とっておきの話

ケベック 真冬の川【ヤマザキマリの世界逍遥録】

文・イラスト/ヤマザキマリ

それまでカナダという国に特別な興味を持つことがなかったのは、おそらく冬の寒さが厳しい北海道で幼少期を過ごしたからかもしれません。しかし今から20年ほど前、仕事で滞在していた米国マサチューセッツ州の小さな街に暮らす友人から、カナダの東部には独特な歴史と趣があると聞き、思い切って車でケベック・シティまで行ってみることにしました。

 
季節は冬の真っ只中、頭の先から足の先までしっかり防寒をして、北へ向かう吹雪の針葉樹の森の道で鹿の群れと遭遇しながら、やっとのことで辿り着いたケベック・シティの気温はなんとマイナス30度弱。北海道でも寒い経験はしていますが、鼻の中も眼球すらも凍りつきそうな感覚に、古の入植者たちの根性と勇気を感じずにはいられませんでした。

 
ケベック・シティは北米では最も古い歴史がある城郭都市ですが、1608年にフランスの地理学者サミュエル・ド・シャンプランが入植した際に小さな砦を築き、その後毛皮の交易を中心とした商業都市へと発展していきます。既にその頃から存在し、北米で最も古い繁華街といわれるプチ・シャンプラン地区はまるでフランスの小都市のよう。

 
ヨーロッパとアメリカ大陸をつないだ歴史に思いを馳せつつ、州の公用語であるフランス語での会話が飛び交う小径の散策にすっかり夢中になってしまいました。

 
そして何より圧巻だったのは、北米の五大湖と大西洋を結ぶ壮大なセントローレンス川を漂う流氷です。そのダイナミックな自然に触れて、あらためてこの地へ移り住んだ古の人々の生命力には感服するばかり。

 
確かに寒くはあるけれど、それはこうした大自然が人間よりも優位な場所に来なければ得られなかった感動と言えるでしょう。流氷の流れる川の傍らに毅然と佇むケベック・シティは、まさに逞しき都市なのです。

 
やまざき まり
漫画家・文筆家。東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に『プリニウス』(とり・みきと共著)、『オリンピア・キュクロス』『国境のない生き方』『ヴィオラ母さん』『パンデミックの文明論』(中野信子と共著)、『たちどまって考える』など。

 

(SKYWARD2021年2月号掲載)
※記載の情報は2021年2月現在のものであり、実際の情報とは異なる場合がございます。掲載された内容による損害等については、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

 

『ヤマザキマリの世界逍遥録』が待望の単行本化!

 
JALグループ機内誌『SKYWARD』に大好評連載中の「ヤマザキマリの世界逍遥録」より、2018年5月号~2020年10月号に掲載された30編を収録。ヨーロッパ、中東、アジア、アメリカ、南米……世界を旅するヤマザキさんならではの、独自の視点で捉えた各地の魅力をイラストとともに綴っています。さらに特別編として、JALカード会員誌『AGORA』2019年7月号、8・9月号に掲載の、タイ・チェンマイ~チェンセーン~チェンライ周辺を巡った「タイ北部紀行」前後編も併せて収録。

 

定価:1,430円(税込)
発行日:2021年3月31日
サイズ:四六判(天地:188mm/左右:128mm)
総ページ数:176ページ

 
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