旅の+one

「Hôtel Costes Vol. 4 (Quatre)」Stéphane Pompougnac【@TRAVEL MUSIC】

撮影/安永ケンタウロス イラスト/俵拓也

呼び覚まされるパリの匂い

漆黒のフロアで存在感を放つモデル風スタッフ、最小限の明かりに照らされるロココ様式のインテリア、そしてそこに居る客までもが一体となって、今この瞬間、世界で一番イケてる空間であるかのように錯覚させる場所。それがフランス・パリにある「Hôtel Costes(ホテル・コスト)」である。筆者もその空間の持つ魔法にどっぷりとヤラれてしまい、パリに住みたいと本気で考え家賃まで調べてしまう始末。そんな空間、Hôtel CostesでレジデントDJを務めていたステファン・ポンポニャックが、同ホテルをイメージして楽曲をセレクトしたコンピレーション・シリーズのなかから『Hôtel Costes 4』を紹介したい。

 
ポンポニャックを一気に有名人にした本シリーズは、日本でもラウンジ~ハウスの中間くらいの音楽を一気にメジャーにしてくれた。そしてCDのなかで綴られていく、甘美で官能的な幾多の音楽は、当時20代前半だった筆者が未だ見ぬパリへの想いを募らせるのに必要十分であった。数あるシリーズ作品のなかであえて「4」をセレクトした理由はただ一つ。ゴタン・プロジェクトの「Época」が収録されているという点。この楽曲が個人的に大好きなのもさることながら、何度かパリに足を運んだ今でも、この曲を聴くとパリの街並みや人々の臨場感みたいなものが蘇る気がするのだ。そしてHôtel Costesのあの景色。傍らにはブルゴーニュ特級畑のピノ・ノワール。そこにマリアージュする空気と匂い。そのすべてを表現してくれるような1枚のCD。ここに書いたすべてが筆者にとって愛すべきものであり、これからも愛し続けていくであろうものである。

 
しかしふと冷静になってみると、なんともキザっぽい字面が並んでいるではないか。そう、心の奥にある日本男児的価値観と、筆者の愛するものが、どうも綱引きしてしまう。えも言われぬこの気恥ずかしさが、日本とパリの物理的距離を今日も感じさせるのだ。

 

『Hôtel Costes 4(quatre)』
Stéphane Pompougnac
インポート盤 参考価格:1970円(税込み)

 
 
田中隼人
たなか はやと/agehasprings所属。クラブサウンド×J-POPのバランスが特徴のサウンドデザインと、美しいメロディーが真骨頂の音楽クリエイター。伊藤由奈
「Precious」の作曲や、DAOKO×米津玄師「打上花火」の編曲を共同で手がけるほか、テレビ、ラジオ、雑誌などのメディアでも活躍。

 

(SKYWARD2019年5月号掲載)
※記載の情報は2019年5月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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