子どもの頃、飛行機が好きだった私は、空港で搭乗までの待ち時間、ガラス越しに飛行機をよく眺めていました。大きな空港では、飛行機がちょうど自分のいるターミナル側を向いていることが多く、出発準備をするパイロットの方たちの姿を間近に見ることができました。出発時刻になり、ターミナルから離れていく飛行機に手を振ると、パイロットの方たちが真っ白な手袋をした手を何度も振り返してくれました。今では私もこの職業に就きましたが、当時のことが私のなかでとても深く印象に残っています。
ある忘れられないエピソードがあります。私がまだ副操縦士になったばかりの頃、大阪国際(伊丹)空港から隠岐空港までの便の操縦を担当させてもらった時のことです。目的地の隠岐空港に着いた時、最後の方に降りられているお客さまが、客室乗務員と何やら話をされているのが聞こえてきました。気になって耳を澄ましてみたのですが、その時は何をお話しされているかまではコックピットではほとんど聞き取れませんでした。しかし、外を見てみると、とても満足そうなお顔をされたご年輩の女性が、ターミナルの方へ歩いて行かれる姿が見えました。操縦室のドアが開くと、客室乗務員から、「最後に降りられたお客さまが、『着陸前に素晴らしい景色を見せてくださってありがとう、ってパイロットさんに伝えてください』って言っていましたよ」と告げられました。私はとても驚き、感動しました。私は決められた経路に沿って飛行しただけなのに、まさかお礼を言われるなんて。本来私たちがお伝えすべき「ありがとう」の感謝の言葉を、逆にお客さまからいただけるとは思っていなかったからです。
その後、今日までに「着陸が上手でしたよ」「天気が悪いのに、無事着いてくれてありがとう」「アナウンスが丁寧で、わかりやすかったですよ」などのお言葉もいただきました。お客さまを安全に目的地までお連れすることは、航空会社で働く社員として当たり前のことです。その当たり前のことに対して感謝やお褒めの言葉をいただく度に、とても幸せな気持ちになります。本当にありがとうございます。
今日も、ご搭乗いただいたお客さまに快適な空の旅を楽しんでいただくために、パイロットとしてできることを精いっぱい努めます。そして、当たり前のことだけではなく、何かしらの感動を皆さまにお届けできればと思います。
それではまずはここから。感謝の気持ちを込めて、ご挨拶を申し上げます。
須藤宏朗 Hiroaki Sudo
日本エアコミューター DHC8-Q400型機機長
出身地:栃木県
趣味:ランニング
座右の銘:「初心忘るべからず」
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