とっておきの話

パイロットが考えるSDGsとD&I【キャプテンの航空教室】

文/野口佳秀 イラスト/高橋潤

最新鋭機エアバスA350型機のエンジンカウルにもロゴが描かれている「SDGs」*1。航空業界においてのSDGsというと、真っ先に思い浮かぶのが「環境対策」です。

 
JALグループでは、数十年前から機体に観測装置を載せ、高い高度における大気の数値データや環境変化に関わる情報などを関係各所に提供しています。「CO₂排出量削減」の取り組みとして、省燃費機材への更新やバイオジェット燃料の開発促進と活用、排出量取引への対応を推進し、運航ポリシーにのっとり、燃料消費削減や騒音軽減に努めています。

 
また、パイロットが実践できるSDGsについても考えるようになりました。SDGsには「誰一人取り残さない」という理念が根底にあります。つまり「D&I(Diversity & Inclusion)」、多様性と包摂性の視点です。これらの視点でJALグループのパイロットの活動を振り返ってみると、意外にも当てはまる目標がいくつもあることに気付きました。

 
例えば、コロナ禍における減便の影響でフライトが激減したとき、リンゴ農家では、収穫時期に人を集められず、このままではリンゴを廃棄することになるという課題がありました。それを耳にしたパイロットが仲間に声を掛け、地元自治体とともに収穫のお手伝いをしました。社内ではこの活動を『空リン』と呼んでいます。

 
この活動をSDGs目線でみると、「働きがいも経済成長も」「住み続けられるまちづくりを」「パートナーシップで目標を達成しよう」などに当てはまるのではないでしょうか。今後もこのような活動を広げていきたいと考えています。

 
しかし、「ジェンダー平等を実現しよう」の観点からは課題が残ります。パイロットを目指す女性は増えているものの、まだまだ男性が多い状況です。私たちも、パイロットという仕事の素晴らしさをもっと広く伝え、今後も女性のライフイベントなどについての男性パイロットの理解を深めていく必要があります。

 
また、「働きがいも経済成長も」の視点で考えると、パイロットは多くの渡航や深夜・早朝の勤務、時差などの不規則な生活から、大きな負担を抱えることもあります。航空会社にとって運航維持に直結するパイロット人財の確保も、持続可能でなくてはなりません。

 
昨今、学校でもSDGsに関する教育が行われ、近い将来、SDGsに沿った社会が当たり前になっていると考えられます。JALグループでも『D&Iラボ』*2といった社内活動を通じ、「『Sustain-able(持続可能)なJAL』にするため必要なモノは何か」を考えています。若手の副操縦士もフライトの合間を縫って積極的に参加してくれて頼もしいです。皆さんも自分目線でSDGsを考えてみませんか?

 

*1 環境・人権・経済活動などの分野において17のゴール、169のターゲットから構成された2030年までに達成を目指す国際目標。
*2 職種や部門の異なるメンバーが集い、D&Iについて自律的に考える取り組み。

 

野口佳秀 Yoshihide Noguchi
JAL
ボーイング737型機 機長
出身地:大阪府
趣味・特技:野球、バイク
座右の銘:師は自然にあり

 

(SKYWARD2021年9月号掲載)
※記載の情報は2021年9月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 
 

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