とっておきの話

南イタリア(カンパニア州)の“地獄谷”【ヤマザキマリの世界逍遥録】

文・イラスト/ヤマザキマリ

火山列島日本にも点在する “地獄”と称される地熱地帯。ごつごつとした岩肌と辺りに漂う硫黄の臭い、そして近寄れば火傷必至の高温の湯気や源泉があちらこちらから噴出し、煮えたぎる地表下の世界へ人々が抱いてきた妄想は、古今東西を問わずそっくりです。

 
日本と同じ火山国であるイタリアにもこうした地熱地帯はいくつか存在しますが、なかでも有名なのがナポリ近郊にあるカルデラ盆地フレグレイ平野のソルファタラ火口でしょう。そもそも“フレグレイ”という言葉は、古代ギリシャ語で“燃える”という意味を指します。そのフレグレイ平野にある南イタリア版“地獄谷”ことソルファタラは、古代ローマ時代にはまさに“地獄への入り口”と呼ばれていました。地球は生きる快適さを与えてくれることもあれば、時として平和な暮らしを脅かす容赦のなさも備えている、人々の抱くそんな畏怖の念と、神による制裁の場である“地獄”は同一視されていたのでしょう。

 
私はナポリへ行くと、このソルファタラまで足を延ばします。フレグレイ平野には温泉が楽しめる素敵な施設も沢山ありますが、私はそういったお洒落な場所よりも、硫黄の臭いに満ち、地下の熱が湯気や温かい岩盤を通じて実感できるソルファタラでの散歩を選びます。故郷日本の懐かしくも大好きな温泉地を思い出せますし、温かい岩盤には触れているだけで癒やしの効果もあります。“地獄への入り口”と恐れられても、同時に温泉という恩恵にもあずかれるこの場所では、人間と地球との切っても切れない密接な関係をじんわり感じさせられるのです。

 
以前、このソルファタラの側に暮らしているお爺さんにインタビューをしたところ「火山は私の人生の一部分。この硫黄の臭いも私の一部分」と笑顔で返事がありました。こういう方には火山国に暮らす仲間としても、ぜひ日本の素晴らしい地獄谷の数々も見ていただきたいものです。

 
やまざき まり
漫画家・随筆家。17歳でイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で油絵・美術史を学んだのち、1997年に漫画家としてデビュー。2010年に『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。平成27年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章「コメンダトーレ」受章。

 

(SKYWARD2018年5月号掲載)
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