝承では、ご祭神である海童神(わだつみのかみ)を乗せた巨大なエイが半島を乗り越えようとして陸に上がったが、そのままこの地に鎮座したため、一帯が「永尾(えいのお)」と呼ばれるようになったのだという。さらに、エイの尾にあたる部分に神社が造られ、それが剱の形状をしていたことから、永尾剱神社という名がついたと伝えられている。ちなみに、この神社は胃腸病をはじめとする病気平癒にご利益があるともいわれ、多くの参拝客に親しまれてきた。

 
この神社を訪れるならまず、潮の満ち引きを調べておくのがおすすめだ。鳥居が海に浮かぶ風景を見るには、満潮の前後を狙うといい。一方で、干潮時は鳥居まで歩いて近づき、参拝できるのもまた魅力的だ。

 

▲「永尾劔神社」の拝殿。参拝客はお守りをいただいたり、おみくじを引いたりもできる。

 
鳥居近くには拝殿が設けられており、初穂料(200円)を納めることで、エイの形の折り紙(環境にやさしい無公害の植物性エコペーパーで、海水に溶ける)をいただくことができる。願いごとを書いて、引き潮の時に鳥居の下に沈めてお供えすれば、海童神がきっと願いを聞き入れてくれるに違いない。

 

▲干潮時は鳥居の下まで歩いて渡り、願いごとを書いたエイの折り紙を沈めることができる。

 

永尾剱神社
住所:熊本県宇城市不知火町永尾658
電話:080-4690-6725
URL:https://www.instagram.com/einootsurugijinjya

 

ご飯がすすむ「にんにくみそ」をお土産に

▲ご飯に合うと人気の「にんにくみそ」(写真右)。和三盆を使用した「阿波屋プレミアムにんにくみそ」は、やわらかな甘さ。

 
旅の最後に訪れたのは、味噌や醤油、酢の老舗メーカー「松合(まつあい)食品」の本社工場に併設されている直売所。創業190年余りの歴史を持つ同社は「日本の農業を守ろう」というモットーのもと、味噌には全て熊本産大豆、九州産麦、九州産米を100%使用。他の商品も可能な限り、栽培期間中は農薬・化学肥料を使わずに育てた大豆・麦・米を使用するなど、伝統的な製法で誠実な調味料を造り続けてきた老舗だ。

 
店内に足を踏み入れると、ずらりと並んだ味噌や醤油商品は50種類以上。多彩な製法の醤油をテイスティングできたり、野菜たっぷりの手づくり味噌汁や醤油をブレンドしたソフトクリームが味わえたりと、同社が造る醤油や味噌のおいしさを実感できるスポットにもなっている。

 

▲本社工場に併設されている直売所。醤油・味噌の多彩な商品がずらりと並ぶ。

 
多彩な商品の中で最近、地元の人々からも人気を集めているのが「にんにくみそ」だ。ベースとなるのは、阿蘇産大豆を使った米麹・麦麹のあわせ味噌。これに、自社農場で育てたニンニクを粗く刻んでたっぷり加え、砂糖や熊本の赤酒を加えて炊いてつくられる。甘味とコクのある味噌は、白いご飯にのっけてよし、キャベツやキュウリなどの生野菜にディップしてよし、回鍋肉などの炒め物の味つけにもよし! 使い道も万能だ。

 
「からだに良い味噌をもっと家庭に取り入れていただきたいと思い、開発しました。私のおすすめは焼きおにぎり。にんにくみそに少しオリーブオイルを混ぜてから塗って焼くと、焦げにくくて風味もいいのでおすすめですよ」と教えてくれたのは、案内してくれた常務取締役、大橋旭(あきら)さんだ。

 
さて、この直売所では事前に申し込めば、工場見学もできる。この地域ならではの麦麹を使った味噌造りや、地域で資源を循環させる醤油造りの工程は実に興味深い。直売所の入り口に掲げられた「医食同源」を実感しながら、宇土天草半島ならではの味に親しみ、旅のお土産を探してみてはどうだろう。

 

▲上/工場見学で見せてもらった、熟成中の醤油もろみ。下/同社の味噌造りを説明してくれた大橋旭さん。工場内は麹のいい香り!

▲左/工場見学で見せてもらった、熟成中の醤油もろみ。右/同社の味噌造りを説明してくれた大橋旭さん。工場内は麹のいい香り!

 

松合食品本社直売所
住所:熊本県宇城市不知火町松合1999
電話:0964-42-2212
URL:https://www.matsuai.co.jp

 

自然が育んだ素朴な魅力を心に刻んで

島々が織りなす海の絶景、野生の生き物たち、宇土天草半島が育んだ食材をいかした美味の数々。この半島には、自然がもたらす素朴な魅力が凝縮している。たくさんの島々を抱く表情が豊かな海岸線を、ただドライブしているだけでも飽きることがない。一度訪れればきっと、忘れられない旅の記憶が心に刻まれるはずだ。

 
※掲載施設の情報は変更されていることがあります。お訪ねの際はあらかじめご確認ください。

 

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